コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第278回/人生もオーディオもやりなおせない[鈴木裕]

 かつて村井裕弥さんがどこかに書いていたことに、1年に一度はオーディオアクセサリー類を全部外してみよう、というのがあった。電源ケーブルもRCAケーブルやスピーカーケーブルもオーディオアクセサリーなので、これらを取り外してしまうと音が出なくなるわけだが、言わんとしていることはわかる。たとえばプレーヤーなどの脚の下に設置するインシュレーターを外せば、とりあえずそれが元の音なのだ。それを基準にまた考えよう、ということだろう。無駄にアクセサリー類を使っているかもしれない。取り外した方が実は良くなるかも。そんなにいろいろ重ねてアンタどうすんの。うちのやつも横で笑っている(村井さんすみません。模倣してみました)。元の音をあらためて確認してからアクセサリー類を使うべし。そんな風に受け止めているのだが。


 最近ごく一部だが、それをやってみた。と書くと村井さんの言葉を思い出して殊勝に基本に立ち返ったみたいだが、残念ながらそんなこともなく、コード・カンパニーのパワーアレイを複数使うに伴っての一連の作業だった。


前段系の電源は、まず自作の電源ボックスに入る。オーディオリプラスの各製品を使っている。

プリアンプ、フォノイコ、CDプレーヤーの電源タップのインレットところ。最初にプリアンプの電源ケーブルが挿さっているが、その横にパワーアレイ。
そして、その横にはフォノイコの電源ケーブル、横にはオーディオプリズムのクワエットライン。その横にはCDプレーヤーの電源ケーブル、横にはアイソテックのアイソプラグ。

最初の写真で二つに分かれた前段系の電気。こちらもリプラスの8口の電源タップに入り、 USB DACとパワーアレイ、味付け用のパラメトリックイコライザーとクワイエットライン、ミュージックバードのチューナーとHWTのパワー・サプライ・エンハンサーⅡ、ミュージックサーバー(NAS)とノードストのQk1と挿してある。

パワーアンプ側は、まず壁コンセントからiFi PowerStation(これ自体、並列型電源フィルター付きの電源タップ)に入っている。そしてMITのマグナムACⅡ(電源ケーブル)を通って、次のチクマの電源タップへ。

 まずパワーアレイの説明をごくごく簡単に。壁コンセントや電源タップなどの空いている口に挿して使うオーディオアクセサリーだ。このような使い方の製品に対して、”並列型電源フィルター”という言葉を鈴木裕は使う場合が多いが、実は内部は回路になっていないので並列型ではない。同社のケーブル類で開発された技術、アレイ・テクノロジーを応用した“アレイ型電源フィルター”である。その効果はまず、再生音から高周波のノイズを除去し、音の混濁や付帯音、スモーキーで見通しの悪い感じを強力になくしてくれる点。2番目に、スピーカーから音が出ていない感じが強くなり、立体的なサウンドステージ、立体的な音像が見えてくる感じが極端に強まる点。3番目は低音の風圧のような感じが出たり、密度の高い低音感が得られる点。そして大事なのはこうした働きを発揮しつつも、人工的な音色感にならず、音楽を聴くのに相応しいナラュラルな音のたたずまいを再生音にもたらしてくれるアクセサリーである点だ。


 10月から拙宅のシステムに1個、このパワーアレイを使ってきた。プリアンプとCDプレーヤーとフォノイコライザーの電気を取っている電源タップ。オーディオリプラスのもので3つのコンセントはシリーズではなくパラレルで接続されているが、距離的にもっともインレットに近いところ、プリの電源ケーブルが挿してあるコンセントの横にパワーアレイを挿してきた。


 『アナログ』誌vol.70の記事では、システムに対してひとつのパワーアレイを使えば大丈夫なのか、2つ以上でさらに良くなるのか、というのが焦点だった。うちの場合は、パワーアンプ(とプリとパワーの間に入っているイコライザー)と、前段系は配電盤の中のブレーカーからして別にしているので、それぞれにひとつずつ、合計2個使った方が結果がいいのは当然として、前段系の中でも2つ使って効果は上がるのか、というのがミッションだった。結果としてはこれだけ変化率の高いオーディオアクセサリーであっても、ふたつ使ってみたらさらに良くなった。


 さて、『アナログ』誌はここまでしか書けなかったが、実はその後がある。他の並列型電源フィルターを取り外すとどうなるか、という話題。

 うちのここ1年くらいの原則としては、ひとつのコンポーネントの電源ケーブルを挿したら、その横にはかならず並列型電源フィルターをひとつ挿す、という形になっている。そのいっぱい使っている電源フィルターを、ひとつ、ふたつ、みっつと取り外していった。4回目で残り全部を外した。数えてみると12個の並列型電源フィルターを取り外した。その結果はきわめてわかりやすいもので、トータルの再生音の帯域バランスはかなりハイバランスになり、歪みっぽくなった。歪みっぽくなるのはそれら、取り外した電源フィルターの基本的な効果からして当然だが、こんなにハイバランスになるとは思わなかった。低音の押し出しが弱くなるし、音の重心が上がってしまう。芳しくない。そこまでやったところで疲れてしまって寝た。翌朝また聴いたが到底そのまま音楽を聴くような状態ではなく、どのフィルターをどこに挿すかのコンビネーションを多少変えたが。結局、すべてのコンポーネントの電源ケーブルを挿してある横には、すべて並列型電源フィルターを挿す、という元の形に戻った。
 そもそも空いたコンセントに電源フィルターを装着していく過程で、とうぜんひとつずつ音を確認している。挿してみたら好きじゃない音の電源フィルターもあったわけだし、この音だったらこちらに使ってみた方がいい、といった組替えもしてきている。あるいは、ちょっと気になる音の成分があるが、トータルで言うとプラスになっているので、自分の中でそういう認識を持ちつつ使ってきたものもある。紆余曲折あれ、そうやってひとつずつやってきたわけだから、取り外したら芳しくなくなるのも当然だ。もしかして、と思ってやってみたが、やはり芳しくなかった。


 そもそも、拙宅の電源対策としてはそれ以前に、オーディオのある部屋以外には、エアコン、冷蔵庫、テレビ等にはフェライトコアのノイズフィルターを30個ほど使用している。それもいったん取り外してみようとも思ったのだが、やめた。結局、ネガの部分が出て、元に戻すことになるのは間違いなさそうだったからだ。


 そもそも、たとえば壁コンセントひとつ取っても、オーディオの電源を取っている壁コンセントはふたつあって、どちらもパナソニック電工のWN1318という、ホスピタルグレードのコンセントに変えてあるが、これからして何に戻せばいいのだろうか。家が建った時に装着されていた2Pのコンセントが元なのだろうか。


 いきなり重い話で恐縮だが、人生がやり直せないように、オーディオもなかなかやり直せない。引っ越してまったく違う環境の物件に住むとか家を建て直せば、またイチからやり始めることになるのだろうが、現状そういう感じでもない。背中に重い荷物やら風船やらを背負って、オーディオをやり続けるしかないようだ。


チクマの電源タップ。パラメトリックイコライザーの電源ケーブルの横にパワーアレイ。クワイエットラインの横はMITのZ CordⅢでもうひとつの電源タップへ。

モノーラルのパワーアンプ用の電源タップ。リプラスのものだが、これ自体、よりそい型の電源フィルターの機能がある。空いている口に置いてあるのは自作のインシュレーター。いわゆる入り江型。下からコルク、鉛、ブチルゴム、鉛、真鍮、という素材を重ねてある。高周波のノイズの飛び込みと振動対策。

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鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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