コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第86回/うちのスピーカーについて [鈴木裕]
Thiel CS-7。今となっては日本での正規輸入代理店を持たないのでメーカー名を読めない方もいるかもしれない。ティール。このメーカーのフロアスタンディング型のスピーカーがCS-7で、うちのオーディオの主役だ。1996年6月に購入したので今月で丸20年が経ってしまった。20周年記念ということでその備忘録的なことから、愛憎までここにまとめておきたい。 |
ティールCS-7 同軸のツイーターとミッドハイ |
CS-7の内部。底板から上部を見上げたアングル。上がらがバッフル板。ウーファーユニットがわずかに見えるが、マグネットの後部が横方向に渡された厚さ2インチのブレースにくっついているのがみえる。 |
これがこのスピーカーの特徴的な低域を生み出す要因となっているようだ。なぜならばティールの他の大型スピーカーではバッフルにコンクリートを採用せず、ウーファーのセンターロックボルト方式も持たず、具体的に書けばCS-5、CS-5i、CS-6、そしてうちのスピーカーの後継機種であるCS-7.2は、もっと量感タイプの穏やかな低音だったからだ。エンクロージャー自体は1インチ厚のMDF。実際に見ると内部のブレースは2インチ厚ある。そのせいか重量は91.2kgという、スリムなトール・ボーイタイプとしては意外と重たいスピーカーである。 |
さて、ここからこのスピーカーの鳴らしにくさを列挙する。 |
センターにロックボルトを持つウーファー 塗装付きのウェーブガイドを持ったミッドロー |
底板に収まりきらず背板にまで装着されたパッシブネットワーク |
その4はパッシブネットワークのパーツ点数の多さだ。これは写真を見ていただきたいが、6dB/octなのにインピーダンス特性の補正のためのパーツが異常に多い。4ウェイであることを勘案しても多すぎる。回路的にネットワークが重いのだ。 |
逆に音楽ライターとしてはすごく楽をさせてもらっている。うちで鳴っているままに書けば、ミュージシャンからは「よくそこまでわかりますね」とか「聴きこんでますね」(実際は一回半くらいしか聴いていないのに)と言われ、読者からも「そういうことなんですね」と納得されるのだ。オーディオライターとしても、システム全体として敏感にしてあるので各種オーディオアクセサリー類のテストも楽ちんである。レースで勝つ王道は、セッティングの出た速いマシンを無理せず走らせてゴールラインまで運ぶ感覚だが、それに近いことをやっている気がする。
どんな音かを一応客観的に書くと、よく見える音だと感じている。音場がどうで、音像が立体的でといったことを書いたりしゃべったりしているが、音を聴いている感じがしないスピーカーだ。そこに音楽があるし、演奏者がいる。ソフトによっては部屋の壁や床、天井よりも音場の実在感のが強い時もある。また、特に低域方向にワイドレンジなので、ソフトに含まれた暗騒音なのか、実際に家の近くにトラックが来たのか聞きわけられず、プレーヤーをポーズにして確認してみることもしばしばだ。音としては聴こえない低音の意味を良く感じさせてくれる存在でもある。付帯音が少なく、立ち上がりがきちんと見えてくる低音。ちなみにメーカー発表の再生周波数帯域としては23Hz~18kHz(-3dB)。こんなスペックでもハイレゾの音源を問題なく楽しめていることを強調しておく。誰かが考えた「±10dB@40kHz」というハイレゾ対応スピーカーの規定には正式に反対しておきたい。
いつまでCS-7を鳴らしているのか。今となってはユニットを壊したら修理も効かないし、次のスピーカーのことを漠然と考えたりはしている。ブランド名で書けば、YGアコースティック、マジコ、ディナウディオ、モレルあたり。どれもインピーダンスも能率も低く、YGとマジコはメタルの振動板で剛直なエンクロージャーという、結局、CS-7の延長上でしかないのは自分でもちょっと呆れるところ。この3ブランドに限らず、個人的にいいと思うスピーカーが低能率で低インピーダンスばかりなのはいかがなものか。決して性悪女好きではないつもりだが。結局、メタルの振動板、剛直なエンクロージャー、低能率、低インピーダンスといったことが気にならないうちはそうそう買い換えないのだろう。だいたいハネムーンまで16年もかかったのだ。もうしばらくはイチャイチャしていたいではないか。
(2015年6月30日更新) 第85回に戻る 第87回に進む
コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」バックナンバー