コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第247回/ブラック・サバスとコンデンサにズガーンと来た1月[田中伊佐資]

●1月×日/世田谷に住む森田武男さんの家を「ナマ録」の収録で訪問。
 おうかがいするのはこれで3度目だが、行くたびにオーディオシステムの何かが変わっている。





 今回はスピーカー。シーメンスのオイロダインに加えて、JBLのK2 S9900を入れたことが大きな更新だった。
 森田さんのオーディオ歴は70年近い。ずっとクラシックをメインに聴いてきた。だが、ここ数年でロックをレコードで聴くことに開眼し、怒濤の勢いで買い集めている。JBLを追加したのもその大きな表れだ。
 レコードは初期のオリジナル盤はもちろんのこと、その前にプレスされているプロモ盤(見本盤)、さらには超稀少なテストプレスまで買いまくっていると噂は耳にしていた。これに色めき立たずにはいられない。放送の収録というよりも個人的な興味が絶大だった。

 僕はかつてある音楽誌から取材を受けたときこんなことを喋ったことがあった。
「レコードを買えば、それが自分のものになったと思いがちだけど、それはちょっとした勘違い。いずれそのレコードは経済的な理由だけでなく本人が亡くなれば、店を経由するにしろ誰かに譲ることになる。だからレンタル料を払って借りているようなもの」
 それだけ社会性がある貴重なものなんですという意味なのだが、それをどこかで読んだのか森田さんは「あの考え方には賛成です」と言ってくれてうれしかった。



森田武男さんのレコードプレーヤー・システム。手前はクラウディオ社のリニアトラッキング式アーム。放送は3月8日(再=15日)

 そのことと関係ないとは思うけど「売るときに元値がわかるように」とレコードの買値を記したラベルがジャケットに添付されていた。
 その金額について放送で語ろうとしたら「まあいいじゃないですか」とやんわりと制止されたので、深く語らなかったが、僕は「ヒエ~」と飛び出した目の玉がしばらく引っ込まなかった。数字のケタが1個か2個多く、それだけ驚くべきブツがザクザクあったのである。
 リスニングチェアの近くに段ボール箱があり、ちょっと見ただけでもテストプレスが何枚もあった。

 デレク・アンド・ザドミノス『いとしのレイラ』、ジョン・レノン『イマジン』、ブラック・サバスのファーストなどなど。



 「これはぜひ聴いてもらいたかったんです」。森田さんはそう言ってそのサバスを選んだ。
 プレーヤーはノイマンのカッティング・レースをばらしてプラッターやモーターなどを特注のキャビネットに入れものだ。そこにクラウディオ社のリニアトラッキング式トーンアームが付いている。これもわりと最近購入したらしいが、シャープにまとめたメタリックなデザインはメカ心をそそられる。

 A面冒頭に収められている雷が落ちる音は、本物がそうであるように、余韻や誇張がなく恐いほどクイックだった。文字通り疾風迅雷の音だった。
 オジー・オズボーンの声がかつて聴いたことがないほど、つるんとムキだしだ。生々しい。自分がずっと馴染んできた音は、どことなくモワモワした曇りがあった。

 『イマジン』にしてもそうだ。不気味なほど声もピアノもすっぴんで臨場感がただならない。これまで薄皮を剥がさずにゆで卵を食ってきたような気分になった。
 軽く気絶していると「田中さん、テストプレスといってもね、あくまでもテストで作ったものなので、価格の割には大した音ではないものだって結構あるんです。こっちはイチかバチかですよ」と声をかけられて、その言葉に救われた。そもそも買えはしない雲上盤だけど、完全に諦めがついた。

●1月×日/昨年の暮れ、ステレオ誌に吉野編集長が「俺流スピーカー!邪道を往く」で連載していたスピーカーが完成したとかで、そのお披露目があった。







ステレオ編集長 吉野俊介さんの自宅システム


 エンクロージュアを製作したアクロージュファニチャーの岸邦明さん、写真家の齋藤圭吾さん、ヴィンテージ・ジョインのキヨトマモルさん、それに僕が吉野宅に集い、ああだこうだ放言して、その模様はステレオ誌に載った。

 スピーカーはJBLのフルレンジD123とトゥイーター2405を用いた2ウェイで、無垢材のエンクロージュアが効いているのかとても気持ちがいい音だった。
 実は企画の趣旨から外れているので掲載されなかったが、キヨトさんがメーカーの異なるコンデンサを持ってきて、2405のローカットに使っているものと取り替える試聴も行った。


 比べていくとドイツ、イギリス、フランス、アメリカなど生産された国の特徴みたいなものが出てくる。編集長が作ったスピーカーなんて、もはやどうでもいいくらい僕にはインパクトがあった。





 年が改まって、キヨトさんにお願いした。僕のモノラル用スピーカーに使っているRCA製トゥイーターのコンデンサも替えてくださいと。
 ずっと使ってきたのはやはりキヨトさんに選別してもらったドイツERO(現ビシェイ)のもので、音に不満はない。ただ比較試聴したときに、ドイツ製はそのお国柄を示すかのように謹厳実直で、もっと明朗で鳴りがいいアメリカ製が自分にはぴったり来る感じがした。

 モノラル・システムはカートリッジからスピーカーまで50~60年代のアメリカ製で固めている。その時代のジャズやブルースしか聴いていない。せっかくならコンデンサもアメリカ製で統一したいし、音源とのマッチングがさらに良くなるはずだ。
 まもなく「Spragueのハーメティック・タイプのオイル・コンデンサが手に入りました。同じSpragueのフィルム・タイプと比べてみましょう」と連絡が来て、愛車67年式モーリスマイナーに乗ってうちまで来てくれた。



トゥイーター用のコンデンサ。左からこれまで使っていたERO、Spragueのフィルム・タイプ、同ハーメティック・タイプ

 僕の大愛聴盤でサラ・ヴォーンがルーレットに残した『アフター・アワーズ』を取り出すと、キヨトさんは「ああ、いいね」とうなずいてくれた。そういえばリファレンス盤にしているという『アイ・ラヴ・ブラジル』をヴィンテージ・ジョインで聴いたことを思い出した。
 トゥイーターの低音をカットするだけなのに、音の雰囲気は大幅に変わる。
 ひとつ選ぶなら、滑らかで深々としたヴィブラートが感動的だったハーメティック・タイプに決まりだ。キヨトさんも「なんかのびのび気持ちよく歌っているよね。これしかない」と意見は一致した。



 モノラル・システムの音はある程度のレベルまで来ていたと自認していたのだが、まだもう一歩先があることに気づかされた。それはそれでうれしいけれど、もうそろそろ勘弁してもらいたいよなあといいう気持ちもある。 

(2020年2月20日更新)

 

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田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。近著は「ジャズと喫茶とオーディオ」(音楽之友社)。ほか『音の見える部屋 オーディオと在る人』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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