コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第44回/音を可視化すること [鈴木裕]  

 きちんとステレオ再生すると、音像や音場は見える。しかし、音自体は見ることができない。漠然としたひとつの夢なのだが、たとえば音楽を聴いている時に、部屋のすみに低音が溜まってるさまとか、右側に置いてあるオーディオラックの角で音波が乱されている様子が見えてこないかなぁと思ってきた。かつて読売巨人軍の川上哲治選手が現役の時、多摩川球場でバッティング練習をしていたところ球が止まって見えたというアレである。「聴けている」ある瞬間、音自体が見えてこないかなぁと思っているのだ。

 とまぁ、相当アホなことを書いているが、現代には音を可視化できるものがいくつかある。以前からスペクトル・アナライザーでは周波数特性をグラフとして見ることができた。


「球が止まって見える」ように
「音」も見えてくれば・・・

最近では、たとえばアイフォンのアプリでf特を簡易的に測定できたり、あるいは前回も使わせてもらったがアキュフェーズのデジタル・ヴォイシング・イコライザーのDGシリーズを使えば実に克明に正確に自分のオーディオ(部屋)のf特を見せつけられる。

 日東防音響エンジニアリングという会社のことをご存じの方もいるだろう。ホームオーディオにとっては、シルヴァンとかアンクといったルーム・チューニングの製品を作っているメーカーだ。ただし、日東防音響はオーディオ・アクセサリーを作っている一般的なブランドとは成り立ちが抜本的に違う。詳しくはオフィシャルウェブサイトを見てほしいが、そもそもコンサートホールとか放送局のスタジオを設計・施工するようなメーカーだ。
日東防音響エンジニアリング ホームページ

 こんなグラフィックがある
 これは、部屋の中で鳴っている音を可視化したものだが、どうやって計測しているかと言うと、マイクを三次元的に10センチくらいずつ移動してはそのポイントのf特を計測し、つまりひとつの部屋の中で何百ポイントもの計測を繰り返し、その結果をコンピューターでまとめて、色づけをしたものだ。こういう裏付けを取っているブランドはなかなかない。こういう風に音を見たいのだ。

 パソコン用の波形編集ソフトというのもある。これでも音は可視化されている。最近は、マスタリングレベルの問題を表現する時になども登場する。
 僕自身、ラジオのディレクターとして2002年くらいから波形編集をしているのだが、オーディオ的にも音の性質的にもいろいろなことがわかってきた。


(波形編集ソフトで見る波形)

 基本的に時間は左から右に流れている。上側が左チャンネル、下側が右チャンネル。音は空気の疎密波である。だから波の形をしているというように漠然と思われる方もいるだろう。それはそうなのだけれど、もっと別の言い方をすると、これはマイクの振動板の動きを表現しているとも言える。いやむしろ、マイクの振動板の電位のグラフであり、同時にそれはスピーカーの振動板を駆動する設計図とも言える。つまり、0dBの位置が電位がゼロの時の振動板の位置。上側に山が来ているということは、振動板は聴き手側に張出し、下側ということは振動板はエンクロージャーの内側に引き込む動きをしている。そして、見てもわかるように、振動板は細かく振動しながら、大きく振動している。これつまり、低音の上に中音域が乗りながら振動し、中音域の上に高音が乗りながら振動していることを意味している。ということは……。

 この先はちょっとまだ考え中、テスト中なのでまた進展があったらご報告したい。波形編集の波によって、いろいろなことが説明できそうな気がしている。

(2014年4月30日更新) 第43回に戻る 第45回に進む

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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