コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第80回/世界に殴り込みをかけたスピーカー [鈴木裕]
DIASOUL i |
ダイヤソウル、というブランドをご存じだろうか。今年のアメリカのCESでその第一号のスピーカー、DIASOUL i(ダイヤソウル・アイ)を発表。販売が始まったのが4月16日というまだ生まれたての日本のブランドだ。まずは写真をみてもらうとしよう。実物に接すると意外とコンパクトに感じる。スピーカーに必要なさまざまな技術、音響的な要素、ハイファイのトランスデューサーの要件を考えている人であればいろいろと納得できる形でもある。ごくごく簡単にその概要を紹介しよう。ウェブサイトを先に読んでいただいてもいいのだが詳細すぎる感じもあるので意図的に簡潔に説明する。 |
コンセプトとしてもっとも重要に思えるのは「生の音と再生音の境目をなくすこと」。そのために、3ウェイのユニットの配置や発音するタイミングをコントロールすることによって、「球面波」の再生を目指している。その象徴的な部位がツイーター部だ。 |
ウーファーはデジタルアンプ搭載のアクティブ型 ユニット背面には鋼鉄製重量マスを装着 |
Network Controller NW1 |
その他、ミッドレンジ用ネットワークにはファインメットを採用していたり、スピーカーの内部配線用ケーブルはイギリスのコード社の、脚にはアンダンテ・ラルゴ社製スパイクを使うなど、パーツにもこだわっている。付け加えるならば「Network Controller NW1」はチャンデバ機能だけでなく、低域/高域の周波数特性の補正や、アブソリュートフェイズ切替、ウーファーゲインも設定できる。 |
1979年に三菱電機に入社し、主にアンプ畑を歩いてきた。2007年からはダイヤトーンのカーオーディオのジャンルで開発にたずさわり、目ざましい実績を上げている。非常に高いクォリティのDSPやAVナビ、スピーカーなどを作ってきた。そして、昨年3月に定年退職した後も、テクニカルアドバイザーとしてカーオーディオを開発。同時に「株式会社DIASOUL」を起業し、その第一号の製品が紹介しているDIASOUL iということになる。 |
開発者の寺本浩平氏(左) 鈴木裕(右) |
1969年録音のブーレーズ指揮クリーブランド管の『ストラヴィンスキー:春の祭典』を大音量で再生したものを聴いて、生演奏以上に生々しい音の生命感というか、ヴァイタリティに圧倒された。ものすごく平たく書くと、えらく気合いの入った音である。それはとりもなおさず、開発者の寺本氏の気合いという気もするが、音楽の真実や本当の深み、あるいは深淵や恐ろしさみたいなものさえ感じさせてくれる。技術的にもいろいろと特徴を持っているが、なにより音楽に対する真剣さが尋常じゃないスピーカーであり再生音である。高額な製品なので誰にでも薦められるものではないが、こういう存在があること自体がうれしい。
いやそれにしても(ふだんの呼び方をさせてもらえば)寺本さん、長年勤め上げた会社の退職金(たぶん)でいきなりCESに殴り込みをかけちゃったのだ。そして、数社の製品にしか与えられないBest Sound Showを授賞(Zandenのエレクトロニクスとの組合せに対して)。さらにCESのレビューの最後には「Most Coveted Product: Diasoul i loudspeaker」、つまり、今回の中で最も切望される製品として紹介されており、CESに出展した全ハイエンドスピーカーの中で1位との評価さえ得ている。
痛快だ。痛快すぎる。しかし寺本さんの実力を持ってすればこれもまた驚かない。そんな人なのだ。ただし、ちょっとだけ心配なのはご家族の心情である。そう勘繰られることを察してか、試聴の場には奥様も同席されていた。もうこうなったら行くところまで行っていただきたい。
(2015年4月30日更新) 第79回に戻る 第81回に進む
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