コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

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第283回/ムック付録のフォノイコライザーがずんずん出世した1月[田中伊佐資]

●1月×日/音楽之友社のムック「レコードが覚醒する! EQカーブ調整型真空管フォノイコライザー」の付録フォノイコがめちゃ楽しい。

 価格は税込み19,800円。楽しいといっても、ちょっとしたオモチャとしてであって、音質的にはたかが知れているだろうと見くびられそうだが、そんなもんじゃなくて、遂にシステムのメイン・フォノイコにまでなった。

 ステレオ誌で連載している「ヴィニジャン」で担当者からフィーチャーしてくださいと依頼があったとき、そこにも書いたが「忖度という名の絶賛が渦巻く原稿=宣伝」はしたくないと当初は突っぱねた。付録で4ページ分を埋めるのはしんどいなあとも思った。しかし思いのほか書くべきネタはたっぷりあり、とうとう個人として愛用するまでになった。

 シンプルな回路といえば聞こえがいいが、そんなにコストをかけられないから最少限のパーツで構成されている。そのためなのか音は非常に明け透け。カートリッジ回りやプレーヤーがちゃんと調整できていれば、そのまんまの音が出てくれる。逆に音の仕込みがずさんだと、それもストレートに出てしまう。

音楽之友社のムック「レコードが覚醒する! EQカーブ調整型真空管フォノイコライザー」 音楽之友社 19,800円

 価格からすれば、一般的には初心者向けってことになるかもしれないが、ただつなげれば何もしなくても即いい音が出る高級品こそが、初心者向けという気がしなくもない。金を出せるのが上級者、出せないのが初心者ではないわけで。

ONTOMO Shopで販売中のフィディリティムサウンド×stereo 15V仕様トランス電源アダプター

 それはともかく、ムック本そのものは「改造の手引き」が満載で、一手間かけて音質アップさせることが基本にある。

 まずは手始めに電源部を変える。ACアダプターのノイズ拡散をなんとしても阻止したい。ちょうど持っていたアコースティックリバイブの外部電源RBR-1から給電してみた。声や生楽器に顕著だが、ノイズによる微妙なガサツキが激減してクリアになる。

 ついでにこの電源部にはUSB出力端子があるので、そこにもパイオニアのUSBサウンドクオリティアップグレーダーなるノイズ除去小物APS-DR200をさす。これもはっきりと効果があった。

 こうなるとオントモのオンラインショッピングで販売している「フィディリティムサウンド×stereo 15V仕様トランス電源アダプター」を試したくなって、サンプルを借りてみた。

 これはヴィニジャンの取材でもすでに聴いているのだが、手巻きで作られたEIコア型トランスがミソらしく、これも相当いい。このフォノイコに限った話ではないが、何かしらのACアダプターのノイズ対策は必須だ。

 内部へ目を向けると「改造書」に買いてある通り、背面のアース端子から基板上のアースまで線材で直結させてみた。とりあえずスピーカーケーブルとして使っているベルデン8470の余りを流用したが、これは想像以上に効いた。となると線材によって音も変わるだろう。これは出口の見えない魔窟だ。踏み込まずにオペアンプの交換へ進むとする。

 改造書には新日本無線製が何種も紹介されていて、前段MUSES01D、後段MUSES8820Dを決め打ちで買った。
 そのうちバーブラウンやテキサス・インスツルメンツのものが欲しくなるだろうが、吟味が始まるとこちらの魔窟からも脱出が困難になることは容易に想像できる。

 真空管はECC82/12AU7を使用している。付属のJJ製が粗悪な感じはまったくしないが、RCAのビンテージ品、通称クリアトップに変更してみた。真空管は取材でテレフンケンやムラードなどと聴き比べた。その結果、RCAはアメリカ製らしい明朗な押し出しがあり、僕の好きなロックサウンドに合っていた。

 鉄板の筐体もなんとかしたくなる。オントモ・オンライン・ショッピングで「ラックスマンキットシリーズ用 ブラックウォールナットケース」があることを知り、これだと思った。

 このケースはいわば見映えを目的とする商品だ。雰囲気がいきなりゴージャスになって付録感は一掃される。しかしそれだけでなく、無垢材が音に与える影響も少なくない。

基板までアース線を延長し、オペアンプ、真空管などを交換

 実際にケースをフォノイコへはめてみると、無垢板に接触しているのはフォノイコの底板だけで天板と側板にはコンマ数ミリの隙間がある。この空きが無いと後ろからスライドして装着できないから仕方がないが、全体の筐体強化にならないのはもったいない。

ラックスマンキットシリーズ用 ブラックウォールナットケースを追加する。無垢材の響きがのり、音質的にも重厚感が増す

 取りあえず試しに、重ねた紙をフォノイコ下部の隙間に差し込んで天板とケースを密着させてみた。これだけでも音には影響があった。筐体のちょっとした金っ気が引っ込んでウッディな落ち着きが出た。

 そうなると、紙ではなくもっと好適な素材はないのか、場所や面積はどうするかなどを検討する必要がある。金は無くともしばらくホームセンター通いで楽しめそうだ。

 ちなみにケースのインシュレーターも重要だ。ケースにはアルミ製のものが付属しているが、アコースティックリバイブの天然クォーツQR-8を3点支持で底に貼ってみた。

 本来の使いかたは、部屋や機器の共鳴チューニングチップだが、サイズ的にこれがいい感じ。それに無垢ブラックウォールナットのボードをパワーアンプに敷いているのだが、天然クォーツインシュレーターとの相性がいい印象がある。

 というようなことで、チマチマと手塩にかけていたら、著しく成長し、レギュラーメンバーにまでなってくれた。

 そんなところへちょうど、ステレオ誌で「改造フォノイコ競技会」が3月に開催されるらしい。もちろんエントリーしてどこまで頑張れるか勝負してみたい。あと1か月間ほどさらに鍛えてやろう。

(2021年2月19日更新)   第282回に戻る  

田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。近著は『大判 音の見える部屋 私のオーディオ人生譚』(音楽之友社)。ほか『ヴィニジャン レコード・オーディオの私的な壺』『ジャズと喫茶とオーディオ』『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。 Twitter 

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