コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第68回/音の好みと味の好み [鈴木裕]  






 以前から、味覚と聴覚には関連があると思ってきた。たとえば、ワインを飲んだ時に、「高域の酸味が強い」などとそのワインの味を表現したり、時々使うのは、音についての印象を「よく煮込んだビーフストガノフのような」という言い方をしたりもする。あるいは、味にこだわらない人は音にもこだわらないとか、ラーメンばっかり食べてる人は何かの特定のサウンドに強いこだわりをもつがその他の料理や音楽には頓着しない、といったようにも感じている。なんらかの共通している部分があるのだろう。
 秋に、ちょっと面白い体験をしたので、ここに書いておきたい。

 ある出版社で、オーディオ評論家やオーディオライターと編集者が集まる用事があった。今回、なるべく人物や出版社が特定できないように書く必要があるのでご了承願いたい。で、その用事がおわった後、編集部を後にしてランチを食べに行った。全部で5名。行き先はハンバーグステーキをメインとする店である。ちなみに鈴木裕が仕事をしている出版社は神楽坂か秋葉原か麻布・六本木にあるのだが、このいずれにもこうした店は存在する。ここで、5名が何を頼み、食べたか。これが非常に興味深かった。




 ”食”と”音”の好みは同じ?

 まず編集者とオーディオライターのAさん。この二人は、こういう書き方をしてちょっと失礼だが、音の好みは素直であり、ストレートであり、いい意味で普通と言うか、多くの人が共感できる音を良しとしているように思う。いっしょに音を聴いたり、いろんな機会に話をしたり、たとえば採点をする時にたびたび感じるところだ。鈴木裕としてもこの二人の良しとする音の傾向は充分肯定できるし、納得できる。この二人がハンバースステーキ店で選んだメニューがその店の定番のデミグラスソースのハンバーグステーキ。そして炭水化物はゴハンとパンと選べる中から、白いゴハンを選んだ。さすがど真ん中である。こだわりがないようでいて、強いこだわりも感じさせる。

 続いてオーディオ評論家のBさんと鈴木裕。自分のことなので書きにくいが、スタンダードな音の良さも理解しているし評価するが、結局個人的に好きな本当の音の好みとしては音のコクとか、生々しさとか、どっぷりとした感じを求める方向性である。音楽の魅力を濃厚に味わいたいタイプだ。よく言えばこだわりが強いというか。この二人が選んだのが同じくデミグラスソースのハンバーグステーキ。そして炭水化物はゴハンなのだが、五穀米も選ぶことができて、奇しくもBさんと鈴木裕はこの五穀米を選択している。示し合わせてもいないし、影響も受けていない。そもそもそういう人間性なのである。この時点ですでに「なるほどなぁ」とちょっと思っていたのだ。

 問題は、と言うか、この話をさらに盛り上げていただいたのがもう一人のオーディオ評論家のCさんだ。こんなことを書いて大変失礼なのだが、Cさんの音の好みがどうも良くわからない。付き合いも短くないし、人間的には好きである。ただし、自分にはCさんの音の評価軸がいまひとつピンと来ていないのだ。もちろんテキトーなわけではなく、おぼろながらこういう音なのかなというのはたしかにあるし、ブレているわけでもない。ただ、客観的に言って、鈴木裕の音の好みと70度くらいズレている感じと言ったらいいだろうか。もちろんこういう違う感性を持った方も必要だ。編集部でもそういうことを前提として仕事を依頼しているのだろう。そのCさんが選択したのは、和風ハンバーグステーキだった。なるほど、さっぱりしたいのかなと。大根おろしとかシソの葉っぱが乗っているやつだ。これはわかる。自分も気分によってはそういう選択をすると思う。問題は炭水化物である。 
 和風ハンバーグステーキなのに、Cさん、選択したのはパンだ。
 「和風でパンですか」と頭の中では思ったが、もちろん口には出さなかった。その組合せは自分としてはないと思ったが、否定しているわけではけっしてない。アンパンのような、西洋と東洋の素晴らしいハイブリッドメニューもあることだし。

 いやしかしさすがCさんである。 音と味覚、やはり何か関係がありそうだ。

(2014年12月29日更新) 第67回に戻る 第69回に進む 

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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