<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第78回/ふたつの新しいジャズ喫茶を訪れてゴキゲンになった3月 [田中伊佐資]
●3月×日/「音ミゾ」に、音楽とオーディオ評論家の嶋護さんが登場。嶋さんといえばステレオサウンドに連載している「嶋護の一枚」。それをまとめた書籍はロングセラーを続けているようだ。自番組・自讃するわけではないが、嶋さんが番組に出るとはまさに画期的なことだろう。
というのも嶋さんはあまり公共の場に出ようとしない。「もしかしたら誰か評論家かライターの変名では?」という説があったほどだ。まあ、あれだけ深く考察した文章を書きながら、名前を伏せる理由はどこにもないのだが。嶋さんにゴーストライター説の話をしたら「そうみたいですねえ」と本人も知っていた。
前編はライ・クーダーの「パリ、テキサス」、リンダ・ロンシュタットの「Por un Amor」、カウント・ベイシーの「I'll Always Be in Love with You」、同じくライ・クーダーの「ダーク・ワズ・ザ・ナイト」が取り上げられ、たった4曲で終了。各曲が長いのではなく、想像したとおり1枚についてどんどん掘り下げていく。テーマはやっぱり音の良さ、録音について。
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嶋護(左) 田中伊佐資(右) (「アナログ・サウンド大爆発!」 5月3日・10日放送予定)
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「渋谷スイング」のRCA70D

モートン・グールドの『Curtain Time』
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リンダの曲はアルバム『Canciones De Mi Padre』 に収録されていて、エンジニアは『スターウォーズ』をはじめメジャーなハリウッド映画をたくさん手掛けているショーン・マーフィー。この人のことは、まったく知りませんでした。
後半のメインはエレクトリック・ライト・オーケストラの「雨にうたれて」をプレス国別で比較試聴。けっこう違いがある。ぼくの好みはアメリカ盤だなと思った。
●3月×日/「アナログ・オーディオふらふらめぐり」(ジャズ批評)で、昨夏に開店した「渋谷スイング」を訪問。個人的にはRCAのギアドライヴ・プレーヤー70D(アメリカABC放送の払い下げ品)が最大のトピックだった。おそらく東日本でギアドライヴが置いてあるジャズ喫茶なんてない。
というか全国を見回しても大阪に2店あるだけだろう。ちなみにそのひとつが天満橋の「R・J CAFE」、そしてもうひとつが、この3月にできたばかりの谷町6丁目駅近く「書斎かふぇ じょうじあん」だ。
「渋谷スイング」のスピーカーはウエスタンの名ドライバー555を軸にして組み上げたホーン型3ウェイ。かかるジャズはスイングやビ・バップが大半だが、エレベーター・ミュージックと呼ばれる、エレベーターやデパートで小さな音で流れているイージー・リスニングのレコードもかなりある。
店主の鈴木興さんは「たとえばこんなの」とモートン・グールドの『カーテン・タイム』をかけた。「ソー・イン・ラヴ」が始まった途端、いたく切ない気分になってマイった。これ、日曜洋画劇場のエンディング・テーマ。つまりぼくはサザエさん症候群を発病しかかったのだ。
●3月×日/「ジャズの巨人」(小学館)で水戸のジャズ喫茶「コルテス」を訪問。ここもオープンしてまだ1年ちょっとという新店だ。オーディオはJBLの超大型4350をマークレビンソンのアンプでマルチ・ドライヴ。でっかいスピーカーをがっつり鳴らすというジャズ喫茶保守本流のスピリットがみなぎっている。
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オーナーとマスターは、今回取材するライターが誰だかはっきり把握してなかったらしく「そろそろジャズ批評でも、取材が来るんじゃないか」とうわさ話をしていた矢先、突然、そっちのライターのぼくが現れて、相当びっくりしていた。後ろのほうの地味なページだけどちゃんと読んでくれていたとは本当にうれしい。
オーナーの伊藤輝彦さんは、高校時代から続いたオーディオ熱が爆発して30歳のときに4350を入手した。しかし引っ越しでいったん手放し、還暦前になって「あの音が忘れられない」と再爆発、店をオープンさせるに当たってこのスピーカーをまた購入した。
でも本当にすごいのは4350もレビンソンでもなく、伊藤さんが奥さんに内緒でこの店を始めたことだ。それって可能なのだろうか。奥さんは怒ったでしょうとそれとなく訊くと「始めちゃったもんだから、もう事後承諾するしかなかったね」と豪快に笑っていた。店もオーディオも奥さんも、すべてにおいて「いいなあ」としかいいようがない。
(2015年4月10日更新) 第77回に戻る 第79回に進む
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「コルテス」のJBL4350
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