コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第288回/使いこなせなかった頃の自分を懺悔する[炭山アキラ]

 このところの私はオーディオライターとしてはほとんど開店休業で、オーディオアクセサリー専門ライターみたいな状態になってしまっているが、もともと自作派なものだから、駆け出しのオーディオマニアだった頃から、ホームセンター(少年期には近隣になかったが)やバラエティ・ショップなどでさまざまな小物を見つけては、「おっ、これはインシュレーターに使えるかも」「鳴き止めにいいかも」などとやってきたものだ。メーカー製の立派なアクセサリーを使い始めたのは、この業界に入ってもうずいぶんたってからというお粗末な話ではあるが、ある程度の基礎は身についていたと自負している。

 念のために申し上げておくが、別段私はハードの試聴を断っているわけではなく、単にお声がほとんどかからなくなってしまっただけの話である。まぁ、巨大なバックロードホーンをリファレンスにして、誰も聴いたことがないようなヘンな音楽ばかり紹介している私を試聴に起用するのは、リスクが高かろうというのも理解できる。「まぁ自業自得だよね」といったところだ。一応、一般的な機材の試聴をする際、また「オーディオ実験工房」のリファレンス曲を選ぶ際などには、ごく普通の音源を使うようにしてはいる。それでも、「炭山さんの選ばれる音楽は独特ですね」と時折いわれ、ゲッソリするのだが。

私が20世紀のFM雑誌で頓珍漢なことを書いてしまったのは、こちらタオックのTITE-46PIN (写真はモデルチェンジされたTITE-46GP)である。そもそもステンレス製のしっかりした受けが付属していたのに、それをわざわざ外して使い、的外れな評価を下していたのだからたちが悪い。素晴らしい製品を作ったタオックと読者の皆様へ、謹んで土下座せねばなるまい。

 というような次第で、アクセサリー類がほぼ主戦場になった感のあるわが身だが、今のように膨大なアクセサリーの大半の持ち味を引き出し、正当に評価できるようになったのは、贔屓目に見てもここ20年近くといったところではないかと思う。実は、自分が使いこなせなかったくせに「あんなアクセサリーは百害あって一利なしだ」などと思い込んでいた製品がいくつもあり、今となっては汗顔の至りである。

オヤイデのINS-USは、ごく僅かに先端が丸くなっている。スパイクの持ち味を結構残しつつ、より扱いやすくなったタイプである。直径2cmと小ぶりで、受けのINS-SPと一緒に買っても4セットで4,620円と廉価なのもありがたい。

 また、以前は本当に箸にも棒にもかからなかったあるジャンルの製品が、その後各社が大いに力を入れた結果、今や押しも押されもせぬアクセサリー界の大立者へ進化した、という例もあるから面白い。今回はそんなアクセサリーのいろいろを取り上げ、特に私が昔なぜ使いこなせなかったのかを懺悔することにより、皆様の使いこなしの一助になれば、と考えた次第だ。

 30代頃の私が忌み嫌っていたアクセサリー、それはスパイクである。もともと私は長岡鉄男氏と江川三郎氏のお2人に強く感化され、両氏が行われた実験のいくつかを追試することで自分のオーディオを構築してきたという側面が強い。だから江川氏が創始されたスパイクというジャンルも、早くから知ってはいたし自分でもいろいろ実験してきた。

 ところが、当時の私にはどうやってもあのスパイクというヤツにいうことを聞かせることができなかった。例えば、しっかりとセッティングを決めたつもりのスピーカーとスタンド、あるいは床の間にスパイクを挟んだら、もう無残なまでに低音が減衰し、キンシャンと耳障りで力のない再生音になってしまうのだ。20世紀の終わり頃まで勤めていたFM雑誌のオーディオページで、それをそのまま実演して「スピーカーの高さが稼げない時、低域の膨らみを抑えるためによい」なんて書いてしまったのだから、今思い出しても顔から火が出る思いである。

 当時の私が使いこなせなかった理由、それは簡単明瞭である。試聴室の床へ直接、あるいは木材などの柔らかい素材へスパイクの先端を突き刺して使っていたからだ。スパイクにも斜面の角度が急峻なものと緩やかなもの、先端が尖ったものと丸められたものがあるが、私が初めに使って絶望した製品はタオック社のTITE-PINで、割合に急峻で実によく尖っていた。

 こういう角度があって先端の尖ったスパイクは、柔らかいフロア材や材木などに突き刺すと、ゼロに近い面積がそう強くもない素材と接する、あるいは突き刺さるのだから、それこそフワフワの面で支えたのと動作は相似になり、低域の馬力や量感があっけなく失われてしまうのだ。

こちらはクリプトンのソフトスパイク。大きな直径の球の表面をごく一部切り取ったような格好のインシュレーターである。こちらもできるだけ硬い面で支えてやりたい。やはり受けのノウハウが生きるグッズだ。

 その代わりといっては何だが、角度が急峻で先端の尖ったスパイクは、適切な形状と硬さの受けを使って設置してやると、一気に低音の量感が戻り、雑味を巧みに抑えつつハイスピードで活気のある研ぎ澄まされた音へ変貌してくれる。本来はそれこそが"スパイクの音"というべきなのに、当時の私はそういう正しい使い方を身に着けることなく生半可なままスパイクを食わず嫌いし、あまつさえ読者へ間違った情報を発信してしまったのだから、当時お読みいただいた方には心よりの謝罪をしなければならない。

アンダンテラルゴのスパイク受け。こちらは小ぶりでステンレス製のSM-5Xだが、大ぶりなもの、そしてステンレス製とチタン製があり、また受けの凹面が急峻なものとブロードなものもある。特に何百万円もするトールボーイ・スピーカーのスパイクへ組み合わせるなら、何を措いても同社へ問い合わせてみられることを薦めるものだ。

 つまり、スパイクは生かすも殺すも"受け"次第というのが正解なのだが、ただ凹みのある硬い素材で愛ければ万事解決、というわけでもないから話はややこしい。硬度や鳴きやすさを含めての材質、受け素材の体積・質量と床へ接する面積、凹みの形状といったすべての項目がスパイク本体並びに上へ載せる機器の大きさ・重さと密接に関係してくるのだ。

 お恥ずかしいことだが、私自身もこの問題に完全な解を持ち合わせるほどの実験ができていない。アンダンテラルゴはおそらく世界で最もそのあたりを実験・解析し、ほとんどのシチュエーションに最適の商品ラインアップをそろえていると考えられるから、スパイクに"最上"を求める人は、ぜひとも一度同社の受け製品を試してみるとよいだろう。同社製品は貸し出しサービスがあるから、そこも安心だ。

 一方、こういう「本来の形」というべき斜面が急峻で先端の尖ったスパイクに対し、先端が丸められている製品も世には多く存在する。あるいは、斜面角度が非常に緩やかな製品も探すと結構ある。これらはどちらもスパイクの働きを緩くする方向のチューニングで、いろいろな機器に対して扱いやすくなる半面、やはり適切に使った"本来の"スパイクと比べると、突き抜けたスピード感や解像度、S/Nの向上という項目も緩やかにならざるを得ない。もっともこれは長短ということではなく、機器との相性とユーザー個人の音の好みにより、効き目の強さを選ぶのがよいと思う。

 また、スパイクの使いこなしに関しても、一般的な面で受けるインシュレーターとは一部違うところがあり、注意したい。特にスピーカーでこれが顕著なので、以下それを前提に話を進める。

 面で受けるインシュレーターをスピーカーに使う際には、ごくごく一部の例外を除き、スピーカーをできるだけ四隅(あるいは三隅でも)で支えるのが好ましい。スピーカーのキャビネットはユニットの音楽再生を受けて振動しており、これはあまり知られていないが、キャビからの放射も再生の少なからざる要素となっている。底板の面をインシュレーターで支えると、底板だけ振動が不自然になり、スピーカーの鳴りっぷりが損なわれることが多いのだ。特に強度の高いインシュレーターとスタンドを使っている場合にそれが顕著で、スタンドの物量へキャビネットのエネルギーが吸収されてしまい、どうにもショボくれた鳴りっぷりになってしまうことがあるから注意したい。

 スピーカーを四隅で支えると、板の振動が自然になり、スピーカーの鳴りっぷりは向上する。というより「本来の鳴りへ復する」といった方がよいだろう。それゆえ、私は自らのリファレンス4ウェイ・スピーカー「ホーム・タワー」(以前報じた通り、FE168SS-HP導入に伴い、暫定的に3ウェイで使用中)は、ウーファーとミッドバスのキャビを四隅で支えているし、機会あるごとにできるだけ多くの人へこのことを伝えてきた。

 いや私自身、これは自ら発見したのではなく、亡くなられたオーディオ評論家の沢村とおる氏に教わったものである。沢村氏に関しては「オーディオ実験工房」でも再々話題にしているし、キャリアの長いマニア諸賢ならご記憶の人も多いかと思うが、本当にノウハウの塊のような人だった。それも、故・金子英男氏のような膨大な物量と時間をかけて行う音質対策ではなく、最小限の物量と手間で最大の効果を得るための対策や自作アクセサリーが多かったものである。

「あ、そういや沢村先生もスパイクはお嫌いだったっけ」などと、書いていて思い出した。沢村氏が亡くなられたのは20世紀の終わり近く、確か1996~97年頃と記憶している。やはりまだその頃まで、それほどスパイクの使いこなしは広まっていなかったのだなと、自らの不勉強をそっちのけにして妙に納得してしまった。

以前にも紹介したKOTOBUKIの「音極振」KS-01。現在のわがディスクプレーヤーへは、「実験工房」で製作した簡易型沢村式インシュレーターを挟んでおり、音極振は小休止中というところだが、近日サブシステムを組む必要ができたものだから、遠からず再登板ということになるだろう。

 で、そのスパイクをスピーカーに使った場合の話である。いろいろ実験していたら何たることか、四隅で支えなくともスピーカーの動作がさほど乱されないではないか。というか、スパイクと受けをペアで使うにはしっかりとした平面で支えてやらねばならないものだから、隅で支えようとすると安定を欠くこと甚だしく、仕方なく少し内側で支えたらほとんど悪影響がなかった、という次第である。

 スパイクは受けとの間で縦方向は強固に支えられるのに対し、横方向にはかなり自由に首を振ることが可能で、とはいっても上下両平面で支えられている限りふらつくことは全くないのだが、その横方向へのノーストレスさが底板の振動を妨げることなく、振動を乱さずに支えるという離れ業を可能にしているのではないか。以上はあくまで私の推測だが、そうとでも考えなければ説明がつかないのだ。いろいろなところで書いているが、本当にオーディオアクセサリーとは、奥の深いものである。

 一方、面で受けるインシュレーターについても、実はこの20年ほどでいろいろな知見が貯まった、というか自分の偏狭なものの見方を広げてくれる出来事にいくつも当たってきた。情報を伝える側がこんなことでは本来いけないのだが、業界全体も現在進行形でどんどん新しい知見が公開され、そして私自身も皆さんと一緒にノウハウを蓄積している最中のアクセサリー業界だけに、ご寛恕いただけると幸いだ。

 一つは、「柔らかい素材のインシュレーターが、必ずしも柔らかい音になるのではない」ということ。例えば、冷蔵庫や洗濯機、エアコンの室外機の下などへ敷く合成ゴムの板をスピーカーへ敷いたら、それは明らかにゴムの音になる。全域に力感が乗るのは好ましいのだが、どうも中低域に過剰な弾力が付きまとい、好みが分かれるものだ。あの弾力を「柔らかい音」と捉えることもできよう。

 また、自動車のようにスプリングで浮かせるタイプのインシュレーターも、以前ならどこどなくフラフラと焦点の定まらない音になるようなイメージを持っていたものだ。それから、例えば幼児用の柔らかいボールなど、即ち空気で浮かせた場合も、何ともボヨンとした鳴りっぷりになって困惑したものだ。

 しかし、それらは決してゴムだったりスプリングや空気だったりという素材そのものが悪いわけではない。それらを万全に生かすことができていないのが悪いのだ。それを分からずに、いい加減な情報を発信していた過去の自分に飛んで行って教えてやりたいが、もちろんそれはかなわない。

 ゴムといってもさまざまな素材があり、黒い合成ゴムと半透明のシリコンゴムとではまるで音質傾向が違うし、硬さによっても音は千変万化する。また素材の厚みが音質へ決定的ともいえる違いをもたらすのも、オーディオ的に面白く、また恐ろしいところである。

 スプリングは、単体ではどうしてもビンビン鳴きが乗るからそれをどう養生してやるか、また何度も反復しようとする伸縮をどう抑え、振動を一発で止めてやるかが音質を致命的に左右する。

リファレンス4ウェイ「ホーム・タワー」は特許機器のウインドベルが足元を支える。もう長く使っているが、性能に衰えは一切感じさせないし、他の製品へ交換する気も一切起きない。左隣はリファレンスBH「ハシビロコウ」だが、こちらは床というか、オーディオ用に設置したベースへ直置きにしている。その方が明らかに音が良かったからだ。

 空気もまた同様だ。どうやってQを抑え、空気バネの持つ素直な特性を生かしてやるかが勘所であろう。幼児ボールは、あの柔らかいボール素材のゴムが悪影響を及ぼしているのではないかと推測している。

 というような次第で、わが家のリファレンス・インシュレーターにはスプリングの「ウインドベル」もシリコンゴムの「音極振」も入っている。ウインドベルはもう設置した瞬間から大いなるS/Nの向上と爽やかで芸術的な高域というキャラクターへ惹かれ、一度実験した瞬間に自宅への導入が決定してしまった。音極振も、借りてきてディスクプレーヤーの足の下へ入れたら、初日こそ少々ブヨブヨした質感が乗ったものの、2日目になったらしっかりと音が引き締まり、やはりS/Nをアップさせながら音に僅かな力を加える。非常に優れた製品群だと思う。

 ただし、これも今まであまり語られることのなかったことではあるが、バックロードホーン(BH)型のスピーカーは一般的なインシュレーターのノウハウが通用しないことが多い。一度わがメイン・リファレンスの大型BHに信用するインシュレーターをいろいろ挿入してみたのだが、ものの見事に音質向上へつながらず、むしろ副作用ばかりが出てきてしまって頭を抱えた。特に床面積の大きな鳥型BHは、インシュレーターで浮かせてやると底板の振動が大きくなりすぎるような気がする。それで、床と底板をしっかりと密着させてやって振動を抑えた方が音が落ち着くのではないか、と考える次第だ。

 これはあくまでわが鳥型BHで実験した範囲のことで、例えば鳥型とは比較にならない剛性を持つ長岡鉄男氏のD-58などなら、また違った結果が出ることも大いに推測される。残念ながらわが家には高剛性のCW型BHがないから実験はかなわないが、機会を見つけてそのうちやってみねばなと思っている。

 やれやれ、もっといろいろ書くつもりが、またしてもインシュレーター1種類で結構な文字数になってしまった。冒頭に書いた「箸にも棒にもかからなかったあるジャンルの製品」については、近々「実験工房」で取り上げることもあり、稿を改めさせていただこう。

「ホーム・タワー」のウーファーとミッドバスのキャビネット間は、M10のステンレス製のナットで支えている。インシュレーターの新製品を試すため、あえて高級なメーカー製品を挿入していないある種の"空きスペース"なのだが、このステンレスナット、決して悪くない。間に合わせとしては十二分の性能を持つグッズといってよいだろう。

 それにしても、沢村とおる氏、長岡鉄男氏、江川三郎氏をはじめ、亡くなられた先達は皆、長いオーディオ人生に重ねた膨大なノウハウの多くをあちら側へ持っていかれてしまった。もちろん各氏に罪はないが、もったいないことだと思う。偉大な大先輩方にはまるでかなうものではないが、それでもわが手元には結構なノウハウが蓄積しており、それらを可能な限り書き残していきたいと思う。オーディオのノウハウを墓まで持っていったってこんなもの何の役にも立たないし、出し惜しみすることなど何もない。これからも、ある程度の情報が集まったら当欄はじめ手当たり次第に書き残していこうと思うから、どうか皆さんもよろしくお付き合い下さい。

(2021年4月9日更新) 第287回に戻る 第289回に進む 
炭山アキラ

炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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