コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第35回/より真実の音楽を聴けるプラチナSHM






 プラチナSHMというメディアの威力について書きたい。これは基本的にはCDなのだが、素材や作り方がちょっと違う。3つのポイントがあって、まずプラチナというレアメタルを反射膜に使っている点。プラチナの反射率は、CDの規格には適合しないために厳密にはCDではない。メーカーでは「規格外の音」というキャッチコピーを使っている。
 2番目にレーベル面にターコイズ・ブルーという、見た感じで言うと透明感のある緑色のプリントを施してある点。
 そして第3にマスターにSACD~SHM~を作る時に使用したデジタルマスターを使ったり、そのマスターをCDにする時にハイビットサンプリング(176.4kHz/24bit)でダイレクトにカッティングを行っていたりという、以上の3点だ。このあたりのイラストやグラフ入りの詳しい説明についてはレコード会社の説明にアクセスしていただいた方がいいと思うので省略。
ユニヴァーサル・ミュージック「プラチナSHM 公式サイト」


『ホワッツ・ゴーイン・オン+6』
マーヴィン・ゲイ


【特別番組】プラチナSHMのすべて~不朽の洋楽名盤編 全40タイトル

 ミュージックバードの特番を作るために、2013年12月までにリリースされたロックとソウルの40タイトルのプラチナSHMを聴いたのだがこれが相当に凄かった。大変だったというのもあるのだが、その大変さの中に取り憑かれたように音楽を聞かされてしまう感じを持っていた。
 まず大きいのは、使用したマスター音源のクォリティだ。オリジナルのマスターテープ(アナログの磁気テープ)から、イコライザーもコンプレッサーもかけずにそのままデジタルデータ化したのだ。こういうやり方をフラットトランスファーと呼んでいるが、SACD~SHM仕様~として最初に登場したこのマスター音源がすばらしいと言わざるを得ない(一部、例外があるがクォリティ的には同一だ)。

 実はアナログの磁気テープは百年持つようなものではない。磁性体が剥離したり、テープ自体が劣化していく。メーカーやロットによっては、新品のテープを使って一回録音しただけでも磁性体の粉がけっこうな量、落ちるようなものもあるほどだ。どこかの時点で高い情報量を持つメディアに移す必要があった。それをちゃんとやったということだと思う。上記したようにそのデータそのものの音はSACD~SHM仕様~で聴くことができるのだが、どことなく音に磁気テープの匂いがあって、音楽を作る側から言えば、このあとアナログレコードを作ることを前提にしている音であるかもしれない。しかしレコーディングスタジオのミックスダウンの作業で、ミキサー卓の前でそのミュージシャンとレコーディングエンジニアが聴いていた音そのものであり、作り上げた音楽であるという、「オリジナル」を聴いている感覚が強烈にある。僕自身はもしひとつだけ手もとに置いて聴いていきたいとすればSACD~SHM仕様~だと思っている。

 ただ、ひとつ問題がある。これはSACDという光学系、回転系のメディアの問題なのだが、ある程度高級な(高額な) SACDプレーヤーを使わないとその音の真価を発揮できない点だ。漠然とその値段を言うと、最低で24万円程度。できたら50万円以上のプレーヤーが必要という認識だ。僕自身、こういう現実を残念だとは思っているが、剛性感の高い音をSACDから聴くためには相当に剛直なメカドライブが必要であり、そのコストのかかることをやるとそんな値段になってしまうようだ。






『オリジナル・サウンドトラック+4』
10CC


『カラフル・クリーム』クリーム

 話を元に戻すと、10万円程度のCDプレーヤーでそれに近い感じを出せるのがプラチナSHMだ。ただし、特有の表現の傾向を持っている。
 変な言い方だが、SACD~SHM仕様~の音が自然体であるとすると、プラチナSHMの音にはある種の気迫みたいなものを感じる。昔の日本映画を見ると、撮影現場に漂っていた制作スタッフの真摯さ、張りつめた緊張感、職人気質の清潔感みたいなものがにじみでていたりするが、そういうちょっと過剰な「ソフトに入っている情報をあらいざらい聴かせてやりますぜ」的な気迫を感じてしまうのだ、良くも悪くも。

 具体的に挙げてみよう。
 マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイン・オン+6』(UICY-40010)。これはスティーヴィー・ワンダーの黄金の3部作と並んで、ある意味モータウンというレーベルの歴史を変えてしまったほどのメッセージ性の強いアルバムだが、マーヴィン・ゲイの表現したかったものが、見事に徹底的に、ダイレクトにヴィヴィッドに聞こえてくるのだ。音がいいということが、音楽にとっていかに大切かというのをあらためて痛感させられる。まず、タイトルチューン冒頭の、声の臨場感や入ってくるベースやパーカションの響き。ボーカルの立ち方と精彩感の凄さ。コーラスが、音量的にも音像の大きさとしても控えめながら、息づかいが良く伝わり、実に効果的に音楽を支えているのがわかる。そしてストリングスの壮麗でありながら、悲しく美しい感じ。




 あるいは10CCの『オリジナル・サウンドトラック+4』(UICY-40017)。もともと、1960年代前半から活動していたミュージシャンたちで、レコーディングの技術にも精通しているメンバーだ。誰でも知っている「アイム・ノット・イン・ラヴ」を聴いてぶっとんだ。まずその冒頭のコード感に愕然とする。シングルバージョンではカットされてしまっている部分だ。こんなハーモニーだったのだ。またコーラスのひとつひとつが溶け合っているのに、音像の表面がアルミの梨子仕上げのように引っ掛かりがあり、その音像が呼吸をしていて大きく育ったり、小さくなったりする見せ方。左右に移動したりもする。それに対する高域をカットしたドラムのキックの音。オーディオ的にも実におもしろい音作りだし、革新的なものを作っているのだという、現場での戦くような感じや高揚している気分までが伝わってくる。

 あるいはエリック・クラプトンの参加しているクリームとかブラインド・フェイスとかデレク・アンド・ドミノスのアルバムでの、プレイ自体の勢いやその時々に目指していたものが正確に伝わってくる感じ。というと客観的だが、実にそれぞれの音楽性が良く出てきて楽しすぎる。

 逆にスティーヴィー・ワンダーが70年代の黄金の3部作を作った後にリリースした『キー・オブ・ライフ』(UICY-40044)の存在だ。絶頂期のスティーヴィーの音楽であり、当時はLP2枚+EPという形でリリース。14週連続全米1位で、最優秀アルバム賞ほかグラミー賞を席巻した作品だ。それまでの3部作ではスティーヴィー本人の多重録音による閉じた世界であったのに対し、おおよそ合計130人に達するさまざまなミュージシャンたちが参加している。


『スーパー・ジャイアンツ』
ブラインド・フェイス


『いとしのレイラ』
デレク・アンド・ドミノス





『キー・オブ・ライフ 』
スティーヴィー・ワンダー

【特別番組】プラチナSHMのすべて~不朽の洋楽名盤編 全40タイトル

そういった意味ではもっとアルバム全体に解放感とか、みんなでやっている高揚感があってしかるべきかと思うが、プラチナSHMで聞こえてくるサウンドは意外と開放的でなく、スティーヴィーが孤軍奮闘している感じさえある。大衆の中の孤独と書くと言い過ぎだが、3部作での強烈な集中度と比較するとトータルでの作品のエネルギーは落ちている。これだけ高評価の作品に言うのも恐縮だが、名曲は多いが思い通りに作りきれていないスティーヴィーの心情が伝わってしまうのだ。

 まとめると、音作りの妙やレコーディング・スタッフの力量、プレイ自体の温度感の本当のところ、ミュージシャンの精神状態、そしてもちろん表現したかったものが、ダイレクトに、ダイレクト過ぎるくらい聞こえてしまうのがプラチナSHMだ。

(2014年2月3日更新) 第34回に戻る 第36回に進む 

 

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。ライターの仕事としては、オーディオ、カーオーディオ、クルマ、オートバイ、自転車等について執筆。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)季刊『オートサウンド』ステレオ・サウンド社、月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。オートサウンドグランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員(2012年4月現在)。

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