コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第238回/オープンリール・テープへのテンションがダイナミックにアップダウンした10月[田中伊佐資]
●10月×日/個人的オープンリール・テープ・ブームの盛衰は、ステレオ誌12月号「ヴィニジャン」で書いてしまい、気持ちのうえでは一段落ついた格好だったのだが、またある事柄が勃発して動揺した。
その件の前に、ヴィニジャンの大ざっぱな内容をかいつまんでみる。 | ![]() 短期間のうちに集めたオープンリールのミュージックテープは30本以上 |
テープ漁りに熱中しているときは、なにも考えていなかったが、結果的に「やっぱレコードはいいよね」と言いたいためのダシにテープがなったようだ。しかしそのための授業料は高くついた。計算するのが恐いが、多分ウン十万円にもなっているだろう。
雑誌には書かなかったけど、オープンリールは構造的にも僕には合わない。再生の途中で止めてそのまま放置しておくのはテープのためによろしくなく、頭まで巻き戻すか最後まで送るかどちらかにしないといけない。
僕は作品の内容にもよるけれど、どちらかといえば通し聴き派ではなく、曲を飛ばして聴く派なので、片面完聴がじれったい。もちろん好きな曲の頭出しもしにくい。
![]() オメガテープ社の『ジ・アート・オブ・ペッパー』のVol.1(左)とVol.2。 |
そんなことでオープンリール・テープは自分の肌に合わないという結末となったのだが、ある日、テープ好き友人宅へ行ったとき、途方ない音を聴かせてもらい、またしてもテープ株が急騰することになった。 |
実はこの音でぶっ飛んだのはこれが2回目で、5年前やはり滋賀のテープマニアの家で聴いたのが最初だった。50年代のペッパーは好録音がたくさん残っているけど、これは図抜けていると思う。ただ当時の僕はオープンリールデッキを持ち、自分の部屋でこの音を鳴らすことにリアリティがなく、まるで雲の上の出来事だった。
生涯2回目に聴く今回のペッパーも凄かった。艶やかで温かみがあって、訴求力がある。まさにジ・アルト・サックスの音。前回仰天したときと違う点は、僕はすでにデッキを持っていて、もしもテープが手に入ればすぐに音を出せることだ。
ああ、やはりテープの音はこたえられない。なにもすぐに結論を出して止めることはない。ちょっとずつでも好きな音源を増やしていこう。そう決意したその時だった。
Vol.1を途中まで聴いてVol.2に替えるため、テープを巻き戻していると「ピシッ」と音がして、いきなり途中から切れてしまった。60年以上も前のものだから、それなりに劣化していたようだ。
その瞬間、テープをやる気がまたしても急激にしぼんだ。やっぱレコードで行こう。
(2019年11月20日更新)