コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第77回/オーディオの慣らし [鈴木裕]
昔、良く言われたのがクルマの慣らしだ。新車を購入してしばらくはエンジン回転数をある程度抑えめにして走り、徐々に回転を上げていった方が、エンジンだけでなくトランスミッションや車体などもうまく慣らしが出来、そうしたクルマは調子が良くて長持ちもすると。これは都市伝説ではなくて、たとえば自分はオートバイのレースをやっていたので、しょっちゅう新品のエンジンパーツに交換。当りを取ってからエンジン全開にするわけだが、新品のピストンを組んで走り、そのあとに一回エンジンをバラしてピストンを確認すると、ピストン表面の光沢などで慣らしが済んだか済んでいないかがわかったものだ。
オーディオにも慣らしはある。バーン・インと呼ぶ場合もあるし、エージングという言い方が相応しい時もある。日本語で言えば、新品の製品にはまず目覚めがあって、初期の硬さが取れる段階があり、ほぐれ、馴染み、調子が出てきて、使い込み、深みが出て、熟成が進んで、練れてきて、いよいよ絶好調で、魔法のようにスピーカーが歌い、というようなさまざまな段階がある。あるいはエージングが進んだ先には、あるところからその変化は劣化になり、特性が落ちてくるとか、ガタが出るとか、ヘタれてくるなんて言ったりもする。つまり、オーディオがトシを取るのである。
シンプルな構造のケーブルの慣らしを考えると、さまざまなオーディオの慣らしのヒントになるかもしれない。以前読んだ記事だが、音楽信号という電気が導体の中をある程度の時間流れた後にその導体の金属を原子顕微鏡で見ると、分子の並び方がきれいになっているという内容だった。これがまずひとつ。つまり、電気を流す部分に電気を流すということ。
もうひとつは、応力のストレスを取るとか、組んであるパーツどうしの馴染みを良くする、という要素。電源ケーブルなどで当初は梱包されていた状態の曲がりグセが残っている場合が多いが、それがほぐれてきた方が音は素直になるという経験があてはまるかもしれない。長岡鉄男さんがスピーカーケーブルの慣らしのために、スピーカーケーブルで縄跳びをしていた記事を見たことがあるが、あれも曲がりグセを直し、導体と絶縁体、あるいはその絶縁体と被服の馴染みを良くする目的があったようにも思う。
あるいはきつく曲がっていること自体が良くないというのも、オーディオマニア的には常識だ。これはメーカーレベルでも、たとえばDACデバイス、いわゆるDAコンバーターの中心となる集積回路のチップだが、この中の信号経路の引き回しを、直角にするよりもRをつけた曲線的なものにした方が音が良くなるということを設計者が語っていた事実からも肯定できる。 |
うちのオーディオの中では柄も大きいK-03X |
なにしろずっと作動させている。実際にディスクを入れて再生モードにしている時もあるが、さすがにディスクドライブ部は長い目で見れば消耗するはずなので、ミュージックバードのチューナーからのデジタル信号を入れて変換させている時間が長い。こうした時に24時間放送のミュージックバードはありがたい存在だ。出力もアンバランスのRCAとバランスの2番ホットXLR2を切り替えて出力。また、K-03Xにはアップサンプリング(PCM系を2倍、4倍、8倍にしたり、DSD信号に変換してからD/Aコンバートしたり)のモードがあるのでそれを切り替えたり、デジタルフィルターも4つのモードがあるので、こういった要素を適宜変更して作動させている。
ディスク全体リピートのモード 慣らし用のCD(使っていないが) |
問題はどんな音楽を再生させるかだ。 |
さいごに自慢話を。なので書いておいてアレだが、以下は読まないでいただきたい。
そうやってK-03Xの慣らしを一カ月以上続けてきた結果、うちのメインシステムの音はちょっと未踏の領域に入っている。低音も出だしている。寺島靖国さんに聴いていただいた音は過去のものとなってしまった。この一カ月以上に渡る音の変化を聴いて来ると、本当にオーディオって生き物なんだなぁと思う。それが言い過ぎであれば、一般的にみなさんが考えている機械以上の存在であるのは間違いない。工業製品なのに、うちの子(K-03X)とよその子(K-03X)は違う鳴り方をしていると思うのだ。
(2015年3月31日更新) 第76回に戻る 第78回に進む
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