コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第23回/オーディオの値段
モノの値段がわからない。 以前、『はねるのとびら』というテレビ番組の中に、「ほぼ100円ショップ」というコーナーがあった。「ダイタイソー」なる店で出演者やゲストが買い物をするのだが、100円のものと大変高額なものがまじっていて、それを見抜く企画だった。高額なものを選んだ場合、自腹で買い取らなければいけないのでけっこう必死である。高額なものとはたとえばただの石コロに見えるものが実は貴重な化石で10万円ほどもするとか、たとえば物故した著名な人の愛用の何かでプレミア価格がついているものとか、そんなものが多かった記憶がある。意外とわからないものだ、いくらするのか。 |
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オーディオの値段というのがこれまたよくわからない。あんまりわからないので、いくつか個人的に法則というか、戒律のようなものを作ってみた。ちょっと記してみよう。
![]() MAGICOスピーカー“Qシリーズ”の新モデル「Q7」 |
1. 安いものには安いものの価値があり、高いものには高いものの価値がある。 迷った時にこれを思い出して冷静になろうとするのだが、結局、ピンと来ちゃったら購入してしまう場合が多い。ただし、ピンと来てから実際に買うまでが半年とか1年とか、場合によっては3年もかかったときもあるので、相当に慎重ではあると思う。貧乏性と言うか、単にビンボーという話もあるが、失敗できないという気持ちが強い。すごく調べて、考え尽くしてから買うタイプである。クルマとかオーディオとか自転車といった値の張るものは、あんまりいろいろ考えてから購入するので、正直に言うと買った瞬間はもう既に飽きていて、うれしいという感情がないくらいだ。その後、半年とか1年くらいたって、じわじわとうれしくなってくる体たらくである。ちなみに、うちのスピーカーは2年悩んで購入して、うまく鳴るまで16年かかっている。ペースが遅すぎる。 さて、そんな文脈からマジコのQ7というスピーカーのことを書きたい。 しかし、内部の構造を把握し、音を聴くとなんか納得してしまう。それくらいの音なのだ。ただし、ここまでの値段だと自分が現実に購入するという選択肢を残念ながら持てないので、逆にあまり値段のことが気にならないということはあると思う。つまり、平たく言うとちょっと無責任である。だが、それほどの高額な「言い値」でも納得させられてしまう音、そしてモノとしてのオーラを持っていることは断言できる。
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オーディオ好きの方には是非聴いてもらいたい領域の表現力だ。そもそも趣味のことなので、値段のことはさて置き、まず楽しめるかどうかである。視覚に「眼福(がんぷく)にあずかる」という言い方があるが、まさに耳が、脳が、カラダが喜ぶ音だ。具体的には雑誌で書きたいが、中学2年生の頃から聴き続けているブーレーズ指揮クリーブランドの『春の祭典』からこれほどあっけらかんと、やすやすと、聴いたことのない音や聴いたことのない音楽的な表現を体験させてくれる存在も珍しい。鳥肌も立ったが、愕然とした感覚もある。人類のオーディオの最先端はこんなことになっているのだ。
(2013年10月1日更新) 第22回に戻る 第24回に進む