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コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第303回/全部「非オーディオ用」ケーブルにしたらどうなる!?[炭山アキラ]

 以前にも断片的にその顛末を書いているが、このところ番組「オーディオ実験工房」で、廉価な電力線を使ったRCAならびにXLRインコネや電源ケーブルなどを作りまくっている。特にRCAインコネなど、長さ50cmで両端に1個300円程度のトモカ製プラグをハンダ付けしているだけだから、昨今のオーディオ用高級ケーブルからしたら、ケタが2つも違ってしまうような低コストで製作したものとなる。

 それでその廉価電力線ケーブル、音質的にはどうなんだと質問されれば、もちろん2ケタ違いのメーカー製品とは比ぶるべくもないのだが、かかるコスト、というよりこれだけしかコストがかかっていないということを考えれば、ちょっと驚くような音質が得られることもある。念のため、得られるばかりではなく、ことと次第によってはガッカリするような事態もあり得るということを、公平に付言せねばならないが。

 ならば炭山はそのような自作超廉価ケーブル類を実際にリファレンス・システムへ導入しているのかというと、部分的にイエスである。

 わが家では、現在3系統のシステムが稼働している。決して広い部屋でもないのに、無理をしているものだが、一つはわが絶対リファレンスたる「ハシビロコウ」を、アキュフェーズの中級セパレートアンプC-2150とP-4100でドライブするという構成だ。この系統は私が最も最初に音を聴くもので、例えば月刊ステレオ誌の連載「今月の変態ソフト選手権!」でも専ら音を聴くのはこの系統となる。


わが家の3系統を担うスピーカーたち。左から「ホーム・タワー(暫定3ウェイ運用中)」「ハシビロコウ」「イソシギ」となる。当コラムでも再々紹介した顔だから、お見知り置きの人も多いだろう。

 2系統めは4ウェイ・マルチアンプ方式の「ホーム・タワー」をメインとした系統だが、プリアンプはC-2150を共用、ウーファー用のパワーにP-4100を用い、ミッドバス用に同じくアキュフェーズA-35を起用、ミッドハイとトゥイーターはフォステクスの廉価PWMアンプAP15mkIIでドライブする、というものだ。もちろん上2つのユニットも、もっと高級なアンプで駆動すれば音質的には向上するだろうが、実のところこれであまり再現性に難は感じていない。

 それに、夏場はA級アンプが熱いからミッドバスをPWMアンプで代用したりもするのだが、今使っている某社の新製品(といっても世界的な半導体不足が祟って発売が延び、秋頃になるとか。ただいまβテスト中の個体である)は、切り替えた直後こそ「あぁ、やっぱりA級アンプはいいな」と思うところがないではないものの、結構「やるじゃないか!」という側面が大きく、俗にいうデジタルアンプの進化を強く実感させてくれる。

 そういえば、第282回で報告した通りAP15mkIIも実際のところ前世代機のAP15d比で大幅な音質向上を果たしている。もちろん従来式のA級やAB級にも大いなる音質的美点が存在することを強調しつつ、高効率アンプの未来にもこれから注目していきたいと思う。

 話がそれたが、こちらの「ホーム・タワー」はあくまで「廉価マルチアンプの実験機」という側面が強く、もちろん「変態ソフト」の試聴などでは活用するけれど、基本的にケーブルなどの試聴に用いることはない。大体マルチアンプという代物は、膨大な数のインコネを用いなければならないものだから、1本くらいケーブルを交換してもパラメーターが多すぎて音質変化を把握し辛く、テストにはあまり向かないのだ。

最近になってその3系統に割って入ったのがこれ「トンボ返り」である。「イソシギ」とつなぎ替えることで音を出している。オンキヨー製10cm付録ユニットはBH向きといいかねるが、それなりにきちんと設計すればここまでできる、という一つのモデルピースになったのではないかと考えている。月刊ステレオ誌9月号に掲載されているから、ご興味がおありの向きはぜひご覧になってほしい。

 それに、なにぶんにもこの貧乏所帯だ。マルチの膨大なインコネをすべてオーディオ用の高級品にしてしまっては、何回破産しても追いつかない。それに、自作するのも大変な時間がかかる。それで、ビックリするほど廉価なケーブルを多種買い込んできてじっくりテストし、「これなら合格!」というものを使って結線している。特に名を秘すが、以前番組でもチラリと鳴らしたことがあるから、ピンときた人もおられよう。

 そして3系統め、こちらは2021年になって新たに整備したものだ。といっても熟慮を重ねて装置を吟味したわけではなく、例によって成り行きの産物でもある。スピーカーはいろいろ流動的だが、専ら第285回で紹介したムック「オーディオ超絶音源探検隊!」で掲載したCW型バックロードホーン(BH)の「レス」とマトリックス型コーナー型鳥型BH「イソシギ」を接続している。

 なぜこの一群を整備したのかといえば、「レス」と「イソシギ」が結構いい作例だったもので、友人を含む自宅への来客に聴いてもらい、また自分でも楽しむためである。「レス」はことによったら人手に渡すかもしれないが、「イソシギ」は同タイプの新作を設計・製作しない限り、わが家へ居続けることであろう。手前味噌ながら、まことに画期的なスピーカーシステムだと感じている。

 最近では、月刊ステレオの9月号に掲載された「トンボ返り」もこの装置で試聴し、測定も行った。あれも「2021年ムック付録ユニット初のBH」であるのみならず、私としては初めて挑んだ「ブックシェルフ型BH」でもあり、幸い特性/音質ともかなりのレベルが達成できたと自負しているので、もしよろしかったらご注目いただけると幸いだ。

 どうも語り始めると、前置きが長くなってしようがない。この3群めの装置に先日から作り続けている廉価電力線ケーブルを多用している、というわけだ。

 具体的な構成を申し上げると、この装置もプリアンプまではC-2150で共通だが、残念ながらRCAプリアウトに「ホーム・タワー」の系列、そしてXLRに「ハシビロコウ」の系列がぶら下がっており、既にプリアウトの空きがない。そこでこの系統はプリのREC OUTから信号を引き、パワーアンプのボリュームを使って音量調節をしている。このREC OUT→パワーアンプ間のケーブルが0.75スケアVCTF使用RCAケーブルとなっており、続くパワーアンプ→スピーカー間のケーブルもVCT3.5スケア2芯の、いわゆるキャブタイヤケーブルを用いている。入り口に横浜ベイサイドネットのクレープ型バナナプラグ、出口にAECコネクターのYラグを装着しているので完全な"素"の状態ではないが、まぁほぼ素材の持ち味が出ているといってよいだろう。


現在テンポラリで3系統めに移籍している某社間もなく発売のPWMアンプ背面。入力が0.75スケアVCTFキャブタイヤのRCAケーブル、出力が3.5スケアVCTキャブタイヤによるSPケーブルである。こんな「オーディオマニアの風上にも置けない」構成ながら、音は存外しっかりしていて、優秀録音をしっかりと味わわせてくれる。もっとも、これはこのアンプがかなりの実力派であることも大いに関係している。正式発売になったら、また当欄か雑誌で論評しようと思う。

 なぜそうなったかというとこれも成り行きで、当初はP-4100に「イソシギ」をつないでいたのだが、その際に「ハシビロコウ」へ宛がっているゾノトーンの逸品「ロイヤル・スピリット」の長さが足りず、急遽ホームセンターで3.5スケアのキャブタイヤを切り売りしてきてもらった、というのが発端だ。ロイヤル・スピリットとキャブタイヤの表現の違いには、当初もうどうしようもなく「深くて暗い谷」を感じさせ、ある意味絶望的ですらあったのだが、ロイヤル・スピリットを「ハシビロコウ」、キャブタイヤを「イソシギ」に専用化し、アンプの系統まで分けたら「うん、そういうものだね」と割り切ることができた。もちろんキャブタイヤの素っ気なさ、もてなしのなさに変わるところはないのだが、そこをグッと飲み込めばまぁ「実直な道具」としてはそこそこ使えるかな、という印象へ転ずることができた、といった格好だ。

一方、2系統めのチャンネルデバイダー~パワーアンプ間はこんな状況になっている。一番手前に見えているオーディオテクニカAT7A64(生産完了)を除けば、ガレージメーカーと非オーディオメーカーの廉価ケーブルだらけだが、長さが50~70cm程度とギリギリまで短いせいもあり、音質的にはそう悪くない。

 その際の成り行きについてもう少し話すなら、なぜSPケーブルの両端でプラグが違うのかといえば、P-4100の出力端子に挿入されたロイヤル・スピリットの端子がYラグで、同じ端子へキャブタイヤを接続しようとすればバナナの方が都合よかったこと、そして「イソシギ」の入力端子もバナナ側を差信号SPへ信号を分岐するためのバナナが既に挿されており、Yラグしか対応できなかったから、という都合のためだった。結果的にバナナとYで端子の音質を分散させることができて、良かったともいえるだろう。

 ちなみに、3系統めを分岐させる前まで、「ハシビロコウ」と「イソシギ」の鳴らし分けは、スピーカー側のケーブルを端子から1本引っこ抜くことで行っていた。気を付けてはいたが、いつ不正導通するか分からず、あまり褒められた方式ではないと反省している。

 また、RCAインコネが2種類作った太い方の1.25スケアでなく0.75スケアなのはなぜかというと、何のことはない。1.25の方を先にディスクプレーヤー→プリ間に使っていたからだ。ここは山ほど聴くメーカー製RCAインコネをテストするための"実験台"で、何度か書いたことがあると思うが、こういうところに最初からいいケーブルが装着されていると、特に廉価~中級ケーブルなど、下手をすると「マイナス実験」になってしまいかねない。というわけで、音質的に許容できる範囲で簡素なケーブルを日頃から使うようにしている、というわけである。逆にいえば、キャブタイヤRCAケーブルもそれくらいは「許容できる」ケーブルということができる。

 それで、この「フル・キャブタイヤ仕様」システムの奏でるサウンドは、まぁ何度もいう通り至って素っ気ないものだが、もともと艶やかさや典雅さ、ゆったり落ち着いた上品さなど当初から持ち合わせない廉価フルレンジのBHから出力される音なのだから、それもまた似つかわしいというか、分相応のような気がしないでもない。特に「イソシギ」など、2本で5,500円のユニットに15mm厚MDF×1枚という物量で製作可能で、ホームセンターへ板のカットをお願いしてしまうと1万円を超えてしまうかもしれないが、それでも1万円台で製作できてしまうのだから、まぁ価格的な釣り合いを考えてもよいところなのではないか、と考えられなくはない。

 念のために申し上げるが、私はもちろん「高級ケーブル不要論」をブチかましているわけではない。私だってメーカー製のいろいろなケーブルを愛用しているし、その中にはとんでもない高級品だって混じっている。自分なりにそれらを使いこなし、リスニングルームの音質向上へ大いに資しているつもりである。

 しかし、だからといって「ケーブルに金がかけられないならオーディオは完結させられないか」と問われれば、誰しもある予算の限界内でギリギリまで自分好みのアンプやスピーカーを購入し、次に予算計画が立てられるまで自作を含む廉価なケーブルで間をつなぐ、という方法論は決して間違いではない、というより大いに支持できることだと考えている。


そして1.25VCTFキャブタイヤRCAケーブルはこちら、ディスクプレーヤー→プリアンプ間に供用中である。実験で張り回した銅箔のシールドテープはすべて剥がし、完全ノンシールドで使用している。少なくとも1mくらいまでの長さなら、シールドはない方が音質的に有利なのではないかと思うのだ。

 何といってもスピーカーやアンプ、ディスクプレーヤーなどの大物機器は入れ替えるのに大きな決断を要するのに対し、ケーブルやアクセサリー類はそれほどの負担でもない。もちろん自作だってスピーカーよりケーブルの方が簡単なのは論を俟たない。たとえ"場つなぎ"的な存在でも上手く活用して、皆さんにより充実したオーディオ・音楽ライフを送ってほしいと心より願う次第だ。



(2021年9月10日更新) 第301回に戻る 第304回に進む 
炭山アキラ

炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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