コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第90回/何でもよく鳴るオーディオ・システムは、実は何にも鳴っていない気がした7月 [田中伊佐資]






●7月×日/東京・八重洲の「Gibson Brands Showroom TOKYO」にて、ヤエレコ(八重洲レコード聴きまくり大会)パート4。ライフワークになってきたヤエレコだが、相方のdiskunionJazzTOKYO生島店長によると「そろそろ直球で大名盤のオリジナルをかけてくれ」というリクエストが来ているらしい。確かに「買い物ブギー」とか「サンダーバードのテーマ」とか変化球を投げすぎていたきらいがあった。お客さんは、いまさら名盤なんて聴きたくないだろうと早とちりしていたのは確かで、ビートルズの『ラバー・ソウル』ラウド・カットとかレッド・ツェッペリンIIの英盤・米盤オリジ比較などをかけてみた。
 ぼくが一番感動したのは、生島さんがかけたソニー・ロリンズ『ニュークスタイム』のオリジナル。サックスをはじめ全楽器が無遠慮にぶっとく前へのさばってきた。さすがはウン万円だなと脱帽。

●7月×日/ヤエレコがはねてから、音ミゾにも出演してくれたことがあるVintage Joinのキヨトマモルさんがやっているレコード・イベントに合流。場所は清澄白河の「ジンジャー・ドット・トーキョー」。キヨトさんはスピーカー1本のモノラル・システムで60~70年代の名盤からキワモノまで黙々とかけまくっていた。



ソニー・ロリンズの『ニュークスタイム』




ジンジャー・ドット・トーキョーで行われたレコード・イベントのシステム

 客席には音ミゾに出てもらった方々がゾロリといた。「洋楽日本盤のレコード・デザイン」の著者植村和紀さん、ATCO盤コレクター磯部優さん、ライト・メロウ盤の波多野寛昭さん。ほかにも濃密なレコード臭をぷんぷん発散させているマニアがいて、自分の体臭がいかに希薄であることに気付く。
 オーディオはエラックのプレーヤーにデノンのDL102、キヨトさんのオリジナル・アンプ、そしてスピーカーがバウアーのポータブル型フルレンジ・スピーカー。このシステムがモノ盤のオイシイ中域を見事に捉えて客席に向けて放射する。バウアーはギターアンプみたいなデザインで、後面開放。25cmくらいのフルレンジが一発ぽんとただ入っているだけ。レンジは狭く、およそハイファイ・サウンドとはまったく無縁の音。しかし、この演奏すごいなあ、この声いいなあと思わせる。みんなもこの音にまいっている様子だった。音楽と原音忠実再生の関係っていったい何なんだろうね。音楽を何でも聴いているというやつほど、本質を何も聴いていないという説があるが、何でもよく鳴るオーディオ・システムは、実は何にも鳴っていない気すらしてきた。

●7月×日/BIGLOBE会員情報誌「サーイ・イサラ」の取材を受ける。「レコード復権 今再びアナログ・サウンドの小宇宙に浸る」という特集を組むので、ぜひそのあたりの魅力について語って欲しいとのこと。
 ハイレゾなんてまったく好きになれないとオーディオ業界関係者にあるまじき発言を繰り返していたら、レコードについて取材を受けることがいきなり増えてきた。オーディオのあらゆることをやっていますという人は、実はなにもやっていない‥‥とはいいませんが、なんの因果かそういう依頼や仕事が来るもんだ。もちろんハイレゾの仕事はまったく来ませんので、差し引きでいえば、マイナスってところですけどね。まあ、やりたくないことやってもしょうがないので。
 特集担当の奥村準朗さんとはすでにヤエレコで会っている。音楽もオーディオも好きみたいだったので、実はこんなのありますと案内したら、わざわざ来てくれたのだ。「モノラルってこんなにすごいとは思わなかった」という感想がうれしい。
 そんなことなので、取材というより知人がふらっと来てレコードをかけてお喋りをしたという流れでしかなく、「小宇宙に浸る」なんて大きな話になっていないはず。どんな風にまとめたのだろう。
 数日後「極私的音盤大全」という思いっきり大がかりなタイトルで、好きなレコード10枚にコメントをくださいという依頼がきた。永遠の中高ロック(中学~高校で聴いたロック)を選ぶ。

●7月×日/「中山康樹さんを偲ぶ会」に参加。その昔、ぼくがスイングジャーナルに入ったときは、すでに中山さんは会社を辞めていて、すれ違いのまま接点は何年間もなかった。ある日、四谷の「いーぐる」で会って、軽く挨拶したことがあり、どういう弾みか当時月刊PLAYBOYの音楽特集を監修していた中山さんは、小さな記事を書かせてくれた。それがきっかけで集英社絡みの仕事はちょこちょこやらせてもらえるようになり、また違う出版社にもつながった。だからたいへんな恩がある。
 偲ぶ会では、中山さんの著作目録を頂戴して、そこに掲載してあった百何十冊もの表紙を見て、桁外れの人だったんだなとあらためて思った。
 中山さんとの仕事は、ローリング・ストーンズを聴くイベントを一緒にやったことが、印象深い。

(2015年8月11日更新) 第89回に戻る 第91回に進む 

田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「オーディオ風土記」(DU BOOKS)「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」(SPACE SHOWER BOOKS)がある。

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