コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
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第293回/とりあえずK-01XD用の電源ケーブルができた話[鈴木裕]
自作電源ケーブル。写真を見るとなんでこんなに太いのかとか、なんでこんなに立っているのか、とかいろいろ疑問を感じている方もいらっしゃると思う。どうも話が長くなりがちなので出来るだけ簡潔に書くが、まずなんでこんなに太いのかについては、 1 導体に電気が流れることによって発生する振動のコントロール 2 電気の通らない部分に発生、帯電する静電気の除去 3 外部からやってくる振動の緩和、防御。 4 空中に飛び交う高周波ノイズからのシールド。 といった複数の対策を盛り込もうとすると、自分の技術や使っているマテリアルでは太くなってしまうから。太くしたいわけじゃない。 なんで立っている形で設置しているかについては、 1 電源ケーブルとそれ以外のRCAケーブル等と接触、干渉するのを防ぎやすいため。 2 抜いたり挿したりしやすい。 けっこうしょっちゅう、抜いたり、挿したりしてますからね。 |
![]() うちのシステムを見た人が絶句する場合があるが、パラメトリックイコライザーを2台使っているとか、電源ケーブルが1本挿さっているとその横にはかならず並列型電源フィルターが挿さっているという他に、太いものが立っている、というのが問題のようだ。 |
![]() いただきものの高級カステラ。その桐の箱にまとめてあるセット。 ![]() 電源プラグはオヤイデのP-004。IECインレットプラグはフルテックのFI-11-N1(G)。そして切り売りのベースの電源ケーブルはサエクPA-6000。ちなみにフルテックのケーブルクランプがプラスチック製になっているのは、無メッキ銅のFI-11(Cu)に使っちゃってるため。 |
現在に至る電源ケーブルの自作は2019年の2月の終わりから始まっており、2019年としてはA型(パワーアンプ用)とB型(前段機用)を、とりあえずシステム用に一巡する形で作り終えた(というとカッコいいが、アイデアが尽きた)。つづいて2020年になって『オーディオ・アクセサリー』誌の企画で電源ケーブルを作る機会があり、そこまで考えたり、発見したことを盛り込んだのが2020年初号機だった。 2020年型2号機は、モノラルのパワーアンプ用に、初号機からすこしだけ仕様を変えて作ったが、音としてどうしても気になる点が残った。そのため、パワーアンプ用電源ケーブルとしては2019年A型に戻し、2020年型2号機(つまり同じ仕様のが2本ある)はプリアンプとCDプレーヤー用にとりあえず使ってきた。そして今回、CDプレーヤー用に2020年型2号機の1本をいったんバラして作り直し、3号機が出来た。 といったところからちょっと書き出してみよう。 2号機と3号機に間にやっていたのは、ひとつは例のフィボナッチの数列を何らかの形で導入するというアイデア。実際は音はまったくもって精彩を欠いた。 その次に考えたのは初号機と2号機の差についてだった。電源プラグが違ったり、ティグロンのHSE処理の有無はあったが、決定的なのは2本のサエクAC-6000をひとつにまとめているテープの違いにあると考えた。初号機では普通の黒のビニールテープ。2号機ではプチルゴムを主成分とするポリエチレン製のものを使った。 |
結果として、2本の一体感が足りない状態になっていたんじゃないかと。これが芳しくない振動のモードを生み出していた。では何を使って、どう巻けばいいのか。ひとつの正解はひとつ前の初号機なわけだが。というわけで、いくつかの粘着テープを貼り付けてはいテストしていった。
AC-6000を1本使った基準ケーブル。これはフィボナッチ数列を応用して針金で縛ったものとの比較用に作ったものだが、これにビニールテープ等を貼っては聴き、というテストを繰り返した。あるいは好ましいと思えるテープどうしを重ねても聴いてみた。顔料、素材の違いによる音の違いの把握と、それを組み合わせた時にどうなるかというテスト。雑誌の取材だったら1日で終わったのだろうが、どうも時間が取れなかった。途中でテープを買い足したというのもある。
ちなみにテストしたテープとその結果を短くまとめておくと以下になるが、ごくごく軽く参考程度に読んどいて下さい。
黒ビニールテープ「高域はまろやかで音がよくほぐれる。元の若干のハイバランスが直る。低音も沈み込みつつ、混濁する成分が減少。サウンドステージ的にはセンターの密度が上がる」 赤ビニールテープ「SN感、空間表現力が上がる。ただし中域と高域の間に隙間が空くような感じがあるし、高域に何か紙が擦れているような付帯音が付く。サウンドステージ的にはセンターの密度が薄めになる」 白ビニールテープ「音の透明感が上がり、余韻がきれい。拍手の定位する位置が若干上にあるが、気になるほどでもない。帯域バランス的にはハイバランスにはならない。この白ビニールテープ特有の厚みが効いているのかも」 黄色ビニールテープ「これも拍手の定位がやや上にシフトし、高域の響きがきれい。このあたりは白ビニールテープに似ている。サウンドステージ的には白よりも微妙にセンターの密度が薄くなる傾向」 緑ビニールテープ「サウンドステージ、奥行きが浅くなる。音色感的には低域は悪くないものの、高域が軽くなるのが気になる」 ライトグレイビニールテープ「拍手の音像は爽やかによくほぐれる。低域の密度や低域歩行への音のレンジ感はいい。サウンドステージ的にセンターの密度が微妙に薄くなるのと、高域がちょっと痩せる傾向はある。印象は悪くない」 アセテート粘着テープ「高域にメタリックな響きを感じる。低域の重心が下がりきらなくなるし、低音の音色感がドライになる。サウンドステージはやや手前に展開するタイプ」 和紙テープ「拍手はよくほぐれるものの、高域に強調感。低域が軽くなってしまう。ただ、SN感やトランジェントはいい。軽さの恩恵か。伸縮性がないのできれいに巻くのが難しい」 |
![]() 下からまずビニールテープの、赤、黄、緑、白。そしてアセテートテープ、和紙のテープ、ビニールテープの黒、ライトグレイ。ほんとは30種類くらいは確認したいところだけど」 ![]() 巻かないで、縦方向に貼っただけだが、これでもちゃんと貼った粘着テープによる音の傾向は把握できる。写真のはベースに黒を貼った上に、白とライトグレイを貼った時のもの。 |
![]() 黒と白は同じ方向に巻、ライトグレイだけ、逆方向に巻いている。 ![]() CDプレーヤー用に使っている。識別のために、内部に使っている黒と白とライトグレイのテープを巻いている。ただしこの仕様はいつまでつづくのか。 |
ということで実際に作った2020年型3号機の仕様をまとめると、 ・ベースの切り売り電源ケーブルはサエクAC-6000を2本使う。 ・電源プラグはフルテック FI-11M(Cu)。IECインレットプラグはフルテックFI-11(Cu)。ブレードや電源ケーブルの導体が接するところはアンダンテラルゴのTMDで処理。 ・2本をまず、黒ビニールテープで巻、その上に白、その上に巻く方向を変えてライトグレイ。 ・その上にデンキトール。 ・その上にコットンの包帯。今回はゆるめに、厚めに。 ・サエクAC-6000の被服もシールドもなくなり、強度的に不足するところには、カーボンのプレートを上下から挟み込む形で2枚使用(つまり、1電源ケーブルに4枚必要)。 ・電源プラグを装着してまずシールド網組チューブを一回装着。次にIECイレットプラグを装着しつつ、2重目のシールド網組チューブ。 ・全部が完成した後に、ティグロンのHSE処理。 結局2号機との違いは2本のAC-6000をまとめるのが、2号機では「黒ビニールテープ」だけだったのに対して、3号機では「黒、白、ライトグレイ」というビニールテープ3種をハイブリッドで使っているのと、包帯の巻き方をより緩く、より厚めに巻いただけの違い。ずいぶんいろいろテストした割にはたいして変わっていないが、それでもちゃんと音は前進しているので良しとしたい。 あとは、フルテックの電源/インレットプラグのFI-11M(Cu)の弱点として、ケーブルをクランプする部分が樹脂製である点が挙げられる。ひとつ上位の金メッキのものだとここがステンレス製になっていて、これに交換すると歴然と音が良くなるのだが、そのためだけに金メッキのプラグを買うのも……。そんなことでいろいろ検索していたら、でんき堂スクェア湘南店で単体で売っているのを発見。これを購入して交換する予定。 実はなんかいろいろアイデアが湧いてきていて、やりたいことが見えてきてしまった。システム全体の音としては、もっと別の部分を考えなければいけないのではないかと、我ながら何か間違っている気もする。 |
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