コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第74回/エソテリックK-03とK-03Xのこと。 [鈴木裕]  





 うちのSACD/CDプレーヤーを買い換えた。今まで使ってきたのがK-03。新しく購入したのがK-03X。型番で言うとXがついただけだし、外観はあまり変わっていない。「マイナーチェンジなのに買い換えたんですか」と訊かれそうだ。それについてまとめて書いておきたい。

 エソテリックの試聴室にいくと、SACDやCDをそこにセットして読み取るメカのひとつであるVRDS-NEOがゴロンと置いてある。これがもう重量級の剛直さだ。K-03とK-03XもVRDS-NEO一族の次男、型番で言うとVMK-3.5-10を搭載している。メカユニット単体で4.4kg、リジッドベース含め11.2kgという重さを挙げると少しはその異常な存在感が伝わるかもしれない。その造りや金属のマッシブなたたずまいはメカ好きには堪らないオブジェと言っていい。ちなみにまったく余談ではあるが、CHプレシジョンやソーリューションのデジタルプレーヤーにOEM供給しているメカドライブは、K-05K-05Xに搭載されているVMK 5で、その上位にあたるK-03XのVMK-3.5-10や、さらにその上位であるVMK-3.5-20S (K-01X、P-02、グランディオーソP1等に搭載)は門外不出である。




 うちのK-03X



K-03X(上)とK-03(下)



K-03Xの底板

 いま、K-03もK-03Xも同じメカを搭載していると書いたが、実はこのふたつのモデルが共通なのは基本的にこの心臓部であるメカと、そしてボディだけなのだ。DAC部もアンプ部もかなり大幅に刷新されている。このあたりのことはエソテリックのオフィシャルのウェブサイトや雑誌などを読んでもらうとして、あまり書かれていない点をひとつだけ記しておくと、ボディにおける「スリット」の存在だ。K-01Xも同じ仕様になっているが、ボディ、というかシャーシーとパックパネルも進化しているのだ。
 基本的な話だが、スリットとは「切れ目」や「隙間」のことである。
 まずわかりやすいのはバックパネルにある、アナログ出力のバランスとアンバランス端子の間に設けられたスリットだ。写真で見ると、キャノンの受けとRCA端子の間に細めの線が見えるがこれがスリットだ。
 そして実は底面の、クルマで言えばフロアパンの部分にも大胆なスリットが入っている。今回は自分で撮影したものを使っているが、なかなか写真に写りにくい。エソテリックの説明によれば、メカドライブ部とエレクトロニクスが載るところを分けるような形になっているそうだが、完全に分けているわけではない。3本の脚の部分ではスリットが終わっている。なかなか、いや、かなり興味深いチューニングの仕方である。アルミパネルの厚みを増やし、精度を向上させ、剛性高く頑丈に剛直に構成してきたボディでありシャーシーなのに、あえてスリットを入れて、応力なのか振動なのか、はたまたこちらの想像していないような何かを逃がす構造にチューニングしているわけだから。

 ちなみに、2015年2月現在手に入るカタログの写真ではこのスリットは認められない。つまり、カタログ撮影が終わった後の、最終的な詰めの段階で決められた仕様のようだ。なぜ、スリットを設けたかと言うと、それはやはりK-03Xの、そしてその上位モデルであるK-01Xの音にとって必要な要素だった。そう考えるのが普通である。大きさや位置から言って放熱のためではなく、もとよりフィーチャーのためのフィーチャーではないだろう。その方が音がいいから。それ以外の何ものでもないと思う。オーディオってそんなもんだ。さいごは理屈じゃない。

 その音の傾向について書いておこう。K-03とK-03Xの音の違いだ。
 基本的な方向性、端正でアキュレートな表現は変わらない。K-01の、力強く押しの強い低域で、濃厚な世界を描く方向性が、K-01Xになってより端正な方向でのクォリティを追求、いわば若干の路線変更があったのに対して、K-03からK-03Xはキープコンセプトなのだ。ただし、音のキメの細かさ、しなやかさといったトーンの部分では2ランク以上良くなり、なおかつ彫りの深さ、音の表現力、演奏を印象深く伝えてくれる訴求力といった部分がずいぶん上がったように感じている。また、スピーカーからの音離れがさらに良くなり、スピーカーの存在をまったく無視するように、敢然と音像が定位しているさまはちょっと異様でもある。こういう書き方をするとふだんは編集者から「この表現はちょっと」と言われてしまうのだが、音像も音色的にも生々しすぎて薄気味悪い時がある。ちなみに、キメの細かさといった部分はDAC部の要素。音の表現力といった部分はバッファーアンプ部の役割が大きいんじゃないだろうか。スリットの役割は、ある種の解放感みたいなものをもたらしているのか。あるいは、慣らしを早めるような効果も持っているのではないかと想像しているのだが、あくまで直感的な推測だ。

 と、ここまでは試聴室で聴いた印象。うちでの話をすると、新入りのK-03Xはまだ全開では鳴りきっていない印象だ。少なくともうちの場合、K-03は導入して2年半の経過の中で相当に音が良くなった。メカ部のフリクションロスが減少したのか、DAC部、アンプ部の熟成が進んだのかCDもSACDもとても良く鳴るようになった。さらに昨年、脚を純正のスパイク/スパイク受け一体型のものからノードストのソート・フットに交換してより背景が静かで、重心の低い、濃い表現を獲得。買い換えておいて言うのもなんだが、K-03にはまったく不満を感じていなかった。しかし、仕事でK-03Xを5回も聴いて、なおかつさいごはK-03とK-03Xをガチンコで聴き合わせるような取材をする立場になって、その違いを見せつけられた。もちろんその取材の現場でも観念したし、うちで原稿を書きながら自分自身を説得しているような内容に屈伏したのだった。

 話を元に戻すと、K-03の音が導入後どんどん良くなったように、K-03Xも音が育っていくことを期待している。脚は一回も鳴らさないうちに純正のものからソート・フットに交換。電源ケーブルはとりあえずMITのマグナムACⅡという、パワーアンプ用のパワーケーブルを使っている。率直に言って、鳴らしだしてまだ一週間程度のK-03Xの低音は、先日まで活躍してくれていたK-03の低音には負けている。全体の色彩感や音の彫りといった部分でもまだまだ向上していきそうだ。

 ちなみに2月の終わりにうちに聴きにいらっしゃった寺島靖国さんは「シンバルの分厚さが良く出てる」といった感想を漏らしていったのだった。

(2015年2月27日更新) 第73回に戻る 第75回に進む

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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