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コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第233回/あいかわらず電源関係やってる話(笑)[鈴木裕]

 ひとつ前のコラム、田中伊佐資さんの「ド変態」が抜群におもしろい。リードワイヤー専門工房 KS-Remastaの代表、柄沢伸吾さんの話だ。世の中、ほんとに上には上がいるなと思う。

 人間の感覚って追い込めば追い込むほど鋭敏になるところがあって、一般的な感覚からすると何十分の一、何百分の一もの閾値(いきち。この場合は人間が関知するのに必要な最小の刺激の強さ)になってしまうんじゃないかとも考える。実際に100分の1mmの違いを手で触っただけでわかってしまう職人の存在も知っている。柄沢さんの場合は、エナメル線のエナメルを剥がす行程というか、その刃物から研ぎ方から、研ぐものにまでどんどんハマッていくところがおもしろいというか、壮絶なところだ。ひとつの発見によって、思考が深まり、実際に音が良くなり、結果として音の匂いをかぎ分ける力が上がっていく。

ティグロンの電源ケーブル、TPL-2000A。さすがにメーカー製の高い完成度を持っているし、さまざまな技術が投入されている。

自作の電源ケーブルたち。できればこういう変態度の高い外観にしたくないのだが。


 自作電源ケーブル。このジャンルの場合、どのケーブルとどのプラグを組み合わせるかが問題ということになっている。たとえばアクロリンクの電源ケーブル7N-PC4030 Anniversario CB。これにフルテックのFI-48M NCF(R) /FI-48 NCF(R)を組み合わせるというような話だ。しかし、実際にやっている方だったらわかるように、そのふたつの要素だけでは自分の欲しい音の世界には到達してくれない。もうちょっとここがこうならないかな、という要素が残る。そのベースを基にして、振動や電磁波対策などのコントロールをすることになる。やっている感覚としては、ヴォイシングと言うかチューニングと言うか、高音のここをこうしたいとか、もうちょっと低域のさらの下の最低域をリニアに立ち上げたい、みたいなことだ。

 そもそもメーカー製でもある値段以上の電源ケーブルを見てもらえばわかるように、メッシュのようなものが仕上げにかけてあったり、途中にコブというか何かが付加されていたりするものが多い。それは伊達や酔狂で付けてあるわけではなくて、とうぜん音のために装着されている。たとえばティグロンの新しい高級電源ケーブル、TPL-2000A。1.8mもので¥195,000(税別)という値段。メーカーの説明を読み解いてみよう。
 ・導体はアメリカGE社で開発された導体「ディップフォーミング無酸素銅(DF-OFC)」
 ・プラグはフルテック社製最高級電源プラグ「FI-50(R)NCF」
 これはまず導体とプラグの話で、基本的なトーンやエネルギー感などは決まってくる。そしてそこに、
 ・世界特許技術「マグネシウムシールド」
 ・高周波シールド性能に優れ、航空産業にも使用される「特殊外装チューブ」
 ・その「特殊外装チューブ」には「表面帯電防止処理」
CDプレーヤー用の電源プラグと並列型電源フィルターのアイソテックEVO3 ISOPLUG。

 これらは、導体を絶縁体で巻いてあって、その上にかけるシールド類の話。このメーカーらしいマグネシウムのシールドは電磁波対策だけでなく振動コントロールの働きもある。そして、航空産業にも使われるって、いったいどこにどんな形で使われているかとても気になるが、なにしろそういうメッシュがあって、しかもそれには帯電防止処理がしてあるらしい。相当に入念だし、こうした場合、高域の存在感とかちょっとクセのある要素に対しての音のチューニングだったりする場合が多い。そして、

 ・更に高い静寂感を追求し今回初採用の第二世代マグネシウムフィルター「PMF mkⅡ」
 これはいわゆるケーブルの途中に装着してあるコブの部分だろう。実体がどういうものかはわからないが。そしてさらに、

 ・音質を格段に向上させる「ハイパーサチュレーティッドエナジャイザー(HSE)」処理
 これはいわゆる慣らしのひとつというか、物性改善処理のひとつ。高めとか低めの電圧を1分とか5分とか1時間とか流すような機械を使って行なうらしい。詳しくは、http://www.tiglon.jp/?p=1

フルテックの新しいオーディオアクセサリー、NCFブースター・ブレイス。電源プラグや電源タップのサポートをする役割だ。ただし、これに入る形じゃないと使えない。

ノードストのQk1を使えば、収まりはいい

 実はこの電源ケーブル、そもそもは同社のMGL-DFA10-HSE(1.8mもので¥99,000(税別))をベースに開発がスタートしたという。ヨーロッパからフルテックのFI-50(R)NCFを装着した製品が欲しい、という要望に応えてのことだ。FI-50(R)NCFはうちでも使っているがキャラが立っていて、その高い解像度を生かしつつも求める方向に音をまとめていく必要があったのだろう。あるいはそのグレードの高さに全体をスープアップしていく、という感じだったのかもしれない。

 電源ケーブルを開発していくプロのやり方が伝わってくるいい例だし、電源ケーブルを自作している人間としては、なかなか勉強になる製品だ。ちなみにその音は純度が高く、たとえばアコースティック・ギターの木質感といった質感表現力が高く、ヴォーカルの感情表現などを丁寧に聞かせてくれる。音だけでなく音楽性の描写も見事なものだ。音の立ち上がりの情報量も多いが、位相がきちんと合っていて、サウンドステージがしっとりと地続きのものとして見えてくる度合いもかなり高い。音楽性に寄り添って聞かせてくれるところがいい。正直、フルテックのこのプラグをこういう方向性でチューニングできるんだという、さすがメーカー製だけのことはある。

 夏前に聴いたエソテリックの7N-PC9900 MEXCEL(希望小売価格 398,000円/1.5m (税抜))も、その前後方向の立体感や解像度の高さなど唸らされたし、そうした性能を持ちつつ、大人っぽい音に成熟しているのも印象的だった。最近のエソテリックの製品に感じる要素だ。

 ところで、最近自作電源ケーブルで考えているのは、シールドの下に振動コントロール用のテープを巻いたらどうなるのだろう、ということだ。しかしこれ、モノタロウあたりで「ソルボセイン テープ」とかで検索すると3万点くらい出てきてしまって、それを読んでいるだけで楽しい。というか決められない。どういう素材をどう使うか。結局、いろいろ買っては試してみて音がどうなるか把握するしかないのだろうが、財力も時間も限られている。

 そういえば、並列型フィルターについても発見があった。
 フルテックから新製品として、プラグホルダーの NCF Booster Braceが発売され、うちでも使ってみることにした。製品についてはとりあえずこちらを。http://www.furutech.com/ja/2019/07/24/18641/

オーディオリプラスの電源タップ、SBT-4SZ-MK2SR。そのコンセント部。分厚い航空機グレードのアルミ材から削りだしているが、こういう形なのでここに差せない並列型電源フィルターも多い。

 これ、とうぜん電源プラグ部がきっちり収まるようになっているのだが、うちではその横のコンセントには必ず並列型フィルターを差すというやり方を徹底している。たとえばオーディオリプラスの電源タップ、SBT-4SZ-MK2SRをパワーアンプ用に使っているのだが、そこへの電源プラグを差す部分は深くなっており、電磁波からプラグを守っていたりする。もちろん一般的な電源プラグだったら問題なく刺せるのだが、並列型電源フィルターで形状的に入らないものも出てくる。ノードストのQv2やQk1、あるいはアイファイ・オーディオのiPurifier ACのような形状の並列型電源フィルターであればいいわけだが、全部が全部そうじゃない。その丸くないタイプの場合、NCF Booster Braceに対応させるには延長コードが必要だ。

NCFブースター・ブレイスやリプラスの電源タップの一部に対して、形が合っていない並列型電源フィルターを差すための延長コード。下はシールドをかけてとりあえず対策したものだが、音的にはいまひとつのクォリティ。ここを何とかしないと。

 しかしこの「延長コード」。市販で300円くらいで売ってるやつはけっこう音に悪さをしてしまうのだ。そもそもオーディオクォリティのプラグでも導体でもないので、試しに電源ケーブルに直列に使ってみると、エネルギー感の大幅な減少や高域の歪みっぽさ、SN感の悪さなど相当にげっそりさせられることになる。そして、並列型フィルター用に10cmだけ使ったとしてもやはり悪い影響が出てきてしまうのだ。実感としては、並列と言っても結局、回路の一部になってしまい、再生音に関係してくる。

 となると、この短い延長コードも自作か、ということに。面倒だなぁ。そもそも受けの方のプラグ(これ、何て言うんだろう)のオーディオクォリティの製品が存在していないし。まさかそのためだけに壁コンセント+ボックスという構成を取らなければならないのか。というところまで考えて放棄しているのが現状。やれやれ。でもここを解決すればまたひとつ音は良くなるはずだから、やらないわけにいかないのだけれど。

(2019年9月30日更新) 第232回に戻る 第234回に進む 
鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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