コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
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第229回/ジョニー・ハモンド・スミスのオルガンに射貫かれた7月[田中伊佐資]
●7月×日/バンド名「12本の弦と5人の男」を率いるピアニスト石井彰をNet Audio(音元出版)でインタビュー。 このクインテットはジャズには珍しく、ツイン・ヴァイオリンがフロントに立つ。ウッドベースもいるので「12本の弦」ということになるのだが、そういった編成のこととは別に、長年アコースティック・ピアノ一筋だった石井が、ハモンドオルガンも弾くことに興味がわく。 なんでも、知り合いから譲ってもらったのがきっかけで、昔からオルガン・サウンドが好きだったこともあり、飛び道具的に使っているらしい。 このバンドの新宿ピットインで観たライヴは素晴らしかったが、個人的には生ハモンドの音色にジンと来た。ペアとなるレスリー・スピーカーの音をオーディオ的な感覚で捉えていた部分があるかもしれない。ビブラートというか、あのビロビロと細かく震える音をしっかり家で再生できたら最高じゃないかと思った。 |
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往年のジャズ系オルガン奏者といえば、ジミー・スミス、ラリー・ヤング、ジャック・マクダフ、ベイビーフェイス・ウィレットたちがザワザワと出てくるが、短絡的な僕の思い込みとしてオルガンの音を楽しむなら、ジョニー・ハモンド・スミスを一位指名したい。 その理由はかなりおぼろげだが、ずいぶん昔におそらくジャズ喫茶かどこかで聴いて、どことなくいいイメージが残っているのだと思う。ちなみに僕はレコードを1枚も持っていない。 そこでジョニハモのオリジナルのモノ盤を探すことにした。50年代後半から60年にかけてプレスティッジの傍系レーベル、ニュージャズに何枚か残している。エンジニアはお馴染みルディ・ヴァン・ゲルダーだ。音に間違いはないだろう。 |
ディスクユニオン新宿JAZZ館で、超ベタなタイトルの『オール・ソウル』を3200円で見つけて即購入した。
メンバーにサックス奏者がいないのがいい。僕はコッテリしたファンキー・ジャズを聴きたいわけではない。熱っぽいサックスが入っているとそっちに引っ張られてしまう。簡単にいえば邪魔なのだ。あくまでもオルガンにどっぷり浸かるには、相方はギターかヴィブラフォンがちょうどいい。
家に帰ってA面1曲目の「ゴーイン・プレイシズ」に針を下ろした。
飛び出し一発で即座にご機嫌になった。期待をはるかに超えたハモンドオルガンのビッグトーンが炸裂。ビロビロのトレモロな揺らぎ~~が気持ちいい~。これは大当たりだ。
調べてみると『オール・ソウル』はジョニハモにとってニュージャズ(プレスティッジ)のデビュー盤だった。
そういえば前回、『ア・ガーランド・オブ・レッド』はヴァン・ゲルダーがレッド・ガーランドのデビューを祝って「音を盛った」と書いたが、これも歪むギリギリのラインまでオマケしたんじゃないかなどと想像したくなる。 だいたいソーネル・シュワルツが渋いギターソロを弾いているところで、バッキングのオルガンのほうが音がデカいってどういうことよ。あまりにもオルガンが強く出っ張ってきて、僕はそれはそれでうれしいのだが、ミキシングに偏向がないとは言いづらい。 ヴァン・ゲルダーの録音キャリアは、ニュージャージー州ハッケンサックの自宅改造スタジオで1947年に始まった。 同州イングルウッド・クリフスに新スタジオを建設して稼働を開始したのが59年の7月。『オール・ソウル』の録音は59年9月。となるとスタジオの音をまだ試行錯誤で調整していたのかもしれない。 まあしかし、この頃に録音された作品を調べてみると、ブルーノートでいえば、ウォルター・デイヴィスJr. の『デイヴィス・カップ』やホレス・シルバーの『ブローイン・ザ・ブルース・アウェイ』などは、建設直後の8月に録音している。この名エンジニアに抜かりはなく、録音のバランスが悪いなんてことはないから、調整期間中は思い過ごしだった。 ブルーノートのプロデューサー、アルフレッド・ライオンは常に完璧な録音を求めるのに対し、「プレスティッジのボブ・ワインストックは録音を一切自分にまかせてくれて、新しい機材や実験的な手法を試すことができた」とヴァン・ゲルダーはインタビューで語っている。 ハモンドオルガンを目一杯刻んでやろうじゃんと冒険してみたと僕はまたしても想像したい。 |
さて『オール・ソウル』に気をよくした僕は、それからすぐに同レーベルに録音したやはりモノラル・オリジ『ゲッティン・メッセージ』を買う。しかし盤面に小傷が多かったとはいえ、リスナーに向かって放射するオルガンビーム光線は「やられた~」と叫ぶほどではなかった。これから検証の余地はあるけど『オール・ソウル』は突然変異録音だったのだなといまのところ思っている。 |
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