コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第68回/音の好みと味の好み [鈴木裕]
以前から、味覚と聴覚には関連があると思ってきた。たとえば、ワインを飲んだ時に、「高域の酸味が強い」などとそのワインの味を表現したり、時々使うのは、音についての印象を「よく煮込んだビーフストガノフのような」という言い方をしたりもする。あるいは、味にこだわらない人は音にもこだわらないとか、ラーメンばっかり食べてる人は何かの特定のサウンドに強いこだわりをもつがその他の料理や音楽には頓着しない、といったようにも感じている。なんらかの共通している部分があるのだろう。 |
”食”と”音”の好みは同じ? |
まず編集者とオーディオライターのAさん。この二人は、こういう書き方をしてちょっと失礼だが、音の好みは素直であり、ストレートであり、いい意味で普通と言うか、多くの人が共感できる音を良しとしているように思う。いっしょに音を聴いたり、いろんな機会に話をしたり、たとえば採点をする時にたびたび感じるところだ。鈴木裕としてもこの二人の良しとする音の傾向は充分肯定できるし、納得できる。この二人がハンバースステーキ店で選んだメニューがその店の定番のデミグラスソースのハンバーグステーキ。そして炭水化物はゴハンとパンと選べる中から、白いゴハンを選んだ。さすがど真ん中である。こだわりがないようでいて、強いこだわりも感じさせる。
続いてオーディオ評論家のBさんと鈴木裕。自分のことなので書きにくいが、スタンダードな音の良さも理解しているし評価するが、結局個人的に好きな本当の音の好みとしては音のコクとか、生々しさとか、どっぷりとした感じを求める方向性である。音楽の魅力を濃厚に味わいたいタイプだ。よく言えばこだわりが強いというか。この二人が選んだのが同じくデミグラスソースのハンバーグステーキ。そして炭水化物はゴハンなのだが、五穀米も選ぶことができて、奇しくもBさんと鈴木裕はこの五穀米を選択している。示し合わせてもいないし、影響も受けていない。そもそもそういう人間性なのである。この時点ですでに「なるほどなぁ」とちょっと思っていたのだ。
問題は、と言うか、この話をさらに盛り上げていただいたのがもう一人のオーディオ評論家のCさんだ。こんなことを書いて大変失礼なのだが、Cさんの音の好みがどうも良くわからない。付き合いも短くないし、人間的には好きである。ただし、自分にはCさんの音の評価軸がいまひとつピンと来ていないのだ。もちろんテキトーなわけではなく、おぼろながらこういう音なのかなというのはたしかにあるし、ブレているわけでもない。ただ、客観的に言って、鈴木裕の音の好みと70度くらいズレている感じと言ったらいいだろうか。もちろんこういう違う感性を持った方も必要だ。編集部でもそういうことを前提として仕事を依頼しているのだろう。そのCさんが選択したのは、和風ハンバーグステーキだった。なるほど、さっぱりしたいのかなと。大根おろしとかシソの葉っぱが乗っているやつだ。これはわかる。自分も気分によってはそういう選択をすると思う。問題は炭水化物である。
和風ハンバーグステーキなのに、Cさん、選択したのはパンだ。
「和風でパンですか」と頭の中では思ったが、もちろん口には出さなかった。その組合せは自分としてはないと思ったが、否定しているわけではけっしてない。アンパンのような、西洋と東洋の素晴らしいハイブリッドメニューもあることだし。
いやしかしさすがCさんである。 音と味覚、やはり何か関係がありそうだ。
(2014年12月29日更新) 第67回に戻る 第69回に進む
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