コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第31回/マックトン十番勝負、そのてんまつ

 13年2月「マックトン十番勝負」という月1イベントを始めた。8代将軍吉宗のご落胤・葵新吾の映画(主演 大川橋蔵)とは何の関係もない。要するに、マックトンのアンプが毎回どこかの製品と勝負をして、参加者の皆様にその決着を見届けてもらおうという対決型のスリリングなイベントだ。
 ご存じない方もいらっしゃろうから、マックトンについて簡単に紹介しておく。1964年創業の手づくり管球式アンプメーカー。本社および試聴室は杉並区(最寄り駅は西武新宿線・井荻)。ちょうど「真空管からトランジスタに切り替わる時期」であったが、「だからこそ、真空管アンプの牙城を俺が守る」と松本健治郎氏が一念発起して起業。以後半世紀にわたって、幾多の名機を世に送り出してきた。実績の割に知名度が今ひとつなのは、ヨーロッパへの輸出がメインであったからと思われる。
 しかし話によると、2011年3月の福島原発事故以降その輸出が滞りがちなのだという。「日本から来るものはみんな放射能で汚染されている」という噂が拡がったようで、予約キャンセルが相次いだ。東日本大震災の風評被害は、こんなところにまで拡がっていたのだ!
 筆者が月イチイベントをやろうと思い付いたのは、それを聞いた直後。月1イベントが、ヨーロッパの人たちの考えを変えることはできぬが、マックトンのよさ、管球式アンプのよさを世に広めることはできる。「俺がやらずに誰がやる!!」と考えた。

 2月22日(金)第1回には、リリック(Nmode)のデジタルアンプX-PM10が参戦。今さら言うまでもなく、あのシャープ「オプトニカ」高速1ビットアンプの高い志を何とか21世紀にも繋いでいこうというメンバーが作り上げた逸品。営業部長・瀬戸山貴博氏がわざわざ福岡から上京されたのだから、その気合いの入り方も尋常ではない。スピーカーも、キソアコースティックからHB-1を借りることができた。何を隠そう、筆者が今一番欲しいスピーカーだ。自主制作映画にあこがれのアイドルが出演してくれるようなしあわせ(後日、HB-X1が発売され、ナンバーワンの地位はそちらに移行。これについてはまた、機会を改めて語りたい)。

<MACTONE主な製品>
(出典:MACTONE)

XX-3000
世界でも最高の音質を目指した音を実現するためにすべての可能な回路と高性能な選ばれた部品と長年にわたって積み上げたノウハウが結集した稀にみる高性能なプリアンプ。



xx-550
世界でもまれな高音質の真空管プリアンプ。CDをはじめとするデジタル再生に素晴らしい効果を発揮。



xx-220
よりグレードの高い音色を得たいときに、優れた能力を発揮するプリアンプ。

詳しくはMACTONE HPで 

 3月29日(金)第2回には、「三極管以上の特性を半導体で実現した」と謳うヒット開発研究所のデビュー作LTC101055Sが参戦。開発者・福島彰氏も来場され、熱弁をふるった。SITとよく混同されるが、あちらは素子そのものの特性が類似。こちらは回路によってそれ以上の特性を実現。
 発売元となるナノテック・システムズから借りた金・銀コロイド溶液含浸ケーブルも音質改善に貢献。「先月気になったくせは、やっぱりケーブルのせいだったんだね」ということになった。「こんな静かな(S/N比感の高い)アンプは珍しい」「嫌な音を出さないアンプだ」といった声も聞かれた。
 キソアコースティックのアクセサリーブランド静-Shizuka-が作ったケーブルノイズキャンセラーCNC20-200が、あっと驚くほど効いたことも付記しておこう。「こんな静かなアンプは珍しい」の4割くらいは、ひょっとするとこれのおかげだったのかもしれない。
 閉会後は、関係者間のオーディオ談義が延々と続き、終電ぎりぎりセーフ(お茶一杯飲まず、ただただ語り続けていた)。それだけ中身の濃い会であった証しといえるだろう。


メインブレーカーの直後にある漏電遮断機の直前から100Vを引く

 4月26日(金)第3回には、ALLION T-200svが参戦。このアンプをプロデュースした島元澄夫氏(出水電器)に、オーディオ専用電源工事までしてもらったから、透明感・力感がこれまでの2回とは段違い!
 この日は「無改造CDプレーヤー」と「出川式電源に載せ替えたCDプレーヤー」の聴きくらべもおこなわれたが、「電源をいじるだけで、こんなにも違うのか!?」というためいきがあちこちから漏れた。考案者・出川三郎氏も登場し、技術的解説もおこなわれたが、とても要約し切れない内容なので、A&R Labのサイトを参照していただきたい。

 5月31日(金)第4回には、EAR912(プリアンプ)と861(パワーアンプ)が参戦。EAR対マックトンだけでなく、EARのプリ+マックトンのパワーアンプといった組合せも試された。
 プリアンプは航空機のコックピットか管制塔のようなものだから、音質だけでなく、操作感が重要。その点EAR912の操作感は申し分ない。やはり、ボリュームはある程度のねっとり感が必要なのだ。

 6月28日(金)第5回には、「九州のアインシュタイン」と称される鬼才、永井明氏のブランドSATRI(バクーン・プロダクツ社)が参戦。
○D/Aコンバーター DAC-9730
○プリアンプ    PRE-5410MK3
○パワーアンプ   SHP-5516M-S
といったフルラインナップで、濃密かつリアルな音を聴かせてくれた。永井氏も熊本からおいでになって、「SATRI回路とは何か」を解説。首都圏のSATRIファン、永井ファンもかなりの人数いらしていた。ある意味、マックトン松本健治郎氏が最も緊張した夜であったかもしれない。


マックトン十番勝負第7回。今井哲哉氏によるDSD講座


マイテック・デジタルStereo192-DSD DAC

 7月26日(金)第6回には、EAR912と861が再登場。「これでこそティム・パラヴィチーニの世界」とリピーターの皆様も大満足。「EARといえば、アナログ再生」とお思いの方が多いようだが、CDやSACDをかけても、EARならではの表現力と気品は健在。

 8月30日(金)第7回からはDSD特集(他社製品と勝負するのではなく、DSDの魅力をいかにして引き出すかというチャレンジに路線変更)。管球式アンプとDSDは真逆の世界のように受け取っている方もいらっしゃるが、実はたいそう相性がよい。
 今井商事代表・今井哲哉氏はマイテック・デジタルStereo192-DSD DAC(筆者も愛用中)を持ち込み、CDフォーマット、マルチビットのハイレゾ、DSDの違いをわかりやすくデモ。ここまでならショップイベントでもよくある企画だが、それに加えて、まったく同じ演奏をSACDとDSDネイティヴ再生で聴きくらべられたのが面白かった。
 今井氏がAudioGateを使って作った「なんちゃってDSD(CDデータから作った5.6メガ)」も大好評。「そんなことして何の意味があるのか!?」と感じられる方多数と思われるが、「とにかく聴いてみてください」と言うほかない。もちろんオリジナルの5.6メガと同じ音にはならないが、「DSDらしい雰囲気」は確実にかもし出す(そのファイルは、11月のインターナショナルオーディオショウでも披露され、大反響を呼んだ)。

 9月27日(金)第8回は、スフォルツァート代表・小俣恭一氏を招いて「最新ネットワークプレーヤーDSP-03を使ったDSDネイティヴ再生」。最新DSDファイルを中心に、様々なハイレゾを堪能。
 しかし、DSP-03のよいところは、CDフォーマットの音も高品位に再生できるところだ。閉会後も、お客様方が小俣氏を取り囲み、「要するに、何と何を買えばよいのか」「設定は、本当にビギナーでも可能なのか」等々質問の嵐。
やはり、管球式アンプとDSDは相性がよいのだ!


スフォルツァート DSP-03

 10月25日(金)第9回は、「そうは言っても、SACDでDSDを楽しみたい人たちもいる」というテーマで、 ヤマハCD-S3000A-S3000を借用。この秋最も注目されたSACD/CDプレーヤーとプリ・メインアンプの実力を、お客様方と検証した。
「定年退職する人が、人生最後に買うオーディオ機器として最上の選択ではないか」というのが筆者の結論。
 CD-S3000の下に敷いた、長谷弘工業のインシュレーター「ティラミス」も、全体の音調を整えるのに大きく貢献した。


マックトン十番勝負最終回

 11月29日(金)第10回は、ハーマンインターナショナルからJBL K2S9900を借り、「マックトンの総力を結集して、この巨大スピーカーを鳴らし切る会」に!
① X-220(プリ)+MS-1000(パワーアンプ)
② X-550(プリ)+MS-1500(パワーアンプ)
③ X-3000(プリ)+M-8V(OTLモノラルパワーアンプ)
といった組合せで鳴らしたのだが、「安いものから高いものへ、だんだんよくなる」といった単純な違いではなく、それぞれの性格の違いが聴き取れ、なかなか興味深い会になった。

 歌手の井筒香奈江さんもご来場されたので、カバーアルバム『時のまにまに』シリーズを、1、2、3と聴きくらべたが、その音作りの違いがハッキリ出た。ご本人も「ここまでわかっちゃうんですね。緊張して、嫌な汗かいちゃいましたよ」と苦笑い。休憩時間は、急遽サイン会に!
 閉会後は「これまでで一番よい音でしたね」と何人ものお客様から言われたが、それは「この日の組合せが一番」という意味ではなく、この10か月間に、「この部屋の音をよくするための工夫」をマックトンが重ねてきたからであろう。ケーブルの吟味とその引き回し、インシュレーター(Ge3の「礎(イシズエ)」を採用)、電源工事、床の補強、ルームアコースティックの改善など、ひとつひとつがクォリティ・アップに貢献。インフラノイズから借りた「リベラメンテ」シリーズ(ピンケーブルとスピーカーケーブル)がラストを見事に締めくくったことも付記しておこう。

 以上10回のイベントにご参加いただいたのべ110名以上のお客様方には、心より御礼申し上げたい。「マックトン十番勝負」はとりあえずこれでおしまいだが、月1イベントはまたやりたい。どこかからお声がかかると嬉しいのだが。

(2013年12月20日更新) 第30回に戻る 第32回に進む 


井筒香奈江さん本人からレコーディング秘話を聞き出す


インフラノイズ「リベラメンテ」のピンケーブル
村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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