コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第66回/長野に出かけて、世界初の画期的スピーカーとオレンジ色に染まる八ヶ岳に遭遇した11月 [田中伊佐資]
茅野市にあるウッドウイルの試聴室 |
●11月×日/音ミゾにも出演していただいた写真家の蓮井幹生さんに、長野の茅野にあるセカンド・ハウスへ招いてもらう。週末に思い立つと、
ここで自家焙煎のコーヒーを飲みながらジャズに向き合っている時間が多いという。コーヒーは趣味の領域を脱しているし(店を構える場所を探している)、ジャズにもオーディオにも打ち込んでいるそうなので、ずっと行きたいと思っていた。茅野といえば、ぼくのスピーカーを作ってもらったウッドウイルの柴田喜美雄さんもいるので(ちなみに柴田さんも音ミゾ出演者)、まずは久しぶりに工房へ寄ってみる。
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日立が作った往年の名スピーカーHS-500で、その方式(Mechanical Ground Earth of Speaker Unit、略してMGES=エムゲスという)の有り無しを比べてみた。いまでもHS-500は十分にいい音だが、エムゲスにしたモデルにすると水を得た魚にように、いっそうスピーカーが歌いだした。これは、エンクロージュアの不要振動が音を不鮮明にすることを実感させる体験だった。
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蓮井幹生さんのドームハウスでジャズを聴く |
綾戸智恵のレコードがかかる。ソファに座ると向こうに広い眺望が広がり、八ヶ岳の峰々が見える。夕日を浴びてゆっくりと少しずつオレンジ色に染まってくる。そこで流れてくる歌声が、全身にジュワッと染み込み、よくわからないが激しく感動した。
高田馬場にあるジャズ喫茶「マイルストーン」 ブーガルー・ジョー・ジョーンズの『ブーガルー・ジョー』 |
ぼくは綾戸智恵をまったく好きではない。しかし八ヶ岳の絶景、薪ストーブで暖められたドームハウスの空気、
芳潤な香りに満ちためっちゃ美味なコーヒー、蓮井さんが手塩にかけたオーディオなどさまざまな要素によって、心のなかで音楽が響い
た。よい音楽を聴くためには、オーディオがどうだ部屋がどうだではなく、心のコンディションをいかに整えられるかどうかが肝要、そんなことをじんわり考えさせられた初冬の出来事だった。 |
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