コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第76回/デノンPMA-50はなぜ品切れ状態が続くのか [村井裕弥]

 とあるオーディオ機器が大ヒット。店頭はもちろん、ネット上でも品切れ状態が続き、「買いたいけど、買えない!」といった嘆きがあちこちから聞こえてくる。
 その製品の名はPMA-50。型番からすぐデノンのプリ・メインアンプとわかるが、長兄PMA-SXから末弟PMA-390REに至る系列とは、いささか血筋が異なる。PMA-50は、英CSR社が開発したDDFAというデジタルアンプ・デバイスを核にした最先端のD級アンプなのだ。

 DDFAはダイレクト・デジタル・フィードバック・アンプリファイアーの頭文字で、その名の通り、デジタルのダイレクト入力を得意とし、独自のフィードバック技術によって、デジタルアンプが持つ宿命的な問題点をクリア!(96年あたりから起こりつつあった「入口からスピーカー直前まで、すべてデジタルでロスレス伝送」というムーヴメントがようやく現実のものとなる)


 DENON PMA-50

 希望小売68,000円(税抜)という価格は、USB DACオンリーでもかなり格安だが、それに定格出力50W+50W(4Ω)のデジタルアンプとヘッドフォンアンプがただで付いてくると考えれば、買わない理由を探すほうが難しい。ちなみに入力はUSBだけでなく、光デジタル×2、同軸デジタル×1。アナログ音声も1系統。唯一思い付くネガティヴな要素は、価格が安すぎること。「そんな安物、私には関係ない」と思われがちなことくらいだろう。

 実は筆者も最初はそう考えていた。だから1月14日(水)、あくまで「お仕事として」自宅試聴を開始。まずは5センチフルレンジ・ユニットで自作した密閉型を用意した。スッキリとした音は出せるが、低音不足はあきらめるほかない。そう思い込んでいたスピーカー・システムだ。しかしPMA-50で鳴らすと、聴いたことのない低音がモリモリ出てくるではないか!?

 だったら、これはどうだ。8センチフルレンジ・ユニットで自作したバスレフ型。これは明らかな設計ミスで、質の低い低音が常時ボーボーうなる失敗作だ。しばらく鳴らしていなかったが、これをPMA-50で鳴らすと、低域が適度に引き締まって「聞いていられる範囲内」の音になった!!

 最後に、わが家のリファレンス・スピーカー(ルーメンホワイト「ホワイトライト」)も鳴らしてみた。これまで内外様々なアンプで鳴らしてきたが、こんな音は初めて聴いた。やや明るめで、きびきびした音調。パソコンから出力される情報が丸められたり省略されたりせず、そのまま放出される印象。ソースごとの音色の違いやホールのくせなどがとてもわかりやすいが、かといって「いわゆるモニター調」の暴き立て型ではない。

 これが希望小売価格68,000円(税抜)の音!? もちろん、わが家で常用している400万円クラスのパワーアンプをすぐ処分したりはしない。しかし、PMA-50のほうが優っていることも確実にあるのだ(スピーカーが、よりハキハキものを言うようになった感じ)。これはやはりDDFAの能力が極めて高いこと、デノンのまとめ方がうまいことに加え、装置を一体化することによって生じるメリットが想像以上に大きいということだろう(昨年12月に更新されたコラム67にも同じようなことを書いているので、ぜひ再読していただきたい)。

 で、自宅試聴のあと「PMA-50、すごいですよ」とあちこちで語っていたら、英CSR社のほうから「3月7日(土)に開催される試聴会の講師をやってもらえませんか」という依頼がきた。


 Nmode X-PM7

 この試聴会に至るまでの打合せや各種リハーサル、本番でのハプニングについて書くと面白くなりそうなのだが、近くPhile-webに詳細レポートがアップされそうなので、そちらをお読みいただきたい。
 まだ自宅試聴していないが、「Nmodeの1bitデジタルアンプX-PM7の出来が予想をはるかに超えてよい」というウワサもあちこちで聞かれる。ひょっとすると、今年はデジタルアンプ元年?

 世界中のアンプ・メーカーがDDFAを採用し、PMA-50の兄弟がたくさん生まれてくれるとうれしい。もちろんデノンにも、上級機の開発を強く希望する。より強力な電源を搭載する。それをさらに左右に分け、別筐体にする。より強固なシャーシに取り付けるなど、いくらでも手はあるはずだ!

(2015年3月20日更新) 第75回に戻る 第77回に進む

村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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