コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第268回/相変わらずレコード中心で動いた8月[田中伊佐資]
●8月×日/大久保の「Submarine Records and Cafe Store」で駒草出版の浅香宏二さんに会う。 サブマリンはコーヒーやアルコールも飲めるレコード店。かなり早めに行って、人と会う前にレコードを探すパターンは、いつもギリギリの到着になる僕にとって精神的にとてもよろしい。 浅香さんにはかなり前から、なにか本を出しましょうと声を掛けてもらっていて、何本も企画書を書いてもらっている。さあ行くかとなったところでいつも「もうちょっと煮詰めましょうか」と言われそのまま頓挫してしまう。 この頃は企画書を書くのが好きな人なんだと認識し、出版の話はしないようにしている。しかし彼もレコードとオーディオに埋没している生活なので、たまに会ってはその手の無駄話をする。その日もそうだった。 |
『Bobby Charles』の米オリジナル盤 |
講談社のファッション誌「フイナム・アンプラグド」 9月25日発売。「UOMO」11月号(集英社) |
以前、ステレオ編集長の吉野さんとサブマリンへ行ったとき、彼が『Bobby Charles』のオランダ盤を買ったのを店主の河合さんは憶えていて「やー、これは奇遇ですね。昨日、アメリカ盤オリジナルが入りました」とカウンターに置かれた何枚もの出庫待ちからそれを抜き出した。そうなるとこれも縁かとそのまま購入。 後日その話を吉野さんにすると「買ったんですか。オランダ盤は音が良くて、持っていたアメリカのプロモ盤は守屋(ステレオ編集者)に売っちゃいました」と言われ、その価格も僕の三分の一だったことを知り微妙な気持ちになる。 ●8月×日/集英社のUOMOから「オーディオ沼にハマる男たち」という小特集をやるので、ぜひ話を聞かせてくださいと取材を受ける。 講談社のファッション誌「フイナム・アンプラグド」最新号でも「ハマりすぎてはいけない危険な趣味」というページの取材を受けて、「沼」の危険性をさんざん語った。 オーディオを始める敷居が高くなることを反省し、逆に今回は「オーディオは金がかかる趣味と偏見を持たれているが、安いMMカートリッジで好きな音楽(レコード)がグッと楽しくなる」ことを強調。9月25日発売の11月号に掲載予定。 ●8月×日/尼崎にちょっとした用があり、帰り道に大阪で途中下車してモノラル専門店「Bujin」に寄る。 このところ凝っているとかで、ヴィンテージの励磁型スピーカーを聴かせてもらう。クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテットが聴いたことがないほどのパリッとした音で鳴り、ちょっとグラッと来るが、もうこれ以上粘度の高いドロ沼でもがきたくないので、聴かなかったことにする。 |
ウェス・モンゴメリーの『Full House』の完オリ(もちろんモノ)がなんと4ケタという破格値で売っていて、ゲッとなったが「針飛び」の注記あり。 その部分の試聴をお願いし、ここですねとA2「I've Grown Accustomed to Her Face」をかけるがその気配なし。A3で傷っぽい箇所があり、そこを聴いてみるが難なくクリア。記載ミスかとB2も確認したが大丈夫。 僕はほかの盤と勘違いした説を唱えるが「何度も聴いたうえでの値付けなので間違いない」という。 |
「Record & Audio Store BUNJIN」の励磁型スピーカー |
ウェス・モンゴメリーの『Full House』 |
この暑さでヴィニールが軟化、自然治癒かもとなり(無理があるが)、見栄っ張りな東京人として「針飛び無しの通常価格で買います」と申し出るが、店長は「変えるわけにはいかない」と譲らず、格安価格で入手。 そんな試聴と問答があって、その日終電ギリギリで帰宅。 翌朝さっそく問題のA2をかけるが、あるところに来て飛んだ。針先や針圧の状況もあるが、レコードは生き物みたいで面白い。そのつもりだったのでむしろすっきりした。 この曲の邦題は「あの娘の顔に慣れてきた」。そのうち「あの場所の針飛びに慣れてきた」ってことになるのでしょう。 |
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