コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第75回/誰も彼もがみんなモノラル派で不思議な気分になった2月 [田中伊佐資]






●2月×日/ぼくが買ったRCAのプレーヤー70Aは昨春、アメリカから同時に3台輸入された。兄弟ともいえるほか2台はどう使われているのか興味深く、オーナーに会うために一路関西へ向かう。なんと2人とも示し合わせたわけでもないのに、スピーカー1個でモノラル盤を聴く純モノラル派だった。
 奈良の井森誠憲さんは「モノラルは塊でストレートに来る」と言っていて、同軸のジェンセンG600でヴォーカルを聴かせてもらう。まったく知らなかった『ミート・ジュリー・ウィルソン』にはしびれた。ビリー・ホリデイ・ミーツ・吉田日出子みたいな歌声で、すぐに購入。こういうレコードは一生の宝です。
 大阪・天満橋の「R・J CAFE」はジャズ喫茶ではなくオシャレなカフェだが、オーナー小森義浩さんの趣味でヴィンテージ装置とジャズのオリジナル盤が置いてある。「ブワッと出て来るロリンズの息」を体験して以来、モノラルの世界に突入。ペッパーの『モダン・アート』、同じくペッパーをフィーチャーしたマーティ・ペイチ盤をオリジで体験。どちらもさすが、1枚ウン十万円の価値はあり。この色艶は紛れもなくオリジナルじゃないと出ない。
 となると3兄弟の一つを持っているぼくもそのうちモノラルにハマり、スピーカー1本になるのだろうか。

●2月×日/蒲田の西川純一さんの家へ(アナログ誌の取材)。ここはロック・オリジナル盤の宝庫。しかもマトリクス違いもたくさんあって『狂気』は10枚くらいが束になって並んでいた。
 そしてここにもモノラル盤があった。アメリカではモノラルのAM放送に合わせて「DJ MONO」という盤がプレスされていた時代があった。ステレオ録音の作品も、わざわざモノ・ミックスにしていて、ラジオのリスナーに違和感がないよう配慮していた。アメリカのラジオ文化は底が深い。もちろん「DJ MONO」は一般には売られておらず、ごく一部が流通されているにすぎない。
 EL&Pの『タルカス』を聴く。オーディオ的にはハイファイではないのだが、これもゴジラの放射能火炎がセンターから噴き出してくるようなロック・スピリットに満ちていた。

 



井森さんの家で聴かせてもらった『ミート・ジュリー・ウィルソン』に感動


「R・J CAFE」のオーディオ。スピーカーはトゥルーソニック206AXA。右がRCA70A




前泊さんが愛用するゴールドムンドのプレーヤー


ジュディ・シルのデビュー盤

●2月×日/ジャズ鑑賞集団Moonksの前泊正人さんの家へ(ステレオ誌の取材)。ゴールドムンドのリニアトラッキング・アーム、ブルメスターのフォノイコライザーなどマニアックなものが並ぶが、やはりこの人はレコード。1万枚も所有していて、東欧のまったく不詳の、しかしかなりヒップなジャズロックなどをかけてもらい、音楽の果てしない大海原を眺望する。
 しかし、よりにもよって前泊さんも「力がある」という理由でモノラル派だった。比率でいえばステレオ3のモノラル7くらいらしい。モノラルって実は想像以上に愛好者が多そう。確かに50~60年代のジャズは、同じタイトルでステレオとモノがあれば、圧倒的にモノの相場が高い。つまり人気があるのだ。
「中古盤が高くなるから、モノラルのことはなるべくそっとしておいて欲しい」と前泊さんは冗談めかして言っていたが、これはモノラル派の総意なのだろう。だからみんな表立って出てこないのかもしれない。

●2月×日/第2回「八重洲“レコード聴きまくり”大会」通称ヤエレコを八重洲Gibson Blands Showroomで実施。前回に登場した新型プレーヤー、ティアックTN-350に加えてオンキヨーCP-1050も加わる。ともに実売5万前後でリーズナブルなのがいい。しかしガチ対決になると音質に差が出てどっちかが可哀相なことになるかもと危惧した。
 しかしティアックはアナログらしく柔らかく、オンキヨーはオーディオ的にカチッとしていて、それぞれ持ち味が出てよかった。メロディ・ガルドーの45回転2枚組『My One And Only Thrill』や『ゴジラ』のサントラなどをかけたが、リアクションが大きかったのは夭折したシンガーソングライター、ジュディ・シルのデビュー盤だった。確かにこれは泣けるのだ。

(2015年3月10日更新) 第74回に戻る 第76回に進む

田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「オーディオ風土記」(DU BOOKS)「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」(SPACE SHOWER BOOKS)がある。

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