コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第25回/ハイエンドショウ不完全レポート

 10月11日(金)から13日(日)まで、有楽町の東京交通会館12階で、ハイエンドショウ・トウキョウ2013が開催された。本来はそのすべてをレポートすべきだが、初日しか行けなかったので、その一部をここに書き残すことにする。

 トライオードは、今年も数え切れないほどの新製品を発表。筆者が聴いたときは、プリ・メインアンプTRK-300で、スペンドールSP100R2を鳴らしていたが、出力8ワットとは思えない力強さに感心させられた。まずはアイリッシュ系の男性ヴォーカルがかかったが、イントロのチェロが実に雄弁。イーリアンパイプスのソロも、「らしさ」を見事に再生。肝心の歌声も澄んでいて、すんなり心に入ってくる。そのあとは、小編成のジャズがかかったが、レンジ感の広さにびっくり。温度感やや高め。ストレスフリーな鳴りっぷりとシンバルの「金粉」が宙を舞うかのごとき響きに、ひたすら魅了された。
 後半は、プリアンプTRX-2とモノラルパワーアンプTRX-P3Mのコンビが、スペンドールSP100R2を鳴らした。白人女性ヴォーカルは若々しく、躍動的。ベースも心地よく弾む。

 インテク(コアダレン)は初参加。電車の車内放送機器を作るメーカーだが、「いつかはオーディオ界に進出したい」と考え、おおよそ10年間研究を継続。目指すは「今も高値で売買される約半世紀前のヴィンテージ・アンプ」。パーツの選別と回路設計で、魅力的な音を作り上げるのだという。プリはMC用のフォノイコ内蔵で入力3系統、パワーアンプはKT88(ロシア製)を使用。いずれも極力半導体を使わないようにしているとのこと。
 肝心の音はというと、なるほど同じ管球式でもさっき聴いたばかりのトライオードとはずいぶん違う。これが彼らの言う「ヴィンテージらしさ」なのか。優等生的で、やたら特性だけは素晴らしい現代アンプの対極に位置する製品であることは間違いないから、整った環境で、またじっくり聴き直してみたい。

 バラッドは、ムジーク・エレクトロニック・ガイザインやトーレンスを扱う輸入商社だ。筆者が聴いたときは、ムジーク・エレクトロニック・ガイザインME901KA(アクティヴ・タイプ)が鳴らされていた。SACD/CDプレーヤーとプリはアキュフェーズ。アナログ・プレーヤーはトーレンスTD550。
 最前列ど真ん中で聴いたが、左右スピーカーがかなり離れているのに、センター定位がきっちり決まるのはすごい。女性ヴォーカルは伴奏と声の溶け合い方が絶妙。パーカッションとトランペットは、前者の躍動感と後者の素朴さに惹かれる。そのあとも、ヴォーカル盤が続いたが、もうメモを取るのがバカバカしくなる世界。そんなことせずにひたすら浸っていたい。
 秋葉原のLe Tabouに行けば、いつでも試聴できるから、ぜひ足を運んでいただきたい。もっともっと有名になってほしいスピーカーだ。


トライオードの新製品群


インテク(コアダレン)のセパレートアンプ


実は筆者が最もほしいスピーカーの一つ、
ME901KA

 オクタヴィア・レコードは、ソニーCSD-XA777ESとトライオードTRV-35SEを使って、スペンドールD7を鳴らしていた。もちろん主役は同社が作ったSACDで、特にエクストン・ラボラトリー・ゴールド・ライン(3,800円)と通常SACD(3,000円)の比較試聴がメイン。演奏によっては、ダイレクトカットSACD(20,000円)との聴きくらべもおこなわれた。


ディナウディオの新EXCITEシリーズ。
左からX34、X14、X38



タンノイDC10Aを見事に鳴らし切った
オンキヨーP-3000RとM-5000R

 ゴールド・ラインは、通常SACDに較べ、
○ ヴァイオリンなど、楽器が何倍も高価なものに替わったかのように聞こえる。
○ 音色の味わい深さが、全くの別物。
○ 高域の刺激感が皆無になる。
○ 低域が充実し、オーケストラがどっしり安定。

また、ダイレクトカットSACDは通常SACDに比べ、
○ 音に厚みが出る。
○ 音色が、より色濃くなる。
○ こくが増し、音楽の抑揚まで大きく聞こえる。
といった傾向が聴き取れた。

 ディナウディオジャパンは、大好評EXCITEシリーズが一新された。ブックシェルフのX14、トールボーイのX34、X38とセンター用X24が新メンバーだが、いずれも付き板仕上げが美しい。これらをシムオーディオの最新機種(おととい届いて、けさ電源を入れたばかり)で鳴らしていた。ジャズ、女声ヴォーカル、チェンバロ入りバロック音楽、ギターが華やかなソロを展開するロック、クラリネット・ソロ、日本人男性ヴォーカルなどがかかったが、苦手ジャンルなしと見た。十分「慣らし運転」が済んだ頃、またじっくり聴き直したい。

 オンキヨーは、タンノイDC10Aと自社のD-TK10をP-3000R、M-5000Rのコンビで鳴らしていた。2010年暮れに発売された製品だが、古くなるどころか、売り上げは年々伸びているのだという。ひょっとすると、グランド・アクティブ・コントロールのよさを理解する人が増えつつあるのかもしれない。

 実際、DC10Aはたいそう素晴らしい音を出していた。筆者は、昨年のインターナショナルショウ(エソテリックのブース)や音楽之友社試聴室でこのスピーカーを聴いているが、この日聴いた音はそれらの上を行っていた。
 D-TK10も健闘。「皆さん、サブウーファーはどこにもありませんよ」と司会者は強調していたが、DC10Aのあとで鳴らして、これほど存在感を明らかにできる製品は稀だろう。リー・リトナーのハイレゾが、特に心に残る。

 六本木工学研究所は、今秋からはセミオーダーサービスを開始。
1.まずはエンクロージュアを選ぶ。
2.次にトゥイーターを選ぶ。
3.最後にウーファーを選ぶ。
 たったこれだけ。もちろん、あなたが選んだユニットやエンクロージュアにふさわしいネットワークは六本木工学研究所が作ってくれる。それもたったの2、3週間でできるのだという。
 サンプルを聴かせてもらったが、3機種とも、極めて完成度が高く、「あすからこれで評論家の仕事をしろ」と言われても十分なクォリティだ。


六本木工学研究所セミオーダーサービス
のサンプル
持山翔子ライヴ

伊藤ノリコライヴ

徳永泰子ライヴ


maikoライヴ

 T-TOC RECORDSは、トライオードのシステムを使って、マスターCD-R(9,800円)と通常CD(3,000円)の比較試聴をおこなっていた。マスターCD-Rは、通常CDと比べると、
○ フォーカスがよりハッキリ決まる。
○ 立ち上がりがよりハイスピードになる。
○ 高域の刺激感が皆無になる。CD臭さのようなものが消える。
○ ベースが引き締まり、再生帯域も下に延びる。
○ 歌手の口もとや楽器の周辺にただようニュアンスのようなものがその濃さを増し、まるで見えるかのようになる。

 T-TOC RECORDSは、こういった聴き比べだけでなく、アーティストたちのライヴやトークショウも頻繁に開催(初日4回・2日目3回・3日目1回)。筆者は、運良く、持山翔子さん(ジャズピアニスト)、徳永泰子さん(ハーピスト)、伊藤ノリコさん(ボサノバ歌手)、maikoさん(ジャズヴァイオリニスト)の生演奏を聴くことができたが、T-TOC RECORDSのアーティスト発掘能力の高さや、いったい何を最優先して録音をしているのか等々、様々なことに気付かされた。

(2013年10月21日更新) 第24回に戻る 第26回に進む 

村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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