コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第250回/レコード買物企画に便乗して、めっけものが手に入った2月[田中伊佐資]

●2月×日/新型コロナウイルスが蔓延し、外出を控えましょうというムードになっているさなか、なぜか雑誌などで「レコード買物」企画がいくつも転がり込んできた。
 最初は宝島社の男性誌「Mono Master」。
「レコードのある暮らし」という特集を練っています。なにかお願いできませんかと編集者から唐突に連絡が入った。
 ネタとしてレコードが聴ける飲食店や愛好家の取材などいくつかあったが、あいにく都合がつかない。しかし実際にレコード店へ行ってリアルにブツを買うといったオイシイものがあり、1ページしかさいていないが、これを逃す手はない。是非やらせてくださいと下北沢の「フラッシュランチレコード」へ向かった。
 一般誌の記事らしく、中高年層に「これからレコードでももう一度聴いてみるかなあ」と思わせることが狙いだ。僕が欲しい盤を漫然と買うのでは変にアクが強い誌面になってしまうだろう。
 そこで「中・高生時代に熱くなって聴いたロックの名盤を予算1万円でゲット」をテーマに掲げ、僕ら世代の懐かし名盤を探すことにした。
 さんざん迷ったあげく買ったのは次の5枚。

・Made in Japan/Deep Purple
・Never Mind the Bollocks, Here's the Sex Pistols
・Going for the One/Yes
・Too Rye Ay/Dexys Midnight Runners
・Frampton Comes Alive!/Peter Frampton

 ディープ・パープルとセックス・ピストルズは必ず入れたいと思っていた。イエスとデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズは内容もさることながらジャケットでセレクト。
 ピーター・フランプトンは大ヒットアルバムだし、なんとなくの入選ではあったが、帰宅して40年振りに聴いてみると、十代の頃に感じなかった曲や演奏の良さがまた別の角度から染み込んできた。素晴らしい音質も当時のボロい装置ではまるで実感してなかった。
 そんなわけで、音楽に無縁のオヤジ世代を刺激するページだったけど、自分自身もまたまた「中高ロック」に感動したのでありました。

●2月×日/第241回の「Record Shopパタパタ漫遊録の動画を撮った11月」にいきさつを書いたが、サイコロの目で予算を決めてレコードを買う旅をおさめた「パタパタ漫遊録」の動画は視聴者数の低迷にもめげず毎月続いている。
 このたびは中国地方(鳥取~松江~広島)へ漫遊。
 最初に行った鳥取「ボルゾイ・レコード」は店内がそれほど広くはないけれど、なぜか自分の好みの盤がたくさんあった。店主の前垣克明さんと趣味が合うのだろう。次の3枚を購入。

・Cartoone/Cartoone
・Song Album/Song
・Grand Funk/Grand Funk Railroad

試聴環境も完璧な鳥取の「ボルゾイ・レコード」

 最初の2枚はまったく知らない。ジャケットを見て、ピッと来た。
 うれしいことにちゃんとイスに座って好きなように試聴できるコーナーがあり、飛ばし飛ばしのチョイ聴きで購入決定。
 そこから松江(動画アップは4月)、広島(5月)へと旅は続くが、ネタバレになるので、ここは黙っておきます。

●2月×日/ステレオ誌で連載している「ヴィニジャン」で「中央線レコード屋巡り」の企画が勃発、シュンスケこと吉野俊介編集長と新宿を皮切りに沿線をうろつく。
 レコード店、レコードショップではなく「レコード屋」としたのは、ニュアンスとしてディスクユニオンやHMVなど大型店ではなく、個人経営店に絞りたいためだ。
 次の6枚を購入。

レッドリングレコード(西新宿)
Mick The Lad/Mick Grabham

サブマリンレコーズアンドカフェストア(大久保)
Naturally/J. J. Cale

EADレコード(高円寺)
花粉/ピエール・バルー
Drone Trailer/MV & EE With The Golden Road

オントエンリズムストア(阿佐ヶ谷)
Bless This House/Mahalia Jackson And The Falls-Jones Ensemble
Frisco Bound/Jesse Fuller

1960~70年代のハードロック、メタル、サイケなどが充実している西新宿の「レッドリングレコード」
大久保「サブマリンレコーズアンドカフェストア」の試聴システム。B&Wのスピーカーやマークレビンソンのアンプをセッティング

阿佐ヶ谷「オントエンリズムストア」で吉野編集長と筆者が買ったレコード

 僕の場合、気合いを入れてレコ屋をハシゴすると、どうしようもないものをつい買ってしまうことが多いのだが、この日は奇蹟的に当たり盤に恵まれた。
 その道に詳しいシュンスケがいたことが大きかった。ジャケットは気になるけど内容を知らない盤を見せると「なんか知らないけど、これ良さそうなニオイがしますね」とか言って鼻が利かせてくれたのが助かった。
 それにしても、僕は通販やオークションなどネットを利用してレコードを買うこともあるが、その道に精通した店主とじかに会話をしながら買物をするのはとても楽しい。教えられることだらけだ。
 店主にしたって、通販で十分に成り立つ時代になったのに、わざわざ家賃を払って店舗を構えるのは、お客さんの顔を見て売りたい気持ちが強いからだろう。
 ある店主が言っていた。
「見つけたレコードをその場でスマホを使って調べて、イヤホンで試聴してから買って行くお客さんがいます。私に質問をして、ここで音を出して試聴すればいいと思うんですけどね」
 決まって若い人だという。そのうち客と店主はその場に居ながらにしてラインでやりとりするようになるのだろうか。そうなると、これもある種の通信販売なんでしょうかね。

(2020年3月20日更新)   第249回に戻る 第251回に進む 

田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。近著は「ジャズと喫茶とオーディオ」(音楽之友社)。ほか『音の見える部屋 オーディオと在る人』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。 Twitter 

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