コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第32回/好きな気持ちに正直に生きよう

 更新のタイミングとしては2013年の終わりであり、2014年に向けてという意味もこめて書いてみたい。オーディオ、特にプリアンプのデザイン、見た目のことだ。きわめて主観的な話などをつらつらと。

 まず好きなデザインはユニゾンリサーチのミステロ(と、その後継機種のミステロ・デュエ)だ。


ユニゾンリサーチ Mistero

 以前、実際に所有していた。写真ではサイズがわかりにくいが、横幅が46センチあって意外と大きかった。見るだけ、触るだけ、撫でるだけでも気持ちいいくらい好きなデザインで、所有当時もメインのプリとしては使わず、結線もせずに置いてあるだけのことも多かった。ある時うちに来たカメラマンの山本博道さんが、「鈴木さん、これ使ってないの?」という(この会話、何回もしているのだが)ところから結局、山本さんに譲渡。生前は九州の実家でシステムに組み込まれていたはずだ。なんかいろいろと胸が痛む。と書くと誤解を生みそうなので簡単に記しておくと、プリアンプとして使う時間が短かったこととか、譲渡しちゃったこととか、山本さんが亡くなったこととか、山本さんが亡くなって再びあまり使われることなくポツンと置かれていたこととか、である。風の便りによると、2013年どなたかに引き取られていったそうだが。
 ミステロのデザインの場合は特殊な例というか、この傾向のものはただこれひとつなので話は広がらない。


(上段)サンバレー SV-192A/D Ver.2
(下段)マーク・レヴィンソン No.26SL



マイテックデジタル Stereo192DSD DAC

 もうひとつの好みの方向は「艶消し黒、ツマミ多め」というデザインである。これは我ながらツボというかもうやめたいという気持ちもあるのだが、結局そういうオーディオがうちにある。まず現在使っているプリアンプがまさにそれだ。サンバレーのSV-192A/D Ver.2。以前はフロントパネルが銀のSV-192A/Dを使っていたが、Ver.2がマットブラックになって登場して、いてもたってもいられず買い換えた。ちなみにSV-192A/Dとそのver.2の違いはフロントパネルの色だけでなく、内部もいろいろと良くなっているのだが今回はそれを書く場ではないので割愛。なにしろメーターやらインジケーターやら、ツマミやら、パイロットランプやらがいっぱいついていて、これはA/Dコンバーターという、プリアンプとしては珍しい機能を持っているためだが、PAで使いそうな(実際に使われているらしい)デザインだ。

 このプリアンプのひとつ前に使っていて、現在はフォノイコライザーとして活躍しているのがマーク・レヴィンソンのNo.26SL。全体が艶消し黒で、ツマミは銀色。色だけでなくボリュームのねっとりとした回し心地や各セレクタースイッチを切り替える時の、コクッコクッという感触も最高で、ほんとに触っていて気持ちいい。
  

 そして、使っているUSB DACのマイテックデジタルStereo192DSD DAC(マスタリングバージョン)も実はプリ機構を持っていて、これまた艶消し黒である。ツマミは多くないが入力インジケーターが派手だ。実はアナログ入力も持ったプリバージョンというのもラインナップしているのだがこちらはフロントパネルが鈍い銀色になり、しかもインジケーターもなくなってのっぺりしてしまって、個人的にはまったくそそらない。機能的にはアナログ入力があるのはとても魅力的なのだが。

 デザイン的にも音的にも欲しいプリアンプのことをいくつか記してみると、まず古いもので言うと、マーク・レヴィンソンのLNP-2L。ほんとに品がある。状態のいいものは現役で音もいいらしい。絶賛発売中のもので言うとEARのEAR912。日本仕様はフロントパネルについているハンドル部がシルバーなのだが、いやいやこれはやはり艶消し黒でしょう。ま、塗ればいいかと、買えるあてもまったくないのに対策だけは考えてある。

 そして、最近、見つけたのがシャドウ・ヒルズの「マスタリング・コンプレッサー」。宮地楽器の扱っているプレミアムラインのブランドだが、もはやプリでもない。コンプレッサー機能のところをすべてスルーさせてゲインだけいじればプリとして使えなくもない。本末転倒である。だってカッコいいじゃないですか。ここまで来るとマットブラック好きも危ない領域に入っている。

EAR EAR912


シャドウ・ヒルズ
マスタリング・コンプレッサー


 これだけマットブラックにハマるとさすがにちょっと客観的に見えてくる部分もある。艶消し黒にもいろいろあって、PAやレコーディングスタジオなどの業務用のオーディオ系、ギターやベースなどの楽器用アンプ系、戦闘地帯で使われるアーミー系(トランシーバーとか)、デザインという概念もなく作られていたヴィンテージ系、反射を嫌うAV系、等々があるのだが、ひとつオーディオで欲しいのは「和」の感じのデザインだ。


こういうデザインのオーディオはないか?

 何かの機会に頂いたもので高価でもなんでもないが、鉄の味わいとか質感が素敵で、こういうデザインのオーディオがないかと思っている。念のために、円形でなくていいし注ぎ口が必要なわけでもない。ただ、最近のオーディオ、特にデジタル関係のものって、ツマミもメーターもスイッチも、味わいも手作り感も職人のワザも感じられないものが多いような気がしている。

 ちなみに、艶消し黒にこだわって手に入れたうちのオーディオはどれも音が良い。ということでこれだけ勝手放題なことを書いておいてまったく説得力がないが、一応の結論は「好きな気持ちに正直に生きよう」。 2014年の抱負としたい。

(2013年12月28日更新) 第31回に戻る 第33回に進む

 
鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。ライターの仕事としては、オーディオ、カーオーディオ、クルマ、オートバイ、自転車等について執筆。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)季刊『オートサウンド』ステレオ・サウンド社、月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。オートサウンドグランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員(2012年4月現在)。

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