コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第287回/コンサート用、オーディオ用に音のいいマスクを[鈴木裕]
既に発表されているように、今年6月に予定されていた音展「OTOTEN2021」や、アナログオーディオフェア2021は中止が決定してしまった。ただし、少人数のものは開催されている。自分も先日、ダイナミックオーディオ5555のイベントでしゃべらせてもらった。詳しい企画や選曲などはリンク先を参照していただくとして、8名のお客さんの前でしゃべったり、オーディオで音楽を聴いてもらった。自分もお客さんも全員マイクをしながらのイベントだった。その時に思ったのだ。音のいいマスクがあればいいのに、と。 マスクをしてオーディオを聴くと音は悪く聞こえる。きちんと装着してる場合も悪いが、アゴにかけるようなつけ方をしている時が一番悪い。理由は明白で、まずは顔の表面を伝ってくる音の成分を吸収してしまうのがひとつ。もうひとつは、音波がマスクの部材やヒモに当たって回折(かいせつ。英語でdiffractionの方がわかりやすいかもしれない)する時に音波が変形してしまう。大事な成分がなくなってしまったり、本来は存在しない成分が発生したりもする。マスクをアゴにかけるようにしている時は、耳の直前をマスクのヒモとかベルトとかが垂直方向に遮ることになるわけで、これによって音の流れを阻害している。これがオーディオの音を聴いている時でも、生演奏を楽しんでいる時でも、音、そして演奏自体の魅力を削ぐことになる。 |
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マスクをする時はちゃんとする。外せる時は外す、というのがとりあえずの最低限の解決方法。自分もオーディオの試聴の時は外している。出版社の試聴室に編者者がいても、聴いている瞬間は話しかけるわけじゃないし、黙って聴いている時に飛沫が飛んでいるとは思えない。聴き終わったらマスクをしてから会話をすればいい。 ただ、クラシックのコンサートなど、お客さんがマスクをしていなければいけないルールがあるので、これはちょっとなんとかしたいところだ。安くないお金を払って聴きに来ているわけで、楽しみを多少なりともスポイルされてしまうのはやはり芳しくないだろう。市松模様的に客席が空けてある場合でさえ、マスク装着しなければいけないのは不合理にも感じる。 そこで思いついたのだが、どこかのメーカーに音のいいマスクを作ってもらうというのはどうだろう。あるいは、不織布のマスクの上から装着して、音を吸収しないようなカバーもありかもしれない。 と書いてはみたものの、音を悪くしないマスクの具体的なイメージがぜんぜん浮かばない。音の吸収とか反射に関して肌に近いような性質の素材ってないのだろうか。ちょっと思いつくのはシリコンとか、しなやかになめしたレザーとかなのだが。 |
たとえば「トランペット用マスク」という言葉で検索すると、2種類のものがヒットする。ひとつはトランペットのベル(音が出るラッパ状のところ)に被せて、奏者からの飛沫がトランペットから出ないようにするもの。もう一種類は一般的な口にするマスクに穴が空いていて、そのマスクをしながらトランペットを吹けるもの。ちなみにこのバリエーションとしてサックスやリコーダー用のものもあるのだが、そのマスクをして吹いている顔がチャーミングで、というかほんとのことを言うとちょっとカッパのようで、なかなかシュールなのだが。フルート用のはカラス天狗のようだ。みなさん一生懸命考えているのが伝わってくる。合唱団用のマスクというものあるのだが、面積がかなり広く、これはリスニング用としては芳しくなさそうだ。 そう言えばと思いついたのが自転車に乗る時用に購入したスポーツ用のマスクだ。耳にかけるのではなく、ベルトを頭の後ろの方に回して、頭の後ろの部分でマジックテープを合わせて位置を固定するタイプ。ロードバイクの場合、こういうやり方のが外れにくいのだろう。耳にかけないので痛くなりにくいというのもある。これをベースに形状を工夫すれば音への影響を緩和することが出来るかもしれない。もちろん自転車用のものはウレタン製だし、けっこうゴツイのでリスニング用には適さない。シリコンとかなめした皮でこの形状をベースとして音への影響を配慮したものを作るのはアリかもしれない。 なかなか名案が浮かばないが、新コロナウィルスに関しては、いろんなことで同じように決定的な解決策が出てこない。ほんとに厄介な疾病だ。 |
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