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コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第46回/オーディオ史に残る五大バトルを振り返り、「ハイレゾ音源」の未来を占う [村井裕弥]

 前回このリレー連載に、ハイレゾ音源に関する私見を載せたら、予想をはるかに超える反響をちょうだいした。やはり一番旬な話題だからだろう。世の中には、アンチから積極推進派まで様々な方がいらっしゃるが、「この道はいつか来た道」という気もする。
 たとえば、
① ステレオ派vsモノラル派(1950年代末に激突)
② オープンリール派vsカセット派(1970年代前半に激突)
③ 4チャンネル派vsアンチ4チャンネル派(1970年代前半に激突)
④ CD派vsアンチCD派(1982年以降激突)
⑤ SACD派vsアンチSACD派(1999年以降激突)


今では懐かしいものになってしまったカセットテープ。

 思い付くまま書き出してもこんなにある。いずれも激しい論争が巻き起こったが、前回も書いたように「論争で勝ったから生き残るわけではない」。マニアックな感覚とは無縁な「大多数の人々がどちらに流れたか(どちらを買うか)」で勝負はいつも決まってきた。

 1976年、エルカセットというふた回り大きなカセットが登場したが、大多数の人々はそれを無視。なぜなら片手でひょいと持てないサイズだったからだ(敗因はほかにもいろいろあったのだけれど、話がわかりにくくなるので、とりあえずそうしておく)。
 CDはその失敗を反省し、カセットテープの対角線とその直径を等しくすることで、サバイバルに成功。盤面がピカピカ銀色に光っているのも効いた。いかにも未来的、先進的に見えたからだ。
 要するに、大多数の人々は、
○ 扱いやすく
○ かっこよく
○ 人にうらやましがられるほう
を選ぶ。「音質的優位」や「どっちが正しいか」は二の次、三の次なのだ(少しスマホの話に似てきた)。

 このように考えてくると、「ハイレゾ音源普及への道」もうっすら見えてくるが、それはメーカーやレコード会社(死語?)が考えるべきことなので、ここではふれない。

 1989年7月「バカヤロー!2 幸せになりたい。」というオムニバス映画が公開された。第3話「新しさについていけない」の主役は藤井フミヤ(当時の表記は郁弥)。大好きなLPを聴くため、交換針を買いにいくと「お客さん、まだそんなもの聴いてるんですか。これからはCDの時代ですよ」と言われる話だ。そののち彼はいろいろ新しい家電を買わされ、ひどい目に遭うのだが、最後にぶち切れ、「バカヤロー!」と叫ぶ。
 彼は若いときから新製品に目がない「新しいもの大好き人間」だったのだ。しかし、それらにことごとく裏切られてきた(4チャンネルステレオ、フェリクロームテープ、Hi-Bandベータマックスの名が出ていたとおぼろげに記憶する)。だから、もう新しいものには手を出さないようにしてるのに、どんどん進化させやがって、バカヤロー! 確かこんな話だ。
 筆者はこの「バカヤロー!」シリーズが大好きで、第4作まですべて見ているが、この第2作第3話が最も強く心に残る。それはもちろん、筆者自身その主人公と同じ思いをしてきているからだ。だから劇場で腹を抱えて笑いつつ、涙をせき止めることができなかった。そして、心の中でフェリクロームテープやHi-Bandベータに手を合わせていた。

 1996年DVDの登場で、LDはその役割を終え、2011年にはMDも生産終了。
 きっと多くの人たちが、藤井フミヤ演じる主人公と同じトラウマに苛まれ続けているものと思われる。

 とここまで書いて、文末をどう締めくくるか少し迷う。ここまでの流れを受け、「ハイレゾ・ブームだって、いずれは消えてしまうあぶくのひとつなのだから、無視しておればよいのだ」とも言えるし、「どっちが正しいかではなく、大多数の人々がどちらになびくかだけのことなのだから、もう少し様子を見よう」とも言える。

 ただひとつ言えるのは、ハイレゾ音源の場合、Hi-BandベータやLD、DAT、MDのように、「ハードが製造されなくなったから再生不可」といった悲惨な事態にはならないということ。
 再生すべきデータが裸のまま、こちらの手元にあるのだから、D/Aのチップが作られ続ける限り、再生は可能。より高次なフォーマットに対応するチップは作られても、低次なほうに堕していくことはありえない。

 もちろん前回書いたように「ハイレゾ音源だからすべて素晴らしい」などということはありえない。しかしそれは、SPだって、LPだって、CDだって同じこと。
 いろいろな人のつぶやきを追っていくと、
○ いまのハイレゾはあまりに高価
○ 旧譜の価格が新譜と同じなのは暴利
○ 192kHz24bit、DSD 5.6MHzまで対応するDACを買っても、将来それ以上のフォーマットが主流になるとゴミになる
 このあたりで引っかかっている人も多そうだ。

 メーカーやレコード会社のさらなる努力に期待したい。

(2014年5月20日更新) 第45回に戻る 第47回に進む


【新刊「これだ!オーディオ術2 格闘編」8月3日発売!】
 8月、2冊目の単行本『これだ!オーディオ術2 格闘篇』(青弓社)を出すことになりました。5年前に出した初単行本では、「オーディオは、買い物で終わる趣味じゃない」を強くアピールし、「2009年まで、自分がオーディオとどう取り組んできたか」をレポートしましたが、その基本線は変わらぬものの、今回は
 ○ アナログ再生にどう取り組んできたか
 ○ 少しでもアナログに近い音を再生するため、何をしてきたか
について書いています。
要するに、この5年間何をやってきたかのドキュメンタリーですね。
 ○ 格安アナログプレーヤー活用法
 ○ PCオーディオとの出会い
 ○ 英語にもパソコンにも弱い人間が、ネットワーク・プレーヤーの初期設定にチャレンジ
など、前著より皆さまのお役に立てる内容が多いのではと思います。
 あと、オーディオ誌でない媒体に書いたアクセサリー記事等も転載。読み物としても、実用書としても通用する内容を目指しました。まずは書店で手に取ってみてください。(村井) 
村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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