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コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第266回/2020年型の電源ケーブルの件[鈴木裕]

 音元出版の『オーディオ・アクセサリー』vol.178。「9人の評論家が自作 電源ケーブル選手権2020」に参加させてもらった。自分としてはかなり手応えのある電源ケーブルを作れたのでそのことを書いてみたい。

 2019年の3月から必要に迫られて電源ケーブルを自作してきた。秋にはだいぶ本数もできてきたが自作のものを2段階に直列に重ねるとどうも結果(再生音)は芳しくなかった。たとえば壁コンセントと電源タップの間に自作を使い、電源タップからコンポーネントの間にも自作を使うと、音が剛直になりすぎたり、もう少しニュアンス成分が欲しいことになってしまっていた。短く言えばまだまだクセの強いものだったのだろう。やっている時にはなんとかその新しく作った電源ケーブルのいいところを見ようとして、もうすこし慣らしが進むと改善するんじゃないかとか、気になる部分を対策すればイケるんじゃないかとか考えてしまうのだが。結局やはり芳しくないという結果だったわけだ。 年末には行き詰まった。うちにあるメーカー製の電源ケーブルなどとミックスさせて、どこに何を使うという組み合わせをいろいろやって、とりあえず音をまとめて使ってきた。

久しぶりに自作した電源ケーブル。炭山アキラさんから「異様なくらい生々しく、自然だがとてつもない迫力」という言葉をいただいた。

プリとフォノイコ、CDプレーヤーに給電している電源タップに使っている。

サエクの切り売り電源ケーブルAC-6000。今回の製作で気に入り、人生初のリール買いしてしまった。

 『A.A.』誌vol.177では「自作電源タップ選手権」があったが、この時にはバランスのいい、読者の方の参考になるものということで考えて企画、製作してみた。電源タップもやりはじめると実に奥が深く、コンセントを支えるボディをどうするかがまず大事だったりするのだが、この時は素性のいいパーツを選択してきちんと組む、というやり方をした。結果としてその音も素直なものだったと思う。しかし、今回”電源ケーブル”である。ここ、ちょっとうるさいジャンルだ。昨年の苦労とか試行錯誤とか、ある程度のノウハウとか自分なりに獲得してきた部分もある。”電源ケーブル”という言葉に自然とスイッチが入ってしまったのだ。また、半年ほど放置してきたのが却って良かったのかもしれない。

 まず使う場所について。
 プリアンプとフォノイコライザーとCDプレーヤー。この3つのコンポーネントからの電源ケーブルを挿す電源タップ。これと壁コンセントからの電気が来ている自作の2口の電源タップ。この間の電源ケーブルとして発想した。プリアンプはサンバレーSV-192A/Dという真空管を使ったものでA/Dコンバーターも搭載している。比較的電気を食うほうだ(消費電力の表示は50W)。フォノイコライザーとして使っているのはマークレヴィンソンのプリアンプNo.26SL。それにMCフォノモジュールが入っているもの。動作の温度からしてもまずまず電気を食うタイプ(消費電力は50Wの表示だが、フォノイコライザーのモジュールの消費分は入っていない)。そしてCDプレーヤーはエソテリックのK-03XD(消費電力は25W)。これらに潤沢に電気を供給しようというイメージ。ただし、それぞれの電源プラグが刺さっているコンセント口の横には並列型電源フィルターがそれぞれに挿さっているので微妙に電気を消費しているのかもしれない。

 狙ったのは芳醇なエネルギー感、密度の高さ。音の立ち上がり、特に低域の立ち上がりが遅れるのはまったくダメで、瞬発力のある、トランジェントのいい電気が欲しかった。もっと言うと空間表現力の高さや音像が(特に前後方向に)分離するといった感じが出てくれるとうれしかった。

 選択した部材について。
 まず切り売りの電源ケーブルとしてはサエクのAC-6000を選択した。PC-Triple C導体を採用した3.6スケアのものだ。絶縁体はやわらかめのPVCで綿糸の介在。銅箔のシールドで被服は非鉛軟質の、これも若干柔らかめのPVC。ケーブル外径(直径)は11.5mm。ちなみに導体は0.32mm径のものを45本縒っているがこの太さと本数のバランスがいい感じ。これ自体の音としてはかなり明朗で健全で、ちょっと欲を言えば陰影とかシャープさも欲しいところだがこれはPC-Triple Cの基本的な性質のようにも感じている。

 自分の作り方のポイントはこれを2本使っている点。ダブル使いというか。これは2019年型の自作電源ケーブルも、前段系はすべてダブルで作ってきた。5.5スケア1本よりも3.5スケア2本の方が低域の情報量が多いし、高域も太い感じが出てくる、というのが現在の結論。ダブルだと単純に計算して7.0スケアの断面面積になるので低域のエネルギーが多くなりそうだが意外とそんなことはなく、むしろ高域の太さにつながってくる。言葉としては個人的に「ピラミッド型」というのがどうも好きではなく「円柱型」を目指している。帯域バランスで言うと低域/中域/高域が同じようなバランスが「円柱」だが、音のエッジの立ち方として「八角柱」とか「四角注」もあるんじゃないかと想像している。そして今回使用するポイントについては「円柱型」が欲しかった。一方、プリやフォノイコ自体に挿す電源ケーブルとしては「八角柱」の方がいいかもしれない。あくまでイメージ的な話だ。

 ちょっと話を戻すと、なぜダブル使いだと高域が太くなるか。ひとつ考えているのは表皮効果のおかげじゃないかと。導体があって、中低域の電気信号は導体内部を通るが高域は導体の表面を伝わっていく、というやつだ。それはスピーカーケーブルやRCAインターコネクトの話じゃないかと突っ込まれそうだが、電源ケーブルも同じような役割を持っているように感じる。この表皮効果がダブル使いによって太い高域を生み出してくれるという仮説。電磁気力学的な証拠はない。

 続いてプラグ。
 まず壁コンセントや電源タップに挿す方の電源プラグ。これはフルテックFI-11M(Cu)。導通部は純銅で、このメーカーのαプロセス処理がしてある。内容はクライオジェニック処理とリング消磁処理の二段階の工程で、いずれも電気伝導率を向上させる働き。メッキはなし。ボディ自体のシールド対策はされていないが今回はオーディオリプラスの分厚いコンセントカバーの中に入る形なので必要なし。ちょっと残念なのがケーブル自体を固定するクランプ部がプラスチック製なことで、もうちょっとお金を出すと金メッキ処理のFI-11M(G)が買えてクランプの部分が特殊ステンレス製になっている。なんだったらこのクランプだけのためにFI-11M(G)を買うやり方もあるのだが。音質的に狙っているのは潤沢に電気を取り込む入り口のイメージ。プラグ自体としてはもうすこし造形力が欲しいところだが今回は問題なし。音の感触はやわらかめで個人的には嫌いじゃない。

 インレットプラグは同じくフルテックの FI-48 NCF (R)。情報量が欲しいところには最終的にはFI-50 NCF (R)を使うことになるのだがちょっと使いづらいところがある。ピーキーというか高域にクセがあって、その部分に対する対策が必要になってくる。値段も48の1.5倍くらいするし。そうは言いつつもパワーアンプやCDプレーヤーの電源ケーブルには使っているのだが。FI-48 NCF (R)については、ロジウムメッキにNCFの組み合わせというのがやはりとても良くて、現代的な空間表現力はさすがに高い。

AC-6000の断面。導体は0.32mm径のものを45本縒っている。

バイリーンクリエイト株式会社のデンキトール。テープ状のものだ。

デンカエレクトロンのシールド編組チューブFLS-19。一番太いもの。

これも自作の電源タップ。オーディオリプラスの製品で固めている。

幅としては25mmくらい。厚みは15mm程度のケーブルだ。重さの感じもちょうどいい。

 さて、既にけっこうな文字数になっているし、実は締め切りも過ぎてしまっているので先を急ぐが、今回電源ケーブルの作り方として新しく取り入れたのは静電気対策と振動対策。これはフルテックのNCFブースター類(ケーブルを支えるオーディオ・アクセサリー。いろいろバリエーションがある)を使うと結果がいいので、じゃあその役割をケーブル自体に持たてしまえないかと考えた。
 まず静電気対策はバイリーンクリエイト株式会社のデンキトール(粘着テープ)。ウェブサイトの情報を引用すると用途としては「用紙やフィルムの貼り付け防止に。フィルダーの詰まり防止に。プラスチック成形品へのチリ・ホコリなど異物の付着防止に」。材質は「ポリエステル、ナイロン、導電性ポリマー、アクリル系粘着剤」。パッケージの説明としては「極細繊維の表面に導電性ポリマーを反応形成」させてあり、「コロナ放電により、近付けるだけで除電可能」だという。

 作り方を簡単に。
 サエクを必要な長さに2本用意し、まずビニールテープをグルグル巻いて1本化。続いてデンキトールをこれまたグルグル巻く。今回は2mの電源ケーブルだがデンキトールの5mが使い切るくらい。その上からコットンの包帯を巻き、仕上げとしてデンカエレクトロンのシールド編組チューブFLS-19をこれまた二重に被せている。耐熱糸に錫メッキ銅箔を巻きつけた上で網組したもので、屈曲性に優れつつも電磁波対策の効果がきっちりあるものだ。二重に巻いたのは一重だと下が透けて見えていてちょっとかっこ悪かったから。ちなみに編組チューブの方向は互い違いにしている。このあたり、再考の余地はおおいにある。

 製作で一番難しいのは導体を電源プラグやインレットプラグに入れることで、ホット、コールド、アースのそれぞれ2本ずつの長さをきちんと揃え、角度もきっちり整えて、まずホットとコールドの4本の位置を合わせ、続いてアースの穴に導体2本の位置を合わせ、そこからスコッと入れる工程。6本あるのでどこかでひっかかると導体の芯線の一部が入らず、まったくもって納得いかないことになる。ぐしゃぐしゃしている芯線では音にも芳しくない影響を与えてしまうだろう。

6本のケーブル(導体)が装着されるプラグ部。ここの作業が一番難しい。

電源ケーブルを作る時のセットが箱に入っている。あとはドライバーとかアンダンテラルゴのTMD、掃除用の無水アルコールなど。

 完成後、一晩慣らしをした後にとりあえず聴いてみたが、エネルギー感、密度ともに相当な手応えがあった。中でもトランジェントの高さは予想をはるかに超えて良かったのには驚かされた。この要素に関してはトランスペアレントの電源ケーブル、OPUS Power Cordがかなりいいのだが、さすがにそこまではいかないものの、けっこうな性能が出ていた。それを確認した後、ティグロンにHSE処理をしてもらうために送ったのだったが。

 どれくらい手応えがあったかは、サエクのAC-6000をリール買い(30m)したことからもわかってもらえると思う。と言ってもダブルで使うので1.5mの仕様にしても電源ケーブルは10本しか作れないのだが。実は勢いがついていてアイデアがいくつも湧いている。製作しつつ、実験しつつ、仕様を変えつつ、一本一本の電源ケーブルをどんどん仕上げていきたいのだが……。




(2020年8月31日更新) 第265回に戻る  第267回に進む 
鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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