コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第269回/アキュフェーズの新しい試聴室[鈴木裕]

 メーカーやインポーターの試聴室に行って新製品を聴くことがある。各社、さまざまな試聴室を持っているが、アキュフェーズが新しい試聴室を作った。




 そもそも同社が創業したのは1972年。当初は東京都大田区にあった春日二郎氏の自宅を、事務所として使って設計を開始。その翌年、73 年 6 月に横浜市青葉区の、現在でも使っている社屋が完成して移転している。そこから47年。今夏、新しい建物が本社の隣に完成。基本的には倉庫機能をメインとする建物だそうだが、その中に新しい試聴室も設けられている。今までの試聴室は本社内にあって、開発をしている技術者たちのすぐ横に位置し、スタッフ用としてそのまま使い続けていくそうだ(この文章の中では仮に”旧試聴室”と表記させてもらおう)。

 今までの経験から言うと、試聴室には大きくわけて二つある。響きをデッド気味にして、オーディオ機器の音を厳密に評価する傾向が一方にあり、一般のリスニングルームや雑誌社の試聴室のように、ある程度響きを持たせて音楽を楽しめる方向の音作りの部屋の方向性がもうひとつということになる。たとえは、アキュフェーズの旧試聴室やヤマハの泉岳寺にある評価室は前者の方向性。それに対して、ここで紹介しようとしている新試聴室やフェーズメーション、エソテリック(ティアック)、あるいはノア/アークジョイア、アクシスといったインポーターが使っている試聴室は後者と言っていいだろう。もちろんその度合いはさまざまだが。



新試聴室。壁のように見える部分は布の張ってあるパネルで、取り外すことが出来て、吸音材や反射材などを入れることによって響きの量をコントロールをすることが出来る。


 さてこのアキュフェーズの新試聴室。設計、施工は日本音響エンジニアリング。音響的な構造体であるAGSが控えめに採用されている。スピーカーはファイン・オーディオのF1-12。アンプにとって大事な能率とノミナル・インピーダンスは、96dB (2.83 Volt @ 1m)で、8Ω。このスピーカーメーカー、元タンノイの技術者たちによって作られた会社だが、音の感じはタンノイとはずいぶん違うもので、まずもって低音は締まっている。全体的にある種のたくましさというか、いい意味で洗練された野性味があって、この方向性はフラッグシップのF1-12からエントリーモデルまで共通した音楽の聴かせ方に感じる。今回もそういう音色感が複数のアンプで聴いてきちんと感じられた。ただしスピーカー、部屋ともにまだ少し若い音の感じがしていたので、これは半年、1年、2年と経過していくうちに熟成されていくだろう。






(これからも使う)旧試聴室ではB&Wの800D3を鳴らしているが、新試聴室ではファイン・オーディオのF1-12を採用している。


 それにしてもあらためて思うのはアキュフェーズの人たちの着実さというか、前進の仕方だ。1973年、と言うよりもあえて昭和48年という言い方をした方が個人的には気分が出るが、その時に建てた最初の本社社屋をずっと使ってきたわけだ。おそらくいろいろと手狭になってきたのだろうが、50年近く経ってのやっとの新社屋。今までは、倉庫機能については近くに借りていたということだが、たとえば、80年代後半のバブルの頃などに元の社屋を建て替えるやり方もあったかもしれない。以前、副社長の鈴木雅臣さんが番組にゲストに来た時に、創業当時からあまり社員を増やさず、会社規模を大きくしないように運営してきたように見える理由を訪ねた時の答えとして「それがいいオーディオ製品を作るのにもっともいい規模だったから」という旨の言葉をいただいたのを憶えている。とても腑に落ちる答えだった。そう思っていてもいろんな事情で移転したり、新築したりする会社も多い中、その感覚を失わない人たちだ。今回、隣の土地が空いたということもあって、倉庫機能をメインとした新社屋につながったのだろうが見事に地に足がついている。

 プリアンプのフラッグシップC-3900、新しいフォノイコライザーC-47、ディジタル・ヴォイシング・イコライザーのDG-68と、最近のアキュフェーズの製品は、特性的にノイズフロアが下がったり、駆動力が増したり、といったこともあるのだが、体感的により闊達に鳴り、深みを持ったままモノの言い方が以前よりもはっきりしてきた。今回聴かせてもらったアンプやプレーヤーもそうした新世代の音をしっかりと持っている。これらの製品は旧試聴室で開発されたのだろうが、これからの製品がさらにどんな表情を見せてくれるのか。



 昔、オートバイのロードレースをやりながらバイク雑誌でパーツテストをしたり、記事を書いていた。そんな流れの中で、サーキットだけでなくタイヤメーカーやオートバイメーカーのテストコースでも取材していたが、コースの規模や中に設置されているコースのシチュエーションの数はそのメーカーの技術力を反映しているようにも感じた。リッターバイクで280~290km/hからアクセルを戻しただけで入っていくようなバンクのあるブリヂストンのオーバルコースは、やはりああいう環境でなければテストライダーが体感できない何かが存在している。アキュフェーズの新試聴室で新しい製品を聴きながら、そんなことも考えていた。



スピーカー側から見た試聴位置。左右の壁の角度など、平行面をなくして定在波を防ぐ考え方。適度に静粛性がいいので部屋に入るとほっとする。ちなみにスピーカーメーカーの無響室も体験させてもらったこともあるが、あまりに静かすぎて何か不安になってくる。


(2020年9月30日更新) 第268回に戻る  第270回に進む  

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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