コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第47回/寺島靖国さんのこと [鈴木裕]  






 『オーディオって音楽だ!』の、記念すべきNo.100のゲストとして寺島靖国さんをお迎えした。その後記というか雑感というか、ちょっと寺島さんのことを書いてみたい。
 まず、この世代(1938年生まれ。ひとくくりにしにくいジェネレーションではあるが)に共通して感じるダンディさがあり、おしゃれで、オリジナリティの高い路線を持っている点は寺島さんにも共通している。いろいろとパブリック・イメージがあるかもしれないが実際に会って見ると自分をことさら大きく見せたりすることなく、きれいごとも言わず、周囲やメディアの先にいるファンを楽しませるサービス精神にあふれている。

 今回、寺島さんの新しい著作である『俺のオーディオ』をネタにいろいろと話をしていったが、この本、相当におもしろい。たとえば番組でも引用させてもらったがこんな一節がある。
「メーカーの作ったアンプやスピーカーをそのメーカーの人の意図通りの音に再生するのが「正しい」オーディオと信じる人がいる。マッキンならマッキンらしく。JBLならJBL通りに。
それもよかろう。でもそれではメーカーに負けることになる。」(16ページ)

 負ける、という言い方がちょっと刺激的だがたしかにこれ言い得て妙だ。たとえば音の方向性を東西南北で表してみると、自分の好きな音が「南南西」の音だったとする。Aというメーカーのある音が「南」であればたしかに自分の好きな音には近い。しかしやはり自分の好きな音そのものではない。「南」を「南南西」に鳴らさないと俺のオーディオにはならない。これを妥協してしまうとオーディオは面白くない。番組でもしゃべったが、メーカーとかショップのショールームのような音を出していても仕方ない。いやもちろんショールームのような音が自分のどストライクというのだったら何の問題もないのだが。


寺島靖国(左)さんを迎えて。
オンエアは5月29日(122ch)、6月1日(124ch)。

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『俺のオーディオ』発売中!


これまで誰も試そうとしなかったアレやコレ!うまくいったと鼻息荒く、隣の芝生を横目でチラ見・・・ジャズとオーディオに命を捧げた男の、創意と悶絶の記録!(河出書房新社

 さらに勝ち負けについての文脈から引用するとこんな文章も出てくる。
「この頃、オーディオとは競争と思うようになった。あいつよりいい音を出してやろう。彼にだけは絶対に負けたくない。なんとかして彼奴の鼻をあかしてやろう。」(94ページ)
 念のために言っておくが、鈴木裕はこういう感覚はない。うちの音のが芳しくないなぁ、とは時に感じてはいるが、勝ったと思ったことは一度もない。あくまで自分の問題であり、自分の満足感とか到達している度合いとしてやっている。このあたり、レース経験者なので、ハードとしてのマシンとオーディオというのは同じように捉えているものの、ひとつのレギュレーションの中でのタイムとか順位を争うレースと、音楽を楽しむオーディオとの差が歴然とあるのを自覚する。そもそもオーディオにも音楽にもゴールはないのだから決着もつかない。話が逸れたが、なにしろ寺島さんは勝ちたいのだ。寺島さんは勝ちたいが自分は勝ちたいわけじゃない。そういうふうに、俺のオーディオはこうだけどあんたのオーディオはどうなんだい?と、執拗に問いかけてくるようなところがあるのが『俺のオーディオ』という本の特徴のひとつであり、寺島さんという存在なのだ。

 この一節も凄い。
「いつも言うようにオーディオに正解というものはなく、やってみなければ分からない一寸先は闇のホビーで、しかも言葉はよくないが食傷するアートであるということ。
食傷しなければいけない。そうしないと次がない。次なる発展を常に求めるのがオーディオというものではないのか。」(47ページ)
 散々やってこないと、そしてもちろん闇にはまらないと出てこないし、普通だったら完成形に見える素晴らしい音にさえしばらくすると食傷してしまう寺島さんの本音が吐露されている。僕自身は「愛憎」という言葉を使うが、好きなことを徹底的にやっていて、そのことばかりを考えているとある段階でもう頭の中が飽和するというか、憎たらしくなってくる。アンビバレンツというか、好きだけど嫌いという感情だ。寺島さんにとってはそれが「食傷」という言葉なのだろう。ここはちょっと共感できるかもしれない。





うちのK-03に装着したノードストのソートフット。
本来はスピーカーやラックの脚部にねじ込んで使用するインシュレーターだ。アルミニウムとブロンズのハイブリッド素材の本体と 3 個のセラミックボールを使った共振制御デバイスとメーカーでは説明している。
うちでは背景が静かになりながら音楽のダイナミズムや、特に低音のヴァイタリティを画期的に向上させ、音楽がさらに大きく血湧き肉踊るようになった。
最低域のレンジが画然と広がり、グランカッサのドシーンという空気のゆらいでいるようなニュアンスが出るようになったのも凄いとしか言いようがない。
ちなみにマットブラックなのも実に好み(笑)

 しゃべっていて、あれっと思ったのはムッシュかまやつさんの名前を出した時だ。かつて所属していたザ・スパイダースの名前も出したが寺島さんは知らなかった。つまり、寺島さん、テレビ番組というものをほとんど見てきていないのだと思った。じゃ、何をしてきたのか。もちろん、ジャズとオーディオである。知らないということが、逆に寺島さんが本物であることを証明しているようにも思った。

 あんまり誉めると寺島さんへの弔辞のようなのでこのあたりで終わりにしておくが、更なる新境地に到達して、その成果を文章で、あるいはミュージックバードの番組で伝えていっていただきたい。寺島さんにはあまり「いい人」にならず、奔放に進み続けてもらいたいのだ。ま、僕が言わなくても進み続けるでしょうが。

蛇足。
 収録が終わって雑談している時に、こんな会話をした。
「寺島さん、使っているデジタルプレーヤーのトランスポートってエソテリックのP-02ですよね?」
「そうです」
「うちのプレーヤーは同じエソテリックのK-03なんですが、先日、雑誌の取材で脚をノードストのソートフットに換えてみたら大変なことになってしまって。それで結局購入しちゃいました。低音の底が見えます。血湧き肉踊ります。P-02とK-03のボディやメカドライブの造りはかなり近いし、寺島さんもきっと好きな方向だと思いますよ」
 あのあと、どうしたのだろうか。

(2014年5月30日更新) 第46回に戻る 第48回に進む 

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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