コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第70回/フルムーン夫婦グリーンパスのおかげで [村井裕弥]
フルムーン夫婦グリーンパスという、お得なキップがある。夫婦の合計年齢88歳以上から使用可。「ななつ星in九州」や東北新幹線グランクラスなど一部例外はあるものの、日本中のJR特急グリーンの指定席乗り放題。数年前2万円くらい値上がりしたが、5日間用約8万円、7日間用約10万円、12日間用約13万円(もちろん2人分の値段)だから、すぐ元が取れる。これまで7日間用を2回使ったが、どちらも「日本一周」をテーマに北海道から九州まで駆け回った。正確な数字は覚えていないが、おおよそ8万円(当時)の出費で35万円以上は乗れているはずだ。 |
九州から東北まで、オーディオとグルメの旅!(写真は新青森駅にて) |
そこには「平成26年12月28日(日)~平成27年1月6日(火)の期間はご利用になれません」と書いてある。使えないのは28日から? ということは、27日まで使えるってことじゃないか!? 5日間用を買えば、23日朝から出発できるぞ!
かくして、22日深夜まで馬車馬のように働き、フルムーン夫婦グリーンパスと指定席特急券をゲット。旅のテーマはどうしよう。5日間用だから、「日本一周」はちょっと無理がある。よしっ! 今回はふだん会えない仲間たちとの交流だ。これで行こう(年の瀬に押し掛けられる彼らにしてみれば、えらく迷惑な話だろうが)。
23日朝一番のひかり501号(このキップ、のぞみは乗れないから)に乗って、一路西へ向かった。
「恵み家」の馬レバ刺し とタコ天 |
新大阪駅で、鹿児島中央行さくら551号に乗り換え(本当は大阪・神戸にも大勢仲間がいるのだが、今回は泣く泣くあきらめる)。九州新幹線の利用は初めてであったが、ウッディな内装はさすが林業王国・九州。こげ茶色っぽい仕上げも「いかにも大人の空間」というシックな印象。 |
西野さんからは、ジャズ喫茶「カフェ・ジャレット」にも行くよう言われていたが、若干酔っていたせいもあって、たどり着けず(薩摩街道を北上して、水道町の交差点を越えればよいだけだったのに…)。「フル・マッキントッシュで、JBLエヴェレストDD66000をガンガン鳴らしている」「LINNのネットワーク・プレーヤーKLIMAX DS/Kなどの使いこなしもなかなかのもの」と聞くから、次回はぜひ訪ねたい! |
「カフェ・ジャレット」店内(西野氏撮影) |
西野さんメイン・システムのごく一部 西野さんのシステム 現在の核はアキュフェーズとB&W |
西野さんとは2日目の朝、奇跡的に朝食を共にすることができた(彼は日本一早起きなオーディオ愛好家なのだ。夜明け前、愛犬そらと散歩するのが日課。そういえば、初めて顔を合わせたのも第1回フルムーン旅行における熊本駅前ホテル朝食であった)。 |
熊本駅からはさくら544号で折返し、広島市へ。サウンドデンが、ネットワーク・プレーヤーを開発中と聞いたので、開発途上の音をぜひ聴かせてもらいたいと数日前にお願いしておいたのだ。
サウンドデンといえば、 |
サウンドデン試聴室。 左2段目が実験中のネットワーク・プレーヤー |
それはもちろん大部分、藤本社長の技術力とセンスによるものなのだけれど、ASCの確認音源(生音を極力そのまま収録した究極のオーディオ・チェック用CD)のおかげも大きいと感じた。「どっちが好みか」ではなく、「どっちが録音現場で聴いた音に近いか」だから、即決が可能。
『土と水』『14YEARS AFTER』は言うに及ばず、そのあと収録された音源も、ぜひ全国の皆様に聴いていただきたい。いや、できたら。今後その収録に立ち会っていただきたい。
こだま542号で倉敷に移動したのちは、ウチのやつのリクエストで、ちょっと高級な藍染めジーンズ(倉敷の特産品)を探した。しかしホテルで教えられたお店は和物専門店で、「そういうものをお探しでしたら、児島というところまで行かなきゃいけないかもしれません」と言われ困惑。
「鬼の厨 しんすけ」 |
「児島って、近くなんですか?」 |
イカ刺しや塩辛をつまみに一杯やる内、オーディオ仲間・西庸介さんが到着。彼と話すのは2012年12月以来か。あのとき聴かせていただいたダイヤトーンDS-3000の音は、いまも忘れがたい(ボクは80年代からDS-3000が大好きだったのだ)。その後、JBL4343に乗り換えたと聞いたが、現状はいかに? |
西庸介さんがオーディオ・ライフ再開のためキープしている中古品の一部 |
松江城 ぐるっと松江「堀川めぐり」 岡山に来たら、やはりシャコだ! |
3日目は、倉敷からやくも3号で松江へ。岡山県の山中を通ると、「横溝正史作品で、金田一耕助が活躍した村はこの近く」「こっちは『男はつらいよ』第8作・第32作の舞台」とマニアックな名所が続く。 |
さあ、このあと東北へ大移動するのだが、その前に東京へちょっとだけ立ち寄る。この日19時から、九段下のアコースティックエンジニアリングで第15回オーディオフォーラムがあり、レギュラーコメンテーターを務めることになっていたからだ。
この夜は、「音のよい部屋とサブウーファーの使いこなし」についての実験がおこなわれた。レポートがこちらに載っているので、ぜひお読みいただきたい。ちなみに、ボクが書いた私的レポートは、ずうっと下のほうに載っている。
多くのオーディオ・イベントは、参加者の物欲をくすぐるためのものだが、オーディオフォーラムはちょっと趣向が異なる。主催者(アコースティックエンジニアリングの技術者たち・いずれもバリバリの理系人間)が自らの関心事をとことん追究したくて、実験をくり返す。そして、その結果出てきた事実が、自分たちに不利なことであっても、すべて公開し、参加者たちに問題を投げかけていく。こういうオーディオ・イベントも、中にはあるのだ。ぜひ一度のぞいていただきたい(毎月最終金曜の夜。要電話予約。最近すぐ満席になるようになったから、どうかお早めに)。
5日目は東京駅朝一番のはやぶさ61号で新青森へ。いや、そこには何の用もないのだ。しかし、東北新幹線が八戸から新青森まで延伸されたあと1度も乗っていないし、北海道まで延びたらたぶん下車しないだろうから、いまのうちに行くだけ行って、雪の中の記念写真を撮ってこようと思ったのだ。
はやぶさ号グリーンは、無料のソフトドリンクサービス付。グランクラス(最上級車両)はアルコールも無料なのだから驚くことはないが、無料コーヒーの味が及第点であったことは書きとめておく。
新青森駅で降りると、プラットホームでテレビカメラが待ち構えていた。がっかりされたのは、帰省客に見えなかったからだろう。彼らはおみやげを一杯持って、子どもたちをつれている絵を撮りたいのだ。そして、テレビ映えのするかわいいお子様たちに「早くおじいちゃんたちに会いたい」と言わせたいのだ。 |
盛岡駅からながめる岩手山 これが元祖盛岡じゃじゃ麺 「白龍」本店に飾られる スギちゃんのサイン |
「開運橋のジョニー」まだあいてない… |
麺を食べ終えたあとは、テーブル隅に積み上げてあるいかにもおいしそうな生卵を割って入れ、熱々のスープをかけてもらった。こうやって作るスープを、ここの人たちは「ちぃたんたん」と呼ぶ。いやぁ、ごちそうさまでした。超満席だったのだけれど、ストレス皆無だったのも稀有な体験。 |
5日間の旅を締めくくるのは、もちろん一ノ関「ベイシー」だ。入っていったら、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの名盤『Olympia Concert』が流れていた。1958年パリで収録されたライヴ。あの『モーニン』収録直後だから、正に絶頂期? |
旅のラストを締めくくった 一ノ関「ベイシー」 |
フルムーン夫婦グリーンパスのおかげで、いろんな方々に会うことができた。そのため、2014年がより充実したように感じられる。今年もいろんな方々にお会いしたいものだ。
(2015年1月21日更新) 第69回に戻る 第71回に進む
コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」バックナンバー