コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第72回/大滝詠一のカセット・テープを聴いて、ちょっぴり胸キュンになった1月 [田中伊佐資]

●1月×日/恒例となっている「ジャズ批評」の「ジャズオーディオ・ディスク大賞」選考会が「メグ」で開かれる。 各選考委員がノミネートした作品を並べ、それを聴きまくり採点するという会だが、 過去8年間の金賞・銀賞はほぼすべてピアノ・トリオが受賞している。まるでピアノ・トリオ愛好会主催みたいで、 なんだかなあという気分は山盛りにあり、いい加減その風習を終わらせたいと切望している (つまりぼくは逆の意味で偏向がある採点をしている)。しかし、その空気は変わらないのでたぶん今年も同じことになるのだろう。
 ただ、この結果はどこからか圧力があるとか誰かの意向とかではないので、これはこれでぼくはアンチ巨人の ようにアンチ・ピアノ・トリオの立場を楽しんで参加しているのである。

●1月×日/去年の暮れに手に入れたRCA70Aは、なにせ戦前のプレーヤーなので、 メカ部分以外の細かいところを見るとだいぶ劣化が進んでいる。特におやおやと思ったのがACプラグのへたり。 カバーが取れて電極がひどく露出している。そこでプラグを替えようと思ったが、どうせならとケーブルごと丸々替えることにする。たまたま手元にあったオヤイデの2.0mm単線FF-20AETのプラグPSE-018Gを組み合わせ装着。
 例によって信じがたいことだが、新しい電源ケーブルによって、そのまま新しい音になった。ドカンと出るのは変わらずで、 よりがっちり締まった。古い機材にありがちな甘さ・緩みがオリジナルにはあったことを確認。ロリンズの『 コンテンポラリー・リーダース』『サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン』などモノラル盤を聴くがセンターの立ち姿がより凜々しくなる。推定年齢75歳のマシンでも電源にはリニアに反応することがわかっておもしろい。  


オヤイデの単線とAETのプラグで作った電源ケーブル


フランク・シナトラ「In the Wee Small Hours」

(左から)澤村信、牧野茂雄、田中伊佐資
(2月21日・28日オンエア)



大滝詠一「A Long Vacation」

 特にシナトラの『イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ』を聴いてみて、こんなにシナトラっていいんだと実は初めて、 この大スターの大スターたる所以を知る。

●1月×日/音ミゾのゲストは「ステレオ時代」編集長の澤村信さんと雑誌のメインライターである牧野茂雄さん。 澤村さんは、何百万円もするスピーカーやアンプが大手を振るここ十数年のオーディオ界に違和感を持ち、 自分たちが学生時代にごく普通に楽しんでいた10万円以下のコンポに着目、80年代オーディオをメインに記事を作っている。 これは商業誌としてはけっこうしんどい話で、広告収入に依存していないこと意味している。ただ、この企画に反応する読者も多く、相当売れているらしい。当時の製品はメーカーに残っていないので「探しだして買っている」というのもすごい。
 参謀の牧野さんはカセット・テープ愛が強く、ナカミチのデッキZX-7をスタジオに持ち込んでくれた(各社40台も持っているとのこと)。この音はまったく侮れなかった。カセットがこのまま無くなってしまうのはあまりにも惜しい。
 ぼくは80年代に隆盛を誇った「貸しレコード屋」世代で、毎週毎週せっせとレコードを借りてはカセットに録音していた。 それが自分を取り巻く音楽のすべてだった。カセットがなかったらこの仕事に就いていなかったかもしれない。
 澤村さんが持参した大滝詠一のレアな市販カセット『ア・ロング・バケイション』から「恋するカレン」をオンエア。 これは、CDでもLPでもなく、録音したカセットをカーステで身体に染み込むほど繰り返し聴いたくちなので、すっかり胸キュン(これも80年代用語)になってしまった。ロンバケはハイレゾではなくてカセットの音が最もしっくりくる。

●1月×日/「diskunion JazzTOKYO」生島昇店長の自宅を取材(オーディオ・アクセサリー)。 生島さんとは音ミゾのゲストとして出てもらって以来、仕事のような遊びのような付き合いが続いているが、 かなり音にもこだわっている様子なので、遂に自宅を訪問することができた。
 「音を一番支配しているのはレコード。その次に音に影響を与えているのは部屋。次にアクセサリー。 3つ揃えば装置はなんでもいいんじゃないかと思ったりする」というオーディオ論を持っていて、それを支持しないこともないが、完全に認めてしまうとぼくの商売はあがったりなのだ。

(2015年2月12日更新) 第71回に戻る 第73回に進む


エクスクルーシヴのスピーカー2252を中心とした生島さんのシステム
田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「オーディオ風土記」(DU BOOKS)「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」(SPACE SHOWER BOOKS)がある。

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