コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第87回/相も変わらずレコードの秘境に踏み込んで、また一段と面白くなってきた6月 [田中伊佐資]






●6月×日/大阪出張。おそらく、というか間違いなく、オールマン・ブラザース・バンド 『フィルモア・イースト・ライヴ』に関する世界一のコレクター伊藤良哉さんを訪ねる。なにが世界一かといえば、このアルバムをこれほど持っている人は絶対にいない。
 レコードならプレス時期、プレス工場別に90セット(2枚組なので)近くも集めている。アメリカの工場だけでも東海岸、中部、西海岸など6種類もある。「台湾盤が意外と音がいい」とか信じられない情報を伊藤さんはたくさん持っている。ほかにCDやらカセットテープ、オープンリール、8トラックなどなどざっと50セット。
 レコードを床に広げて並べたら、これぞ絶景にして奇観。そしていったいどの盤の音がいいのだろうというのがテーマ。詳しくはステレオ誌の9月号「ヴィニジャン ~アナログの壺~」にて。



『フィルモア・イースト・ライヴ』
オールマン・ブラザース・バンド




大阪「書斎かふぇ じょうじあん」の蔵書

●6月×日/以前から行ってみたかった「書斎かふぇ じょうじあん」へ行く。地下鉄谷町6丁目駅・地上出口から徒歩10秒ほどで土地勘のないぼくには助かる。
 RCAのギアドライヴ・プレーヤーが目的だったが、書斎カフェの名の通り、豪壮な蔵書に圧倒される。新古今和歌集、谷崎潤一郎全集もあれば、音楽やオーディオの本も多数ある。すべて店主の私物でオーディオも同様。
 スピーカーは店名の由来となるジョージアン600。ゆったりと『ミス・テディ・キング』を聴きながらコーヒーを飲みパラパラと本でもめくっていると高校時代を思い出した。ジャズ喫茶で激しく尖ったやつを浴び、古びたジャズ雑誌をむさぼり読んでいるうちにその日が終わる毎日だった。この店は、その大人版といったところかな。流れている時間のギアがローに入った。いいですね。





●6月×日/大阪に行くと必ず寄る「Record & Audio Store BUNJIN」でエラックのMMステレオ・カートリッジSTS-222を借りる。針圧が4とか5gでもいけるという。ぼくはそこにひどく惹かれ、ほんとなら「買った」と書きたいところだが、「うちはモノラル専門店なので、どうせ売れませんから、ちょっと聴いてみてください」という店長の厚意に甘え、借りることになった。
 スピーカーを通さず、針をレコードにただ走らせているだけでシャンシャンと音楽が聴こえる。これは軽針圧と違うなと思ったら、やっぱり中高域の張り出しがすごい。そのためか低音がへこんで聴こえる。調べてみると針と本体カートリッジには相性があるみたいで、ぱっと一発でナイス・カップルになることは、まれみたいだ。といっても他の要因も考えられるのでアナログまわりの調整が続く。ロックやジャズのステレオ盤を聴くには、60年代の重針圧カートリッジがよさそう。また新しいアナログ探索の道ができてしまった。

 



エラックのカートリッジSTS-222

●6月×日/BS日テレの「Lifeサプリ~かしこくなるTV~」の取材を受ける。タイトルは「音の楽しみ方大特集!」ということだが、内容的には「ハイレゾ対レコード」対決。レコード派としてマニア宅の道楽ぶりをオンエアしたかったようだ。でも残念ながらぼくはレコードを何千枚も持っていないし、しかも分散して置いてあるので、ずらっとレコードを並べた光景がなくて申し訳ない感じ。
 撮影は3時間以上かかり、VPIのレコードクリーナー実演とかいろいろやったけど、全部カットで、出演時間は1分ほどか。まあよくある話。「レコードって炭焼き料理みたいなもので、手間はかかるし面倒くさいし、盤によってバラツキもあるけど、うまく再生するとぶっちぎりで旨い。デジタル音楽はハイテク調理器で管理された料理」みたいな雑談をしていたら、そこを使われた。熱く語っていたところはボツでした。これもよくある話です。

●6月×日/音元出版の「電源&アクセサリー大全2016」の取材でターンテーブル・シートを20枚以上連続で試聴。そりゃシートによって音が変わることぐらいわかっていたけど、けっこう顕著にそれぞれの個性が出た。
 レコード再生は、リード線はもちろんネジに至るまで細かなアクセサリーをうまいことマッチングさせると、バカ高いカートリッジは要らない。野に咲いている花だろうと品がいい花瓶に入れて、上品な部屋に置けば、プライスレスになる。そんな感じがする。

(2015年7月10日更新) 第86回に戻る 第88回に進む 

田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「オーディオ風土記」(DU BOOKS)「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」(SPACE SHOWER BOOKS)がある。

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