コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第48回/40年前の新品同様デッドストックに遭遇して感極まった5月 [田中伊佐資]


武田清一さんのお店「Sings」

●5月×日/「ターンテーブルの夜」のパーソナリティで知られる武田清一さんの自宅に行く。自分の店、「Sings」の延長線上にある音だと思っていたらまるで違う。JBLのK2 S9800が力いっぱい咆哮していた。プライベートでも武田さんは、やわらかい音を聴かせるヴォーカル専門店のマスターではなかった。さすがに元ミュージシャン、元バンドマンだ。なんでもスタジオの音で耳ができあがったそうで、モニター的なサウンドが好きなのかもしれない。
「レコードは大好きだけど、レコード・コレクターではない」というわりには唐突に紙おしぼりが出てきて、レコードやジャケットを触るときはちゃんと手を拭かねばならないのだなと思う。「これをあんまり強要する変質系だと思われるけどね」と笑っていた。
 ぼくは「部屋のゴミ箱にはおびただしい量のおしぼりが捨ててあった。武田さんは一日に何回手を拭くのだろう」というような感じで雑誌にオーディオ訪問記を書くときは捏造させてくれと頼むと、本気にされるからやめてくれと断られた。

●5月×日/武蔵小山のジャズ喫茶「fatmama」に取材。ここはレコードをリクエストするときにお客さんが棚から好きに抜いてマスターに渡す。ジャズ喫茶にとってレコードはかけがえのない財産なので、全国でもこれはありえない。なかにも手荒な人や手がきれいでない人もいるだろうから、このやり方は武田さんにしてみれば、気を失うほどぞっとするにちがいない。
 プレーヤーはガラード401でJBL4343が鳴っていた。店のフロアは完全にL字型で、入り口入ってすぐはウナギの寝床のように見え、角を左に曲がってスピーカーと対面する。その界隈がジャズをガッツリ聴くスペースだ。


店内がL字型のジャズ喫茶「fatmama」

自作の仮想アース装置

●5月×日/アナログ・プレーヤーのアース線聴き比べに続いて、仮想アース装置を製作。オヤイデが輸入しているエントレック社の「テルス」と「シルバーテルス」という仮想アース装置がよく効いたことから、よしいっちょ作ってみるかということが発端となった。ネットで見ると炭と銅板で作っているひとがいた。
 そこでまずは通販で洗浄済みの「最高級土佐の備長炭5kg」を買う。バーベキュー用の廉価品ではなくちゃんとしたもののほうが絶対に音がいいはず。
 次にホームセンターで銅板を入手。純度の高い銅板が欲しかったが見つからなかった。備長炭の周囲に銅板を配置させてアース線をつなげてできあがり 。
 よくわからんが、それらを入れる容器がまた大事だと判明。当初インテリアにもなるような見栄えのいい陶器にしていたが、エントレックにちなんで木製にしたら、そちらがよかった。採用されたのは、サワラでできた湯桶。部屋の置くとなかなか奇妙な雰囲気になる。

●5月×日/アトリエJe-teeで、RCA社の直径16インチ・プラッターのプレーヤーを聴く。16インチは換算すると40cm強。これはでかい。LPが小さく見える。音の余裕と安定感が絶大。この世界は自分としては有りだが、置くところが無し。

●5月×日/埼玉県に住む竹澤裕信さんのオーディオ・コレクションを観覧。特にパイオニアの高級ブランド、エクスクルーシブ製品は、パイオニア本社よりも所有している。つまり世界一ということになる。別部屋にあるヴィンテージ・オーディオもまさにミュージアム状態だった。JBLやアルテックなどの名だたる名機が部屋の壁沿いにぐるりと置いてある。壮観。

 最も胸を打たれたのは、コーラルの20cmスピーカー・ユニットFLAT-8がほぼ新品のデッドストックで置いてあったこと。しかもきれいな元箱までもある。
 これは中学二年のとき、秋葉原に行って初めて買ったユニットで、夏休みに汗をふきふきエンクロージュアを作った。しかし仕上がりはきたないし、設計が悪いのか音はいまいちであまり使えなかった。だが撤去することはしなかった。実はバスレフポートの穴を利用してエロい雑誌を隠すのにちょうどよかった。
 当時全盛だったFM 誌のひとつ、FMレコパルで「音を出す以外のスピーカー活用法」という懸賞アンケートがあって、そのことを書いたら見事当選した。確かレコード券3000円が送られてきた。その券でどんなLPを手に入れたかは忘れた。

(2014年6月10日更新) 第47回に戻る 第49回に進む

竹澤裕信さんが持っていたコーラルのFLAT-8。
デッドストック状態
田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。ジャズとその周辺音楽を聴きながら、オーディオ・チューニングにひたすら没頭中 。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」がある。

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