●2月×日／ミュージックバードの熱心なリスナー青木明さんより連絡があった。テレビ東京で放送している午前中の情報番組「7スタLIVE」で、オーディオについての取材を受けるから、田中さんも付き添いで出演してくださいという。番組ディレクターはミュージックバードのウェブ上で、ぼくが青木さんの家を訪問する映像を見たらしい。そのディレクターに連絡すると「ほかにも音に関連するスポットを回るので、同行して奥様向けに解説してください。当日の生放送もお願いします」ときた。こんなことは最初で最後と思い了承。

●2月×日／早朝、阿佐ヶ谷駅に集合。番組を進行するリポーターは乾貴美子さん。音楽喫茶「ヴィオロン」でブルーノ・ワルターのマーラーを聴き、蓄音機も特別に回してもらう。ロック、ジャズ・ファンのぼくでさえ、この店の幽玄な音に心打たれた。
　次に銀座のパイオニア・ショールームへ移動。TADの最新鋭モデルで大画面のド迫力映像を味わう。続いてハイエンドのオーディオ・マニア、目黒の惣野正明さんの家を訪問。部屋中にセットされた日東紡のルームチューニング材はテレビ的にはウケがいい。またオーディオ総額「フェラーリの2台分くらい」という惣野さんの発言に、乾さんをはじめスタッフ一同が驚愕。
　最後は板橋の青木宅。ゴトウ・スピーカーのマルチユニット、何台もあるアナログ・プレーヤー、無数にあるカートリッジなどを紹介。ともてじゃないが簡単に説明しきれない。

●2月×日／やはりミュージックバードのリスナー、千葉に住む雪まるださんを訪問取材（音元出版：オーディオアクセサリー）。村井裕弥さんが第13回で書いているオーディオのソーラーパネル電源実践者。雑味（ノイズ感）のない静かな音には舌を巻いたが、雪まるださんの電池駆動から始まる電源に対する一途な取り組みにも恐れ入った。「いい音の電池は日立マクセルのマンガン電池。2番手はパナソニックのネオハイトップ。充電式やニッカドはだめ。音がとげとげしかった」「太陽光を取り込めない夜間には、専用電球を当てる。電球によって音が違う。東芝のクリアランプが一番いい」などなど思いもよらない発言が飛び出す。アナログ・プレーヤーをソーラーと車のバッテリー電源で比較試聴。音の滲みがなくフォーカスが締まったソーラーの圧勝。ただレコードを回すだけだというのになんということだ。

●2月×日／横須賀の舘野光博さんを取材（音楽之友社：stereo）。氏はエレクトロヴォイスの1955年製パトリシアン600というヴィンテージ・スピーカーで60年代後半から70年代のフリージャズを専門に聴いている。「学生時代に聴いていた後期コルトレーンを特にいい音で鳴らしたい。それしかない」という徹底ぶり。
　思えば、十代の頃、ラジカセやミニコンポで熱心に聴いた自分だけのフェイバリット・ナンバーは誰でも持っているはず。そこにオーディオ的なスポットを当て「こんないい音だったんだ」と驚愕する機会があったりすると、けっこうオーディオ・ファンは増える気がする。

（2014年3月11日更新）　第38回に戻る　第40回に進む