コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第74回/エソテリックK-03とK-03Xのこと。 [鈴木裕]
うちのSACD/CDプレーヤーを買い換えた。今まで使ってきたのがK-03。新しく購入したのがK-03X。型番で言うとXがついただけだし、外観はあまり変わっていない。「マイナーチェンジなのに買い換えたんですか」と訊かれそうだ。それについてまとめて書いておきたい。 |
うちのK-03X |
K-03X(上)とK-03(下) K-03Xの底板 |
いま、K-03もK-03Xも同じメカを搭載していると書いたが、実はこのふたつのモデルが共通なのは基本的にこの心臓部であるメカと、そしてボディだけなのだ。DAC部もアンプ部もかなり大幅に刷新されている。このあたりのことはエソテリックのオフィシャルのウェブサイトや雑誌などを読んでもらうとして、あまり書かれていない点をひとつだけ記しておくと、ボディにおける「スリット」の存在だ。K-01Xも同じ仕様になっているが、ボディ、というかシャーシーとパックパネルも進化しているのだ。 |
その音の傾向について書いておこう。K-03とK-03Xの音の違いだ。
基本的な方向性、端正でアキュレートな表現は変わらない。K-01の、力強く押しの強い低域で、濃厚な世界を描く方向性が、K-01Xになってより端正な方向でのクォリティを追求、いわば若干の路線変更があったのに対して、K-03からK-03Xはキープコンセプトなのだ。ただし、音のキメの細かさ、しなやかさといったトーンの部分では2ランク以上良くなり、なおかつ彫りの深さ、音の表現力、演奏を印象深く伝えてくれる訴求力といった部分がずいぶん上がったように感じている。また、スピーカーからの音離れがさらに良くなり、スピーカーの存在をまったく無視するように、敢然と音像が定位しているさまはちょっと異様でもある。こういう書き方をするとふだんは編集者から「この表現はちょっと」と言われてしまうのだが、音像も音色的にも生々しすぎて薄気味悪い時がある。ちなみに、キメの細かさといった部分はDAC部の要素。音の表現力といった部分はバッファーアンプ部の役割が大きいんじゃないだろうか。スリットの役割は、ある種の解放感みたいなものをもたらしているのか。あるいは、慣らしを早めるような効果も持っているのではないかと想像しているのだが、あくまで直感的な推測だ。
と、ここまでは試聴室で聴いた印象。うちでの話をすると、新入りのK-03Xはまだ全開では鳴りきっていない印象だ。少なくともうちの場合、K-03は導入して2年半の経過の中で相当に音が良くなった。メカ部のフリクションロスが減少したのか、DAC部、アンプ部の熟成が進んだのかCDもSACDもとても良く鳴るようになった。さらに昨年、脚を純正のスパイク/スパイク受け一体型のものからノードストのソート・フットに交換してより背景が静かで、重心の低い、濃い表現を獲得。買い換えておいて言うのもなんだが、K-03にはまったく不満を感じていなかった。しかし、仕事でK-03Xを5回も聴いて、なおかつさいごはK-03とK-03Xをガチンコで聴き合わせるような取材をする立場になって、その違いを見せつけられた。もちろんその取材の現場でも観念したし、うちで原稿を書きながら自分自身を説得しているような内容に屈伏したのだった。
話を元に戻すと、K-03の音が導入後どんどん良くなったように、K-03Xも音が育っていくことを期待している。脚は一回も鳴らさないうちに純正のものからソート・フットに交換。電源ケーブルはとりあえずMITのマグナムACⅡという、パワーアンプ用のパワーケーブルを使っている。率直に言って、鳴らしだしてまだ一週間程度のK-03Xの低音は、先日まで活躍してくれていたK-03の低音には負けている。全体の色彩感や音の彫りといった部分でもまだまだ向上していきそうだ。
ちなみに2月の終わりにうちに聴きにいらっしゃった寺島靖国さんは「シンバルの分厚さが良く出てる」といった感想を漏らしていったのだった。
(2015年2月27日更新) 第73回に戻る 第75回に進む
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