コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第276回/あれ、マランツは音作りが変わったかな?[炭山アキラ]

 毎年、この季節はいろいろなメーカーや輸入代理店が、あるいはわが家へ見え、あるいはこちらが試聴室へ訪問して、結構な数の新製品を聴かせてもらう機会に恵まれる。それらのすべてが雑誌やウェブ・メディアでの原稿になると非常に効率が良いのだが、残念ながら「聴いたはいいけれどどこにもレポートする機会がない」という製品も、少なからず出てきてしまうものだ。それで今回はそういう個人的な「お蔵入り」製品の中から、インプレッションしていくこととしよう。

 今期聴いた新製品の中でかなり大きなインパクトを受けたのは、マランツのディスクプレーヤーとプリメインアンプだった。思えばマランツは、ある意味で数奇な歴史をたどった社というべきであろう。米NY在住のデザイナーでオーディオマニアのソウル・B・マランツ氏が、自ら音楽を楽しむために製作したアンプが知人を驚嘆させ、「私も作って下さい」という注文が引きも切らなくなり、メーカーを立ち上げた、という伝説をご存じの人も多いだろう。





 今なお愛用者の多いプリアンプのモデル7を筆頭に、数々のオーディオ史に残る作品を世へ送った後、ソウル・マランツ氏は米国の大手映像機器メーカーに自社を売却する。その社が当時「世界の工場」として日の出の勢いだった日本を生産拠点へ定め、日本マランツが誕生した。その後、米の親会社が左前になったせいでオランダのフィリップスへ移籍となり、そこでマランツはコンパクトディスクの開発へも深く関わることになる。日本でCDの普及を決定づけたのは、1985年発売のマランツCD34が爆発的に売れたせいだ、ということをご記憶の人も多かろう。私も使っていたが、当時5万9,800円とはとても思えない、渋く厚みのあるアナログ的な音質が魅力のコンポーネントだった。




CD6007とPM6007。ルックス的には長い間大きく変わっていないが、年を追うに連れ表現の闊達さなどは向上しているように感じさせる。まさに正常進化の積み重ね、という印象がある。


 さらに21世紀初頭だったか、デンオン(現:デノン)と組んでディーアンドエムホールディングスを設立、これで名実ともに日本の社となった。これだけの変遷を経つつも、「マランツ」というブランド名が失われなかったことは、同社のサウンドを長年愛してきた1人のファンとしても、本当にありがたく思っている。







SACD30nとMODEL30。フロント両サイドの乱反射を誘う凹凸のある凹面が実に美しい。見た目もずいぶん変わったが、音の違いもかなり私の耳には聴こえてきた。


 前置きがずいぶん長くなった。2020年秋の新製品へ話題を移そう。入門クラスというべきCD6007PM6007は、おそらく販売店によっては税抜きでセット10万円を切ってくるのではないかという廉価クラスながら、何より驚くのはPM6007のスピーカー駆動能力が相当に高いことだ。同社の試聴室は長年B&Wの高級スピーカーがリファレンスを務めているが、あの難物スピーカーから結構な音場感、また歌い手の込めた情感を引き出してくる。駆動力というとドラムのドカンというアタックなどがついつい想像されるが、本当に難しいのは微小域、声の微妙な抑揚や音場成分の消え際などである。


 CD6007も、かなりのハイスピードで活気のある音楽を奏でる。CDはもちろん、フロントに装備されたUSB-A端子へUSBメモリを挿すことで、PCMは192/24、DSDは5.6MHzまでの再生が可能になったこともうれしい。音質的には、もちろん「これで満足」とまでいわないが、例えばヘッドホン専門のマニアだった若い人がピュアオーディオを始めてみようと思い立った時、部屋へ迎え入れる第1号としては大いに頼れる存在になるのではないか。

 マランツ今期の目玉というべきSACD30nMODEL30のペアは、ディスクプレーヤーがネットワーク・プレーヤーとしても動作するようになっているのがうれしい。しかも、CDやSACDを再生する時にはネットワーク回路の電源オフが可能で、ピュアなディスクプレーヤーとしても使えるところなどは「マランツ技術陣、分かってるなぁ」と、思わず独り言ちることとなった。D/A変換部は384/32までのPCMと11.2MHzまでのDSDに対応と、現代の高品位ハイレゾをしっかりと再生してくれる。


 一方のMODEL30nは、今時珍しいといったら過言になるか、DACを搭載していないアナログアンプで、とりわけPHONO段の目覚ましい充実が大いに目を引く。背面の入力端子もCDとPHONOにはハイグレードのジャックを奢ってあり、何より負荷インピーダンスが33/100/330Ωの3段階に切り替えられるのが素晴らしい。また、プリ段とパワー段が明確に切り分けられた構成で、PRE OUT/MAIN IN端子まで装備されているのには驚いた。まったくもってどこにも手抜きのない、真面目一徹で煮詰められたアンプというイメージである。






 20年近く続けた、サイドへ向けて緩やかな弧を描く、同社の"顔"を全面イメージチェンジしたことにも驚かされたが、音についてもいささか変わったように感じられたのは私だけだろうか。


 個人的に、少々変則的ながらマランツとは結構長い"付き合い"がある。東京の大学に受かり(というかそこしか受からず)、さぁいよいよ下宿先のオーディオをそろえようという段になって、一番の購入候補だったのがマランツのプリメインPM-5だった。それまで何かと世話になっていた、今はなき大阪・日本橋のサウンドパル共電社では、メーカー希望小売価格10万円だったこのアンプが、何と5万円台で特売されていた。もうそこで決定しておけばよかったものを、「これから秋葉原の店へ通えるのだし、もっと安く買えるかも」と欲を出したのがいけなかった。当時のアキバでPM-5は安くても7万円台と、日本橋の方がずっと安かったのである。




10代の私が恋焦がれたアンプはこれ、PM-5だった。もっとも、私が大阪で目を付けた大安売りの個体は、ブラックフェイスでウッドパネルなどついてはいなかったが。今からすれば、少々値が高くても、シャンパンゴールドの顔だったら買っておけばよかったと思う。


 それで予算オーバーとなり、結局サンスイAU-D607の中古を買ってしまったのだが、PM-5のコクがあって彫りの深い表現は、それからもずっと気になっていた。そうこうしているうちに、高校時分のオーディオ仲間が大学生協のバーゲンで装置を新調するというではないか。売り場にPM-5はなかったが、PM-6aがあったので、いいぞいいぞとそそのかし、買わせてしまった。以来、帰省するたびに彼のリスニングルームへ入り浸り、散々聴かせてもらったし、彼がPM-6aを手放すといった時には、引っつかむようにしてわが家へ迎え、終段のトランジスタを焼いてしまうまで、結構長く使ったものである。

 それから数世代が過ぎ、マランツはPM-90くらいの代で大きく音の傾向を変えたように感じた。現在の同社に相通ずるハイスピードでサラリとクリアな現代的サウンドである。その反応の速さと音場の見晴らし良さ並びに広大さは、私も大いに好むところであったが、その一方で往年のタメを取ったコクの深さが失われていったのには、致し方ないこととはいえ、少々残念にも感じていた。

 時を隔ててこの令和2年、装いも新たに登場したMODEL30は、一聴して昨年までの音作りとは一味違うように感じられた。これまで長々思い出話を語ってきたのはほかでもない。これまでのワイドでハイスピードでという傾向に、青少年時分の私が好きだったかつてのマランツ・サウンドがブレンドされたような、そんな印象を抱いたからである。

 もっとも、この新製品が"復古調"の音作りなのかといえば、全然そんなことはない。現代オーディオらしい切れ味や俊敏さ、針穴を通す高解像度を有しながら、どことなく声に潤いが増し、どこかでフッとジャジーな哀愁味なども感じさせる、そんな表現の方向性に感じられた、という次第である。








で、友人をそそのかして買わせたのがこちら、PM-6aである。PM-5がA級/AB級切り替え式だったのに対し、6aは総出力の1/4をA級動作にしたクオーターA増幅方式だった。音はもちろん6aの方がずっと良かったが、終段のトランジスターを冷却するヒートパイプからポコポコと沸騰音が聴こえてきて、静かな環境にはあまり向かなかったと記憶する。


 マランツには、令和2年の新製品というともう1シリーズ、CD-12とPM-12のOSEというバージョンが発売された。従来製品のCD-12とPM-12をベースとして、上級機譲りのとんでもない高級パーツを一部実装し、アルミのトップパネルを採用するなど、シャシーの剛性も大幅に高めた構成の製品である。「開発の時点でエンジニアがやりたかったけれどコストの都合でできなかったことを、全部ではないもののかなり盛り込んだ」作品という。

 こちらの音はやはり長く続いたマランツ流で、さらにピュアリティを高め、音を屈託なく伸びのびと鳴らしているような感じがある。価格は少し上がったが、これだけ音の品位が高まったのならば納得というか、むしろ"安いもの"という印象すらある。


 アンプで比べるとMODEL30が27万円、PM-12OSEは35万円だから、ある意味似たクラス同士の製品ということもできようが、音質傾向は少しばかり違うところを聴かせてくれた。これは社内としても両立に値する存在と認められ、商品化されたのであろうと容易に推測できる。どちらかを使ってシステムを構築するように命じられたら私も結構迷うが、やはりあのコクを買って30シリーズを使うかな、という気もする。いや、実際にOSEの高品位っぷり、上級機に肉薄する解像度やスケールも、これはこれで大いに捨て難いのだ。



 実のところ本稿は当初、今秋に聴いた新製品の中で雑誌やウェブ・メディアへ原稿を書くことがかなわなかったものを、供養代わりに"大蔵ざらえ"するつもりで書き始めたのだが、いやはやマランツだけで結構な文字数になってしまった。他にも聴いたまま意見を吐き出していない製品がいくつも存在するのだが、それはまた回を改め、おいおい触れていこうかと思う。しかし今年のマランツは本当に豊作だったなと、ここまで書いて私自身が実感した次第だ。




CD-12とPM-12のOSEバージョン。見た目はほとんど変わらないが、回路内のパーツとシャシーにずいぶんカネがかかっている。音はまさに現代オーディオの良き典型というべきもので、モタモタしたところのない小気味良さは大いに買える。決して廉価な製品ではないが、CPの高さという面ではかなりのものである。

(2020年12月10日更新) 第275回に戻る  第277回に進む 

炭山アキラ

炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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