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コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第300回/小型で廉価な38cm2ウェイ「ドリやん」製作裏話[炭山アキラ]

 "自作派オーディオライター"を自称する私だけに、まぁいくつかの雑誌や番組「オーディオ実験工房」のためにしょっちゅう何かしら作ってはいるのだが、それにしてもこの6~7月はずっと製作に没頭していた。

 もう誌面に出たものとしては月刊ステレオ8月号のJBL・C56「ドリアン」もどきの製作がある。詳しくは誌面を参照いただきたいが、業界の大先輩・峰尾昌男さんが保管されていたオリジナルの図面を元に、日曜大工で可能な範囲である程度の再現を図ったというものだ。

 今となっては驚きのほかないが、昔のJBLは自社キャビネットの図面を有償で一部ユーザーに提供していたとか。見せていただいた図面は昔懐かしの青焼きコピーで、かなり判読の難しいものだった。何より、当たり前のことながら寸法表示がすべてインチで、メトリックに換算しないと大雑把なイメージもまるで湧いてこない。何とも出身地と時代背景を濃厚に匂わせる図面へ、ある種の感動をもって接することとなった。


月刊ステレオ2021年8月号「Mission 『ウーハーマシマシ JBLインスパイア系 サンパチ2Way本格フロアSPを10万円以下で製作せよ』」の扉カット。私が作った「ドリやん」に前月号の付録「JBLシール」を張り付けてある。あれほど「シールを張るならデザイナーに頼んで"JBL風"くらいに書き直すよう」言っておいたのに……。まったく、もう。(写真提供:音楽之友社 守屋良介)

 しかし「ドリアン」というスピーカー、というかJBLのスピーカーが、そう一筋縄でコピーを許してもらえるなどということは考えられない。例えば接合部ひとつを取っても、出っ張りと溝で継ぎ合わせるいわゆるサネ継ぎのほか、木口を45度に処理した上でサネ継ぎを行うなど、かなり凝ったことが行われている。こんなものを日曜大工で、というか私の腕前で再現することなど、まず不可能だ。

 それで接合はすべてごく普通のイモ継ぎとし、自分のスピーカーを作る時と全く同じく、木工ボンドを塗ってクランプで固定し、木ネジ(スリム粗目造作ビス)をねじ込んでいくことで製作したが、おそらくそれだけで音質は大幅に変わってしまったことであろう。

 まぁそんなことより、オリジナルはホモゲンホルツの20mm厚だったようで、今ホモゲンはどこで入手してよいのか分からないから、そもそもからして同じ音質に作ることは不可能だ。実際の工作は入手性の良さからMDFの18mm厚になったので、ホモゲンよりは少し柔らかい音になったのではないかと思う。

こちらはオリジナルのC56「ドリアン」。白いコーンのLE14Aと、パンチングメタルを円形に切り抜いて幾層にも重ねたデュフューザーが特徴的な175DLHが装着された、最も代表的な構成のモデルである。

 さらに、オリジナルの天板にはアドリア海産の白大理石がはめ込まれているが、雑誌の経費で同等品を入手するのは難しかろう。私個人で製作するにしても、とてもそんなカネはかけられない。

 まして、オリジナルにマウントされていたユニット、いくつかのバリエーションがあるようだが最も代表的なものといえば14インチ・ウーファーのLE14Aと、"ハチの巣"の愛称で知られるコンプレッション・ドライバー+ホーンの175DLHとなろう。それらを今そこそこの程度でそろえようと思ったら、両chで50万円くらいはかかってしまうのではないか。

 編集の守屋君も、あくまでC56「ドリアン」の音を再現しようという趣向ではなく、JBLにインスパイアされ、JBLをリスペクトした作例を作るのが趣旨だというので、ならば私の腕前でも何とかなるかと参加させてもらった次第だ。

 図面のインチ寸法をミリメートルに変換し(とはいっても厳密にはいかないが)、20mm厚の原寸を18mmの板で齟齬がないよう微調整、サブロク定尺のMDFボードから切り出せるよう、図面を引いていく。サブロク1枚で片chを比較的効率良く取ることに成功した。

 もう1枚、3mm厚のラワンベニヤで両側板の化粧板を取る。MDFは見た目全く段ボールそっくりで、このままニスを塗っても決して褒められたルックスにはならない。また、MDFの木口はウンザリするくらい塗料を吸い込み、そのままでは決して上手く仕上がることがないので、ここにも一工夫、同じラワン材の突き板テープ(21mm幅)を張ってやることとした。

 キャビネットの内容積を計算してみると、ほぼ60リットルと出た。35cmウーファーのLE14A用としてもこれは限界に近い小ささだ。それなのに守屋君、38cmをマウントしたいというではないか。何たって彼は自宅で38cm2ウェイのJBL4320を使っているから大口径には抵抗がないのであろうが、これはかなりムチャな注文だ。しかし、こういう無理難題を記事にするのもまぁ面白かろうと、悪乗りして私もその企画へ乗っかった。

 それにしても38cmとは、大きく出たものだ。第一、予算内で購入できるユニットなんてあるのかしらん。そんな時、私が真っ先に訪問するのは横浜ベイサイドネット(https://www.baysidenet.jp/)だ。スピーカー工作関連で非常に幅広いユニットやネットワーク素子などのグッズを輸入し、なおかつオリジナルのキャビネットや回路製品類も意欲的に開発しているお店である。

 こちらが正規輸入代理店を務める米デイトンというメーカーのユニットは、最新のハイエンド・スピーカーに用いられているような高級ユニットから、思わずプライスタグを二度見してしまうような廉価ユニットまで、非常に幅広い品ぞろえが魅力だ。しかも、その安い方がなかなか侮れない実力を持つのも、個人的に長い付き合いでよく知っている。

 今回も早速のぞきに行ったら、おぉあるある。2万円ちょっとで38cmの堂々たるウーファーDC380-8である。ほとんどストレートでやや深めの斜面を持ちリブの入っていない、やや素っ気ないが質実剛健という感じの顔つきで、2kHzよりやや下に鋭くはないものの裾野の広いピークを持つが、それ以外は特性の暴れが少なく、使いやすそうなウーファーだ。本当は500Hz以下で使いたい特性なのだが、「ドリアン」は基本2ウェイ構成で、やはりそれは何とか踏襲したい。というか、3ウェイ以上だとネットワークの調整に結構時間がかかってしまうのだ。というわけで、これまたムチャな使用法だが、2ウェイとなればぎりぎり1kHzクロスを狙う。

 ちなみにこのウーファー、特性を見た時点で今回のバカ企画(笑)に何とか適合しそうなユニットだと目星はついていた。トータルの共振Qtsという数値が0.3と小さく、振動板の実効質量Mmsが182.9gとかなり重いからだ。こういうユニットは低域を無暗に欲張らなければ、かなり小さなキャビへ収めてもどうにかなってしまうことが多いものである。


米デイトンのウーファーDC380-8。持ってみると拍子抜けするくらいに軽いが、面積で押す低域のパワーと意外なくらいの音離れの良さ、開放的な鳴りっぷりが素晴らしいユニットである。もっとこれでいろいろ作りたくなった。

 さて、ウーファーはギリギリ1kHzまで使うこととしたが、ならばそれに適合するトゥイーターを探さねばならない。こちらもデイトンのしかも新製品で、なかなか有望なものを見つけた。RST28F-4である。直径28mmとかなり大ぶりのソフトドームで、700Hzくらいまでほぼフラットに下が伸びた、実に使いやすいトゥイーターだ。推奨クロスオーバーは1.4kHz以上となっているが、-12dB/octなら何とか1kHzクロスでも使えるだろう。あまりムチャな大音量は禁物になるが。

同社のソフトドーム・トゥイーターRST28F-4。こちらも朗々と歌いまくる感じで、音楽を太く堂々と表現する。ビックリするほど廉価なユニットだが、器はかなり大きい。

 実はこのトゥイーター、長い付き合いの同店・西川常夫テクニカルマネージャーに推薦してもらったものだ。そりゃもう輸入元直々だから、帯域バランスは良くて当然、結果として音色も実に巧くつながってくれた。

 キャビネットの製作自体は、さほど大きなものでなく構造も単純明快なので、梅雨時の大雨に降り込められつつ、またいろいろ細かな失敗、切り間違いを修正しつつ、1日半で楽に完成させられた。しかし、「ドリアン」もどきを作るなら、最も凝らねばならないのは他ならぬ仕上げである。オリジナルに敬意を表してバッフル面は艶消し黒、両サイドはマホガニー的な赤、天板は大理石代わりに白く塗ったMDFを据えたいと思い、黒と白はスプレーのペンキ、側板用は水性ステイン(着色剤)とクリアラッカー・スプレーを用意した。水性ニスとどちらにしようか迷ったのだが、とんでもない土砂降りの中、屋根付きカーポートの下で行う塗装作業としては、高湿度下でも何とか乾くラッカーにしておいてよかったと、心底ホッとしたものだ。

 水性ニスではなく、ステインとラッカーにした理由は、実のところ別にある。水性ニスは塗面が柔らかく、どうしても全体の再生音を優しい方向に導く傾向がある。一方ラッカーは塗膜は薄いが実に表面硬度が高く、音の飛びが良くなる傾向があるからだ。

 もっとも、これは私にとって好ましい結果というに過ぎない。当たりのソフトなスピーカーを実現したいなら、むしろ積極的に水性ニス、もっと突き詰めるなら油性のウレタンニスを用いると好結果が得られよう。

 本当は裏板や底板まで、せめて目止め程度の仕上げを施してやりたかったのだが、降り続く大雨のために、前から見える面の塗装へ想像を遥かに超える時間を費やしてしまい、断念せざるを得なかった。それでも締め切りギリギリで、ネットワークを組むところまでたどり着けなかったくらいである。

 それで塗り終えた翌日、大慌てで編集部の試聴室へキャビを運び込み、ウーファーとトゥイーターそれぞれの端子へケーブルを直接ハンダ付けしてからキャビへマウント、持参したチャンネルデバイダーでマルチアンプ構成として鳴らした。

 チャンデバは連載の225回で紹介したベリンガーのCX2310である。以前わがリファレンス4ウェイのウーファーをハイカットするのに用いていた個体で、そこのクロスを音楽之友社のムック「これで決まる! 本物の低音力」の付録バスチャンデバへ試験的に交換したら、面白いようにしっくりとなじんでしまったものだから、すっかり出番がなくなって長い間リスニングルームの片隅でアクビをしていた個体である。

 4ウェイの「ホーム・タワー」では今一つ上手く使いこなせなかったCX2310だが、ドリアンもどきでは物の見事、図に当たったというにふさわしい馴染み方を聴かせてくれた。「ホーム・タワー」はミッドバスの低域をキャビネットの工夫で自然減衰させており、CX2310はウーファーのハイカットのみにしか使っていなかったが、やはりこのチャンデバは高/低とも自分で切った方がバランスの良い音を聴かせるようである。

 一つには、CX2310が-24dB/octのスロープ特性を持っており、一方4ウェイのミッドバスは自然減衰ながらほぼ-12dB/octくらいだから、上下で減衰特性がスタガーとなり、バランスを欠いていたのではないか。その点、現用のバスチャンデバは-12dB/octだから、ミッドバスとバランスしやすかったのではないかと推測している。

 ちなみに、マルチ用に両ユニットから引っ張り出した線は、急ぎのことゆえちゃんとしたメーカー品が用意できず、いわゆるキャブタイヤを近隣ホームセンターで購入してそのまま持ち込んだものだ。ただの電力線だがちょっとだけ趣向を凝らしてあり、ウーファーには5.5スケアのVCT、トゥイーターへは0.75スケアのVCTFを採用している。

 バイワイヤ接続をするなら、個人的にはウーファー用に太い線、トゥイーター用に細い線を接続したい。しかも、それが同シリーズでそろうならそれに越したことはない。そういう意味で、キャブタイヤはまさに理想の「太さ違いの同シリーズ」といえるものである。

時間がなくてネットワークまでたどり着けず、苦肉の策で持ち込んだチャンデバ、ベリンガーCX2310。わが家のリファレンスではうまく使いこなせなかったから、このたび初めて真の実力を垣間見ることができた。これも1万円少々の至って廉価な製品だが、使いこなしで"化ける"逸品だ。

 出てきた音に関しては誌面をぜひご参照いただきたいが、誌面でも書いた「万事に大雑把だが逢うといつでも楽しい友人」という感じの、現代的な高解像度よりも音楽を鷲づかみにしてリスナーへ放り出すような迫力、あっけらかんと青天井に歌いまくる楽しさが何よりも印象的だ。こんな音、他のどこでも聴いたことがない。

 あえて近似した音のスピーカーを探すなら、20世紀の終わり頃に奇しくも同じJBLが世に放った「安くて馬鹿デカいスピーカー」CF150を何となく彷彿させる音のような気がする。何と、半世紀以上の時を経た名作からインスパイアされた21世紀の作例が、25年前の同社作品と相通ずる音の世界を聴かせるとは。全くの偶然ではあるが、何か数奇な縁を感じさせて、思わず目頭が熱くなった。

 今のところまだ目処は立っていないが、そのうちまたページを割いてもらって、ネットワークまで完成させねばと考えている。何たって、もうネットワーク素子まで横浜ベイサイドネットが提供してくれているのだ。何が何でも完成させねばなるまい。編集子次第ではあるが、近日公開ということにさせていただこう。


JBL・CF150。38cm3ウェイにして1996年の発売当初には何と1本4万8,000円だった。まぁキャビネットは本当に脆弱でポンポコとよく鳴くものだったが、こと爆発的な鳴りっぷりにかけては、同価格帯の他製品に全く追随を許さなかった。面白いスピーカーだったが、リスナーでお使いになっていた人はおいでだろうか。

 なお、ペットネームの「ドリやん」は編集の守屋君が考えた名前である。いつも作例の名づけには悩まされるが、今回は珍しくあっさり連想がまとまり、ドリアンといえば果物の王様→今作はもっとずっとチープだからフィリピンバナナくらいか→ならば「ドリアン」の前半分とバナナの輸入業者の名から頂いて「ドール」、うんこれでいこう、とするつもりだった。

 しかし、守屋君が調べたところでは「ドリアン」は「ドーリア人」という意味で、果物の王様ではないとのこと。いや、私も時代背景からしてあの名がそのまま果物を意味しているとは思わなかったが、まぁならば良しなにと任せたらあの名になった、という次第である。なかなかやるな、という語呂の良さだし、私も特段異存はない。

 やれやれ、もっと他の作品についても書くつもりが、またしても「ドリやん」1作でこんなに長くなってしまった。次号の「ステレオ」誌にも、「オーディオアクセサリー」誌にも、私が絡んだ自作記事が載るし、今作っているグッズも多分秋頃の「オーディオ実験工房」でオンエアされることであろう。

 実は、それらと並行してまた新しいプロジェクトの開始へ向け、いろいろ作業しているところだ。具体的に動き出したら、またこちらでも告知させていただきたいと考えている。いやぁ、自作って本当にネタが尽きないですね。



(2021年8月10日更新) 第299回に戻る 第301回に進む 
炭山アキラ

炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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