コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第43回/「ハイレゾ音源」の定義で火がついた諸問題に答える [村井裕弥]





  3月JEITA が「ハイレゾ音源」の定義を、「CDを超えるデータはすべてハイレゾ」とした。たちまち湧き起こったちまたの声!

① だったら、DAT(48kHz16bit)もハイレゾじゃないか!? 
5.6MHz以上のDSDとDATレベルをいっしょにしてよいわけがない。ふざけるな。

② ハイレゾ、ハイレゾって騒ぐ割に、本当の当たりが少な過ぎ!

③ そもそもハイレゾなんか要らないんじゃないか。
売りたい側の都合だけで、話を進めるな。


CDを超えるデータとして登場した「ハイレゾ」が物議を醸す

④ アップコンバートで作られた「なんちゃってハイレゾ」「ニセレゾ」が許せない。
食材産地やエビの種類(車エビなのか、バナメイエビなのか)みたいに、「オリジナルマスターは96Hz24bit」といった表示を義務づけろ。

「俺の声が入ってない」という方、ごめんなさい。さすがにすべてのお声は拾えない…。

 「そういう村井の考えはどうなんだ」という方もいらっしゃろうから、まずは筆者の基本姿勢をまとめておく。

○ よいものはよい。
○「どれが当たりか」は人によって違う。
○ ほかの方が何を好もうと、どうぞご自由に。

 某オーディオ関係者にこの話をしたら、「それじゃ論争にならんじゃないか」とがっかりされた。こっちも「やはり、あなたは論争がしたいだけだったのね」とがっかりした…。

 だから、①を唱える方には、「定義なんだから、それでいいんじゃないですか」と答える。「CDを超えるデータ」はあくまで「ハイレゾ」の定義であって、クォリティ保証ではない。まして「あなたが満足できるか否か」の指標ではない。毎秒32.7m以上の台風を「強い台風」と呼ぶ。あと、「温泉」とか「メタボ」とか。どれも、ただ「そう呼ぼう」と決めただけのこと。定義とはそういうものだ。
 もちろん筆者は、5.6MHz以上のDSDを否定するわけではない。むしろ推進派だ(言うまでもないことだけれど、5.6MHz以上のDSDがすべて大当たりだなどとは言っていない)。しかし、その必要性を認めない人たちを攻撃することはない。皆それぞれ好きなフォーマットのファイルを購入して楽しく過ごせればそれでよいからだ。別にどちらが偉いわけでも正しいわけでもない。

 ②を唱える方には、「ホントにそうですね」と答える。しかしそれはSP時代も、LP時代も、CD時代もそうだった。いつの時代、どんなジャンルにも当たりとハズレはある。そして、当たり・ハズレは人によって違う。

 ③を唱える方には「あなたはきっとそうなのでしょう。でも、必要だと感じている人もいるのですよ」と答える。
 いや実際、44.1kHz16bitであっと驚く音を出している達人は全国に何人も実在する。しかしそれは達人だからできることであって、筆者のような凡人には到底真似できない。ヒマラヤ登山にたとえれば、達人は無酸素単独登頂を目指すが、大多数の山岳愛好家はシェルパの助けを借り、酸素ボンベを使う。そのボンベにあたるのがハイレゾだと筆者は考える。それは反則でもなんでもない。
 そもそも最新録音の大多数が96kHz24bit以上のフォーマットで収録されているというのに、なんでわざわざ44.1kHz16bitにダウンコンバートしたものを買わされなきゃいかんのか!? 特別なものを売ってくれと言っているわけではない。「加工せず、そのまんま売ってくれ」と言っているだけ。 「釣りたてのさかなを自分でさばきたい」「ホールチキンを買ってきて、丸焼きから鶏ガラスープまで堪能したい」それらに近い、極めて原初的な欲求なのだ。

 やっかいなのは④。明らかにCDフォーマットのオリジナルマスターから作られたSACDが存在するから、今後CDフォーマットを元にしたハイレゾも多数現れる可能性は否定できない。
 しかし、「CDフォーマットのオリジナルマスターから作られたSACD」を何枚か改めて聴き直してみると、それらの出来が意外なほどよいことに驚かされる。先日それを作った関係者にその話をしたら、「ありがとうございます。よく批判もされるのですが、同じ44.1kHz16bitといえども、オリジナルマスターにはCDとはケタ違いの情報がふくまれています。それをなんとかCDに詰め込みたいと思ってあれこれ努力するのですが、なかなか100%というわけにはいかない。しかし、ていねいにDSD化して、SACDとして聴いてみると、案外すんなりそれが伝わるのです」というようなことを言われた。
 なるほど。筆者たちがCDのリッピングデータをフリーソフトでDSD化しても一定の効果があるのだから、プロがプロの手法でDSD化するのはより意味のあることと思われる。
 ただし、もちろんこれにも当たりとハズレがあり、その音を好きな人も嫌いな人もいらっしゃる。
 SPやLPから作った、いわゆる「板起こし盤」の音質が、オリジナルマスターを有する本家メジャーレーベルのCDよりよかった例も多々あるのだ。何が起きても不思議ではない。要は、技術者のセンスなのかもしれない。

 ネット上には「すべてのアップサンプリングを否定する」みたいな方もよくいらっしゃるが、あるところが急に気になり、そのあとずうっと気になり続けるというのは、音に限らずよくあること。その方はきっと人並みはずれた素晴らしい耳をお持ちなのだろう。だから、その方といっしょにアップサンプリングされた音を聴き、「ほら。ここですよ。ここがこう気持ち悪い」と教えてもらえば、かなりの確率でその欠点がわかるようになるのではないかと思うが、そうなりたいとは思わないので、実行しない。
 別にその方を否定しているのではなく、いまおいしいと思って食べている佃煮の「ここがえぐい」とか教えられたくない。しあわせの種は少しでも多いほうがうれしい。それだけのことだ。

 あとは「オリジナルマスターのフォーマット表示を義務づけよ」という問題。正直な話、筆者はそこまでしなくても(そうすることでデメリットも生じる)と思っているのだが、世の中の流れは「なんでもかんでも開示せよ」のほうに向かっているようなので、開示したほうがリスナーに喜ばれるかもしれない。
 「オリジナルマスターは44.1 kHz16bit ですが、当社独自手法により、上質な5.6MHz DSDファイルに仕上げました」といった表示を見て、「おお、ここは良心的じゃないか」と感心して多くの方々がダウンロードする。
 そんな情景が目に浮かんできた。

 歴史を振り返ると、メディアやフォーマットの成否は、「よい音か否か」「理論的に正しいか否か」ではなく、「大衆に支持されるか否か」で決まった。今後、ハイレゾはどうなっていくのだろう。あなたにとっても、筆者にとってもしあわせな未来であることを祈る。

(2014年4月21日更新) 第42回に戻る 第44回に進む

【村井裕弥がナビゲータを務めます!第8回Acoustic Audio Forum】
 防音・音響設計コンサルティング会社アコースティック・エンジニアリングが開催するAcoustic Audio Forumは、『あなたのお部屋と、聞こえ方がどう違うか』をテーマとした試聴会です。
 今回のテーマは『ステレオ再生における”臨場感”について~第二回:音の充実感』。現代住宅内装構造に潜む弱点と「響き方」の関係に迫ります。

  日時/4月25日(金)19:00~
  場所/アコースティック・エンジニアリング ショールーム
    (地下鉄 九段下駅より徒歩5分)
  ナビゲーター/村井裕弥
  ★詳細はこちらをご覧ください。

村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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