コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第291回/自作スピーカーは"高域遊び"も面白い[炭山アキラ]

 先月はちょっとした"引き"で話を終わらせてしまったので、今回はその続きを書こうと思っていたのだが、新しいネタが舞い込んできたし、それがまた限定販売製品が絡んだ話でもあるものだから、こちらを先に書くこととした。


 そのネタとは、第282回で書いたフォステクスの限定ユニットFE168SS-HPと同時発売のホーン型トゥイーターT90A-SEを扇の要として、同社から登場したグッズ群によるチューニングである。具体的には、FE168SS-HPと組み合わせるトゥイーターを3種類交換し、またクロスオーバー・ネットワーク素子のコンデンサーにも新製品が登場したので、いろいろな定数を試しながらコンデンサーそのものの音もチェックしてみた。

 3月中旬に発売されているから、本稿が皆様のお目にかかる頃にT90A-SEの在庫が残っているかは不明だが、一応紹介記事も書いておこう。本機は超ロングセラーの人気ホーン型トゥイーターT90Aをベースとして、アルミ削り出しのホーンをステンレスの削り出しへ改めたものといえる。もちろん細かなチューニングは行っているのだろうが、設計者と同社開発チーフのお2人が口をそろえて「ステンレスのホーンを装着して音を出した瞬間、『よし! これでいいぞ』となりました」とおっしゃっていたから、本当に最小限の擦り合わせで商品化が成ったものと推測される。



このたび発売されたフォステクスCSコンデンサーの0.15uFと0.22uF。CSシリーズが発売された10年以上前から、登場を熱望していた定数の製品である。


 ならば音も最小限の変化にとどまるのかといえば、もちろん同社のことだ。新しい製品、とりわけ限定ユニットを出すに当たってそんなことで済ませるはずがない。

 初めてこのユニットを聴いたのは、FE168SS-HPと一緒に音を聴きに行った同社の本社試聴室だった。T90Aは私も長い付き合いのユニットで、音へ嫌味にならない程度のチキチキとしたスパイスが乗り、全体の抜けを向上させる優れたユニットなのだが、SEへ取り替えて音を聴いた瞬間、少々大げさにいえば耳を疑うような音が飛び出してきた。聴き慣れたスパイスが遥かに上質のブレンドとなり、音に活気を付けて抜けを向上させる作用はそのままに、僅かな耳へ障る成分を拭い去り、彫りの深く身の締まった音へ一変しているではないか。





こちらはアリゾナ・キャパシターズのオイル・コンデンサー「グリーン・カクタス」。ずいぶん長い時間がかかったが、見事にわがシステムと有機的なつながりを聴かせてくれている。実は今回CSにつなぎ替えなかったのも、あんまりうまくつながっていてバランスを崩したくなかったから、という意識がどこかにあるのは否定できない。

 さらに面白いのは、何度もいうことだがフルレンジにアドオンするスーパートゥイーターの放射する音は、全体の再生音に比してごくごく僅かの要素でしかないのだが、それで全体の音がガラッと変わってしまうことだ。T90Aから同SEへトゥイーターを交換した時も、音楽全体にギュッと身が詰まり、全域がパワフルでたくましい音型に変わったのが素晴らしかったものである。

 そして、フルレンジにスーパートゥイーターを載せる際の必需品というべきネットワーク素子のコンデンサーが、今回の試聴でまた大きなキーポイントとなった。個人的に「世界一いい音のコンデンサー」と紹介したい製品がある。ほかならぬフォステクスのCSタイプである。

 第289回のコラムで田中伊佐資さんが、読者の皆さんへ"案件"と思われることを危惧されているが、伊佐資さんも(失礼!)私もそれほど案件に恵まれる方ではなく、要は自分が気に入っているから使っているし、それをこのコラムで書いていると断言しよう。



 というわけで、個人的にも"ここ一番!"の勘所にはCSコンデンサーを使ってきたのだが、残念ながらこれまでCSには0.33uFまでしか定数がなく、あと少し絞りたい時に選択肢がなくなってしまうのがもったいなかった。現にわが絶対リファレンスの「ハシビロコウ」は、CSの0.33uFでは少々高域が出すぎ、仕方なくアリゾナ・キャパシターズのグリーン・カクタス0.33uFでつなぎ、これはこれで素晴らしい音を聴かせてくれている。

「あれ? アリゾナのコンデンサーも0.33uFじゃないか」と気づかれたあなたは鋭い。CSは立ち上がりが極めつけに優れているせいであろう、定数よりも少しだけ音が大きく聴こえるのだ。そういう意味では、アリゾナの方が普通のコンデンサーと共通する定数で使えるように感じられる。


 ここでアリゾナ・キャパシターズの名誉のために書き添えるが、このコンデンサーはなかなか真の実力を量り知るのが難しい製品だと感じている。アリゾナに限らず、オイルコンデンサーというヤツは"目が覚める"までに大変な時間がかかることが多く、当初出てくる期待外れの音をグッと我慢しながら、使い続けていかなければならないのである。



「ホーム・タワー」暫定3ウェイ版のトゥイーターはT96Aをずっと愛用してきたが、フォステクスがテスト用に送ってくれたT90Aへ交換してみる。写真は正相接続だが、ツライチでは今一つクロス帯域が薄くなり、30mmほど後退させている。音そのものはT96Aより若干粗野だが、パワフルで勢いの良い音はやはりT90Aに軍配が上がる。

 わが家の「ハシビロコウ」へ載せたホーン・トゥイーターT925Aへ組み合わせているグリーン・カクタスは、つないだ最初の1時間は何とも鈍くモヤモヤの音だった。それが、ほんの数時間で見晴らしが良くなってきたと思ったら、今度はひどく歪みっぽいガシャガシャの音になってしまうではないか。しかし数週間もすればその歪みは徐々に収まっていき、まぁまぁ聴ける音になる。実は、ここがオイルコンデンサー・エージングの出発点なのだ。





T90A-SEへ交換すると、やはりあっけにとられるくらい音が引き締まり、パワフルで立ち上がりの良い音に変貌する。逆相接続ならツライチでOKだった。

 その「まぁまぁ聴ける音」は、それでも若干の、あるいはかなりの違和感を耳へ生じさせるもので、帯域とエネルギー・バランスこそ整ってはいるものの、フルレンジと飛び離れたところでトゥイーターのみがキーンと鳴り渡るような、そんな違和感と付き合い続けなければならない。いくら自分が"コレ!"と見込んだコンデンサーではあったにせよ、われながら仕事で使うリファレンス・スピーカーによく使い続けたものだと思う。


 そのキンキンする違和感と付き合い続けること約半年~1年ほど、いつの頃からかははっきり自覚できていないのだが、はたと気づいたらトゥイーターの存在感がなくなっていた。要は「フルレンジと音色が融け合う」ようになってきたのである。白状すると、オイルコンデンサーを使ったのはこれが初めてではなかったが、新品状態から"火を入れた"のは初体験で、かつて使用していたオイルコンを貸してくれたあるエンジニア氏に「時間がかかるよ」とは伺っていたが、まさか年単位でかかるとは想像もしていなかった。

 オイルコンデンサーというジャンル自体に、若干音へ潤いを増すような印象があるのだが、このグリーン・カクタスは素のT925Aが持つほんの僅かな冷たさと攻撃性を巧みにいなし、持ち前の解像度と浸透力をキープしつつ耳なじみを良くするという、類稀な効果を発揮してくれた。オイルコンの中でも頭抜けた存在の一つといって差し支えないだろう。


 そんな紆余曲折を経て、現在の「ハシビロコウ」はまるでトゥイーターを載せていないような、ウルトラ・ワイドレンジ&高解像度のフルレンジ×1発で鳴らしているような再現となり、すっかり仕事の道具として、また音楽再生の相棒として、手足のように使いこなせている実感がある。しかし、手元に一番大好きなコンデンサー、しかも相性の良さそうな定数のものがやってきたのだから、それはもう試してみるしかない。今回は時間切れでそこまでたどり着かなかったが、近日にはリポートできると思う。


 このたび発売されるCSの新しい定数は、0.22uFと0.15uFの2種類となる。遅ればせながら少し解説しておくと、一般的なスピーカーのクロスオーバー・ネットワークは大半がコンデンサーとコイルを併用する2次、言い替えると-12dB/oct(1オクターブ上がるたび、または下がるたびに12dB減衰する)の特性を持つ。それに比してこのコンデンサーのみを使うネットワークは1次、即ち-6dB/octということになる。特にフルレンジは結構高域方向へ伸びているし、それにローパス(ハイカット)フィルターを挿入するわけではないので、かなり多くの帯域でフルレンジとトゥイーターの高域がダブって放射されることとならざるを得ない。それゆえ1次ネットワークの定数は、まぁ一応計算上のクロスオーバーはあるのだが(例えば1uFなら20kHzクロスということになる)、それよりも全体の音圧を上下させることで、フルレンジとつながりを良くするという働きが重要になる。


 今回の新CSコンデンサーは、「FE168SS-HPとT90A-SEに使いやすいと思います」とメーカー広報からインフォメーションが出ているので、ならばと「ハシビロコウ」へ使ってみるのは後回しにし、暫定3ウェイ「ホーム・タワー」へ使ってみることにする。わざわざそのためにオリジナルのT90Aと同SEまで借り出しての試聴だから、少々大がかりだがその分とても楽しい実験になった。



余ったT96Aは「レス」の上に。こちらも逆相ツライチで上手くつながった。コンデンサーは独ムンドルフの中級品だが、廉価品に比べると音の品位が段違いとなる。その後FT96Hにつなぎ替えたが、このコンデンサーならそこそこ聴けるものだ。なお、写真ではどれもコンデンサーがバラック接続だが、しっかり固定してやると音質はさらに向上するので、定数が決まったらブチルゴムでトゥイーターのバックプレートへ接着するなり、対策することを薦める。


 まず、それまでマウントしていたT96Aを下ろし、T90Aへ変更する。振動板の口径が大きく、ホーンそのものも少し大振りなのだが、外径の寸法があまり変わらないなと思い、ノギスを当ててみたら、何と96、90、SEとどれもφ60mmだった。T90系の方が96系よりも大きいように漠然と思い込んでいたのだが、ちゃんとスペックは読んでおくものである。

 まず、小定数の0.15uFを正相でつなぎ、音を出してみた。トゥイーターの位置は暫定的にバッフル面とツライチにしてある。すると明らかに中高域が薄くなり、これはクロスオーバーの帯域が明らかに逆相でキャンセルされた音だ。

 バッフルマウント型のトゥイーターではなかなか実践できないが、この手のキャビネット天板へ載せるプラス・トゥイーターは、ユニットを前後させることで位相の調整が可能だ。聴き慣れたボーカル物などをかけながらトゥイーターの位置を前後させると、声の表情が面白いように変わっていく。それで一番違和感のないところへ合わせればよい。

 それで早速ユニットを前後させながら音を聴いていったが、正相なら後ろへ30mmほど下げたところで上手くクロスした。T90A独特の僅かなピーク音がほぼ気にならないレベルで再生され、これはこれで良いバランスだが、ほんの僅かに「もう少し高域を出してもいいかな」という気がしないでもない。

 ならばコンデンサーの定数を変えるかとも思ったが、その前に逆相接続も試してみる。うん、こちらはバッフルとツライチでほぼ特性が出るようだ。例外も少なくないのであまり声を大にしていうことは憚られるが、なぜかフルレンジとホーン型トゥイーターは逆相ツライチで特性が出ることが多く、今回もその例に当たったことになる。

 ただし、これはあくまで私が自室で実験した結果で、しかも鳴らし始めすぐのデータに過ぎないことをお断りせねばならない。鳴らし込みが進んだらまた要調整だし、組み合わせるフルレンジ・ユニットや、不思議なことに部屋などでも結果は違ってくるから、このまま鵜呑みにされない方がよい。

 さて、それではコンデンサーの定数を変更しよう。お次は0.22uFである。こちらも逆相ツライチで聴いたが、これで問題ないようだ。本当はコンデンサーの定数でベストのクロス位置は変わってくるのだが、0.15と0.22くらいならそう大きな差にはならないようである。

 音は明らかにスパイス成分が増えたが、声は明らかにグングン伸びるようになり、全体に音数が増えて活気が出る。今回の実験は友人3人が遊びにきた際にみんなでやったのだが、「うん、こっちだね」とほぼ衆議一決した次第だ。もっと高域を伸ばしたい人もおいでかもしれないが、0.33uF以上の定数は従来からCSコンデンサーにたくさん用意されているから、いろいろ実験してみるのも面白そうである。

 あんまりたくさんいろいろな定数を買うとCSは少々お高いので、廉価なコンデンサーで定数のみ出しておき、決まったところでCSを買うというのもよいだろう。わが家では、そのために廉価なコンデンサーを各定数用意してある。

 いよいよ真打ち、T90A-SEへ交換しよう。もう何回か経験はしていたが、アルミとステンレスのホーン材質の差は、あまりにも大きな影響を再生音へ与える。もう最初の1音が出た瞬間、場の全員が「すごい!」と音へ釘付けになってしまった。コンデンサーの定数や位相は全く変更なしで大丈夫のようだ。同時発売だけのことはあってか、FE168SS-HPとの相性も素晴らしく、音のグレードが数倍にも高まったように感じられる。

 これもいろいろなところへ繰り返し書いていることだが、トゥイーターそのものの放射する音波の絶対量は全体の数%もいかないくらいであろうし、とりわけ超高域へ偏っているのだが、それでも優れたトゥイーターは再生音全体を大幅に向上させてくれる。今回もSS-HP持ち前のコクの深さ、キリッと端正なところがまた一段と映えるようになり、改めてトゥイーターの大切さを思い知ることとなった。

 ここで、SEの登場へ伴って散々"咬ませ犬"のような扱いになってしまっているT90Aについても、大いに弁護しておこう。このトゥイーターも素性は極めて良く、例えば振動板は材質・口径ともわが深く愛する大型機T925Aと同じもの、マグネットも高価なアルニコが惜しげもなく使われている。手持ちにはないユニットだが、もし私が使うなら鉛や銅、あるいはフォックなどのテープを巻き付けて、ホーンを若干鳴き止めしてやるだろう。ステンレスのホーンへ替えるだけでここまでの向上が見込めるのだ。やってみる価値は大いにあると思う。

 友人たちへ聴いてもらう意図もあり、またT90A-SEが「ホーム・タワー」3ウェイ版へ収まってしまったので、浮いたT96Aを今度は第285回で紹介したムック本で製作したCW型バックロードホーン(BH)「レス」の上へ載せてみる。こちらは当面FE168SS-HPと組み合わせていた0.33uFのまま接続してみるが、明らかに音圧が高すぎる。それで、手持ちにちょっといい品位の0.1uFがあったものだから、それを組み合わせてみたら、こちらも逆相ツライチでドンピシャリにハマった。もうこの組み合わせで完成、あとはシステムのことなど考えず、BHならではのスピード感と切れの良さを生かしつつ、音楽をじっくりと楽しみたくなる再現力を存分に奏でてくれた。当日きてくれた若い友人たちの中でも最年少のA君(確かまだ20代)は、すっかり「レス」を作る気になってくれている。本当にありがたいことだ。

 さて、ここまで実験を進め、たわわに果実が実ったところなのだが、大きな問題が残されている。ほかでもない、このT90A-SEを返却せねばならないということだ。それじゃ買うかと考えても、まだ在庫のある店が残っているかは分からないし、私のような貧乏ライターにとって2本で8万8,000円という金額は、ポンと出せるものでもない。レギュラーのT90Aだって、2本なら5万円を超えるのだ。


 仕方なく、T96Aを「ホーム・タワー」へ戻し、「レス」には手持ちの同社FT96H(生産完了)をつないでやった。FT96HがモデルチェンジしてT96Aになったともいえるから、この両者は正しく兄弟関係なのだが、音の品位はかなり違ってしまっており、T96Aを聴いてしまうとFT96Hはどうもシャリシャリした質感が耳についてしまう。とはいえ、FT96Hも数年前の「予告なしの改良」によってずいぶんクオリティが上がったものだが、設計の新しい製品にはやっぱりかなわないようである。

 そうはいっても、ない袖は振れない。「レス」のFT96Hはコンデンサーの定数もそのままでリプレイス可能だったが、T96Aはまたいろいろな定数のコンデンサーで実験してみようと思う。たまたま手持ちでCSの0.68uFがあったのでそれをつないでみたら、少々輝かしすぎるような気もするが、まぁそこそこのレベルでつながった。このまましばらく鳴らし続けてみようか。


 かくのごとく、私のような"持たざる者"は、「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」でやり繰りしていくしかない。しかし、またそれでノウハウも溜まっていくのだから、文句をいったら罰が当たるのかもしれないな、などとも考えている。

(2021年5月11日更新) 第290回に戻る  第292回に進む  

炭山アキラ

炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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