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コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第248回/ガラスの靴がフィットしたシンデレラのように[鈴木裕]

 顔で笑ってココロで泣いて、けっこうダークグレーな日々を送っているので無理してロマンチックなタイトルにしてみたが、内容はうちのスピーカーの足元に石英のインシュレーターがフィットして音が良くなったという話。人類にとっては小さな一歩だが、自分にとってはかなり大きな一歩だ。

 ソナス・ファベールのエレクタ・アマトールⅢにはカッラーラ・スタンドという、その白い大理石の産地の名前のついたスタンドが付属していて、音を聴けばかなりちゃんと開発されていることがわかる。スピーカー本体とボルトで締結して使うし、足元のスパイクも付属のスパイク受けとセットで使うようになっている。2019年の6月6日から鳴らしだして、当初はこれらのボルトとかスパイク受けとか、いろいろを試したものだ。

 余談だが、最近のブックシェルフにはスタンドが付属しているものも少なくない。本体とスタンドをネジで締結するものもあるが、以前だったら地震時などの落下防止の役割だったのが、現在は積極的な音作りとして使われている例もある。実際問題、本棚(ブックシェルフ)の棚に置いてスピーカーを鳴らすのはハイファイ再生という意味では勧められない。なぜならば、マイクを本棚の中に置いて録音することはないからだ。もちろん、本棚にセットした音が好きというのではあれば、それを否定する理由もないのだけれど。

ソナス・ファベールのエレクタ・アマトールⅢ。スピーカースタンドは付属のカッラーラ・スタンド(こんど、単体が18万円・税別で販売される)。その白い底板の足元、スパイクとスパイク受けが変更された。

 本題に戻ると、昨年6月から7月あたりにやっていたのは、たとえばスピーカー本体とスタンドを締結しているボルトを付属の(おそらく)炭素鋼のものからステンレスにしたり、チタンにしたり。あるいは、付属のボルトより30mm程度長いものにして、本体とスタンドの天板の間にインシュレーターをはさんだり。また、足元もいろんなスパイク受けを入れて試してみたが、どれもしっくり来なかった。

スピーカー本体とスタンドを締結しているボルトをいろいろ試してみた。あるいは付属のボルトより30mm程度長いものにして、本体とスタンドの天板の間にインシュレーターをはさんだりもした。いずれも採用されず。

 結局、純正状態から変更したのはジャンパープレートだけで、付属のを外してコード・カンパニーのジャンパーケーブル、ChordMusic Link-Ohmic(コードミュージック・リンク-オーミック)にしただけだった。変えたのはスピーカー自体ではなく、その位置とか振りの角度。そしてあっちこっちの電源ケーブル、電源タップ、並列型ノイズフィルター。電源ケーブルは自作やメーカーの製品などいろいろな組合せしたり、あらたに購入したりして、年末には納まるところに納まって、そこからあまりいじっていない。

 2020年1月下旬。『オーディオ・アクセリー』vol.176(2月21日発売)のための取材で音元出版の試聴室にいた。そのリポートは226~227ページ「オーディオリプラス集中試聴 今回のテーマ:スパイクインシュレーター」を読んでほしいが、B&W/805D3、エラック/VELA FS409、YGアコーティクス/Carmel 2のそれぞれの純正のスパイクと、オーディオリプラスのスパイクRSIシリーズとの交換比較をした企画だ。そして取材の最後に出版社からメーカーに試聴機を返品するのに、まず拙宅に送ってもらって聴く許可をもらった。うちで聴きたかったのだ。今までいろいろやってきたが、今回はイケる予感があった。

 何日かたってブツが届いた。まず今までの状態で聴いて、そしてスパイクをRSI-M8に交換。スパイク受けは同じくリプラスのもので、音元出版でのテストの時にも共通して使用した特殊ステンレス製のスパイク受け、RSDをまず聴いた。いい。かなりいい。低域の密度や音像のフォーカスの精度が向上しつつ、音が太くなっている。鳴りっぷりもいい。スパイクでここまで音が変わるということを知らない人も多いだろう。

 続いてスパイク受けをOPT-30HG-PL HRにした。オーディオグレードの石英にスパイクの先端が入る穴を掘った、HG HRシリーズのスパイク受けだ。実は音元出版でのテストの時も現場にあったのだが、スパイク自体の、純正とリプラスの製品との比較をわかりやすく見せたいということであえて使わなかった。これもいい。相当にいい。SN感がさらに良くなって、付帯音が減っている。音像の実在感もサウンドステージの臨場感も上がっている。

オーディオリプラスRSI-M8。特殊ステンレスから削りだし、シグネチャーナノクライオ処理をしてある。メーカーでは「表面と内部の硬度を変え、周波数毎に振動処理スピードを合わせる事に成功」。「位相が非常に正確に」なると説明している。

カッラーラ・スタンドに付属しているスパイクとスパイク受け。かなり尖った形状のスパイクと、一般的なスパイク受けとは違うスパイク受け。これはこれできちんと出来ているし、なかなかこれを越えられなかった。

 そしていよいよ以前から持っていた、リプラスのインシュレーターのフラッグシップ(という言葉を使いたくなるほどの大きさと存在感と、値段の)OPT-GR-SSを登場させた。ティールCS-7、アヴァロン・アイドロンの足元を支えてきたそのものだ。通称GR-SS。GRはゴールデン・レシオ、黄金律を省略したのもの。素材はオーディオグレードの石英だが、石英の純度を上げた状態から結晶化させた後に、50mmの直径で、なおかつ厚みが30mmの形に精度高く研磨。SS(スーパー・サーフェス)仕様。

 そして、そのGR-SSに被せて使うスパイク受けアダプターのRSA-50。上から見て、円の中心にスパイクを当てる、という役割がまずひとつ。これによって、GR-SSの威力を最大限発揮できる。また、ちょっとした地震であればスパイクが滑ってスピーカーが転倒することを防いでくれそうだ。ただし、これによって音に対してマイナスになってしまってはいけない。材料には超高分子特殊ポリマーを使って、そこから削りだしで作っている。なおかつHR物性処理(クライオ処理など)がしてあったりもする。また、内側の形状自体、GR-SSの上面にべったり接触するわけではなく、フチの部分だけにかかるような設計になっている。ちょっと見ると何の変哲もないパーツだが、材質といい、形状といい、音のことを考えているのはさすがリプラスといったところ。去年の秋に購入しておいた。このRSA-50をGR-SSに載せ、スタンド、スピーカーと設置していった。

 聴きだして、音色感や音の感触がオーガニックになるのは予想できていたが、エレクタ・アマトールⅢから、もっと大きな口径のウーファーのような低音。この感じがだいぶ出てきたのには本当に驚いた。最低域のレンジ自体は今までも30Hzが再生できているのを確認しているが、たとえばブライアン・ブロンバーグのベースソロのぶっとい感じ。これの低域が妙にすっきりとして不満だった。マイクと低音楽器の距離が近い録音の場合、その音像の大きさ、マイクの振動板がごっそり動いている感じを再現するのにはさすがに180mmのウーファーでは無理だと思ってきた。その限界を超えたような低音が鳴っている。GR-SSというインシュレーターもインシュレーターだが、エレクタ・アマトールⅢというスピーカーもスピーカーだ。どうしてこういう底音が出てしまうのだろう。本当にオーディオはわからない。わからないことだらけだ。

こうして比較してみると、そもそも大きさや質量がぜんぜん違う。

装着状態。ガタを取った後に、ロッキング・ナットをがっちり締めるのもやりやすい。相当な振動にさらされる部分。

 ちなみに昨年秋には、カッラーラ・スタンドの純正のスパイクに対して、上記のGR-SS+RSA-50の組合せも実はやっているのだが、その時は中高域のキメが極端に細かくなり、オーガニックな音色感を獲得しつつも、低音が何か別のウーファーが鳴っているようになってしまい採用しなかった。今考えると、中高域と低域の位相がズレていたんだと思う。純正のスパイク+スパイク受けでは音はまとまっていた。こういったところからもスパイクとスパイク受けは統一して設計されたものを使った方がよい結果を得られる、ということが言えそうだ。現代のレベルの高いスピーカーであれば、床やオーディオボードにスパイクを直接刺して使うのではなく、いいスパイク受けを使った方が結果はいい、ということももはや確信になっている。
 かくしてガラスの靴がフィットしたシンデレラのように、エレクタ・アマトールⅢは魔法をかけられたのだった。と、ロマンチックに書こうとしてちょっと無理があるが、現実はRSI-M8/4Pを2セット購入して使っている。

(2020年2月28日更新) 第247回に戻る 第249回に進む 
鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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