コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第71回/リファレンスシステムについて
~アキュフェーズの音 [鈴木裕]
オーディオ雑誌にはそれぞれにリファレンスシステムというものがある。 |
連載「STEREO試聴室 話題の新製品を聴く」。そのテスト環境のレベルが高い! |
リファレンスシステムの役割は「音の基準」である。安定してその音が出ていることが重要だ。この試聴室の基準の音はこれで、ある製品をそれに置き換えて、クォリティなり、音の方向性を正確に把握させる役目がある。その基準が壊れやすかったり、電源事情などで不安定な音になってしまっては芳しくない。リファレンスに求められる要件としては基本的に高いSN比や駆動力、音楽表現力、情報量を持っていてほしい。これらを総合するとなぜアキュフェーズがメインに使われているか。納得される方も多いと思う。
ただし、ちょっと問題だと思っているのはこの基準のレベルが高いことだ。音が良くて基本性能がきわめて高いのだ。もちろんこれはいいことなのだが「基準」としてはかなり高すぎると感じる場合もある。
たとえばパワーアンプ等の電源トランスの唸り。設計、製造段階でのクォリティの追求はもちろん、聴診器を使って検品していると言われるアキュフェーズは唸らないのが当たり前だ。そういうものを基準にすると、テスト対象の製品がちょっとでも低く唸ってしまうととても気になるのだ。静かなオーディオルームで聴いている方には必要な要素なので、たしかに唸らないことが求められてはいるのだが。
ボリュームのガリについても、少なくとも僕がオーディオ雑誌で仕事をするようになってアキュフェーズのプリやプリメインアンプのボリュームを操作して、ノイズが出たのを聴いたことがない。スムースに音量調節できるのがごくごく当たり前である。電子ボリューム(固定抵抗切り替え方)のスススーッといったわずかなノイズもない。
たとえばSACD/CDトランスポートDP-900、DAコンバーターDC-901の組合せ。オリジナルの超重量級・高剛性・高精度のSA-CDドライブであるとか、専用のDSPを使用したデジタルサーボだとか、ESS社の有名なDACデバイスES9018を左右チャンネルごとに2個使い、16回路並列駆動させるというMDS変換方式を取っているとか、そういったいい音を生み出す要件をいろいろと持っているわけだが、実際に聴きだすとそのオーディオ的情報量と、高級セダンに乗っているような聴き心地の良さを両立した音に感服する。深々とした、濃い情緒で音楽を再生してしまうので、仕事でオーディオをテストするためにまずリファレンスシステムを聴いているのに、実は毎回、その気持ち良さのために仕事をする気がなくなってしまうほどだ。
結果として100万円を越える製品のDAC部の音よりも、DP-550からの音の方が余裕とか成熟を感じさせるもので、音の鮮度感としてヒケを取っていなかった。平たく言って、いい音なのである。これは雑誌にも書いたことがあるが、USB DACの歴史とデジタルプレーヤーの歴史では長さが違い、その音の習熟度も違う。その差もたしかにあったとは思うが。複雑な気持ちになったものだ。
高い基準(リファレンス)を持ったテスト環境について書いてみた。アキュフェーズの製品が売れているのもきちんとした裏付けとか実力があってのことだと、リファレンスとして聴く度に感じる。また、これはあまり知られていないようなので最後に記しておきたいが、テストしてボツにする製品もある。商業誌はいつもいいことしか書かないではないかという人もいるが、そんなにテキトーなものではないということだけは言わせていただきたい。
(2015年1月30日更新) 第70回に戻る 第72回に進む
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