コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第94回/厳選・太鼓判ハイレゾ音源を聴いてみた[村井裕弥]

 e-onkyoのサイトに「厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!」というコラムが掲載されている。著者は、ミュージックバード火曜日の番組「いい音って何だろう?」のパーソナリティ西野正和氏。いや、オーディオ愛好家の皆様には、「レゾナンス・チップの西野氏」「レクスト(REQST)の西野氏」といったほうが通りがよいかもしれない。
「アルミなどの小片を、オーディオ機器や壁に貼り付けることによって、音質改善をはかる」という手法は、製品化から17年を経て、ほぼ市民権を得たといってよかろう。いまでは、チップに留まらず、各種ケーブルやディフューザーをも開発する、オーディオ・アクセサリー界の一勢力となっている。
 その西野氏が、9月16日(水)Gibson Brands Showroom Tokyoでイベントを開催するのだと聞いた。予告には、「コラムで取り上げた太鼓判ハイレゾ音源を実際に聴くことができる」とある。これはもう行くしかあるまい!


9/16 Gibson Brands Showroom Tokyoでイベントが開催された


オンキヨーP-3000R


オンキヨーM-5000R


オンキヨーD-77NE

 Gibson Brands Showroom Tokyoは、オンキヨー八重洲ビルの2階。1階から吹き抜けになっている、かなりオープンな空間だ。壁にはGibsonのお宝ギターがズラリ。筆者は開場前に着いたが、すでに多くのオーディオ愛好家たちが集結。いつもながら西野氏の集客力には脱帽するしかない。
 デモに用いられた機器を簡単に紹介しておこう。

・プリアンプ:オンキヨーP-3000R(194,400円 税込)
・パワーアンプ:オンキヨーM-5000R(280,800円 税込)
・スピーカーシステム:オンキヨーD-77NE(378,000円 ペア税込)

 ただし、いずれもレゾナンス・チップやレクスト社製ケーブルによる独自チューンが施されている。  音源(音楽データ)は、西野氏の手元にあるノートパソコンからUSB出力。コルグDS-DAC-10(オープン価格)などを経て、プリアンプP-3000Rに導かれる。

 この夜かかった音源について、簡単に紹介しよう。

①桜井哲夫『Nothin' but the Bass』から「オフ・ザ・ウォール」キングレコード
 元カシオペアのベーシスト桜井哲夫が、伸び盛りのベーシストKenKen(金子賢輔)と競演。「オフ・ザ・ウォール」はいうまでもなく、マイケル・ジャクソンのヒット曲だ。右から聞こえるのが桜井、左から聞こえるのがKenKen。エレキベースに無縁な筆者が聴いても、その違いは明らか(音色も、奏法もまるっきり異なる)で、メモ帳には「ハイレゾとは度の合ったメガネのようなものかも」と走り書きが。
 オンキヨーD-77NEは、西野氏によるチョイスであると聞いたが、彼がこのスピーカーを選んだわけも、ほんの数秒で理解することができた。今はやりの16~20センチ・ウーファーでは、この力強さを伝えることはできなかったに違いない。

②反田恭平『リスト』から「ラ・カンパネラ」DENON
 筆者も推奨している音源。「ホロヴィッツが恋したピアノ」CD75(おおよそ100年前に作られたニューヨーク・スタインウェイ)の「らしさ」を、これほど忠実にとらえた録音はおそらく初めて。西野氏は「まるでハープシコードのような音。知らないで聴くと、EQで加工したと勘違いしてしまう」と評していたが、本当にこういう音が出る超個性的な個体なのだ。

③アルフレッド・ブレンデル『Mozart: Fantasia in C Minor, K.396; Piano Sonatas』よりK.281 デッカ
 2004年6月から7月にかけてウィーンで収録された音源。このときブレンデルはすでに70歳を超えていたが、3番と17番は初録音。翌年暮れに引退したから、「最後にたどり着いた境地」と呼んでもよいのではないか。フィリップス・レーベルであったせいか、現在ディスクは入手困難(そういう意味でも配信大歓迎)。密度感の高さとウッディな薫り。落ち着いた大人の世界だ。反田恭平の対極に位置する音楽だが、「西野氏がブレンデル好き」というのは実に興味深い。


①桜井哲夫『Nothin' but the Bass』

②反田恭平『リスト』

③アルフレッド・ブレンデル『Mozart: Fantasia in C Minor, K.396; Piano Sonatas』


④オスカー・ピーターソン・トリオ『We Get Requests』

⑤渡辺香津美『トチカ(TO CHI KA)』

⑥山崎まさよし『ROSE PERIOD ~ the BEST 2005-2015 ~』

⑦岩崎宏美『二重唱(デュエット)』

④オスカー・ピーターソン・トリオ『We Get Requests』より「Quiet Nights Of Quiet Stars (Corcovado)」Verve
 LP時代から、オーディオ愛好家の間で重宝がられた「低音チェック用ソフト」の定番。「なんだ、それ」という方も、邦題『プリーズ・リクエスト』ならご存じだろう。かつては6曲目「You Look Good To Me」がよく使われたが、西野氏はあえて1曲目をチョイス。筆者宅で聴くと、ピアノが主でベースは従。しかし、D-77NEが放つベース音は、ピアノを明らかに圧倒している。いや、もちろん何かで低域を持ち上げたとか、そんなレベルの再生音ではない!!

⑤渡辺香津美『トチカ(TO CHI KA)』より「ユニコーン」日本コロムビア
 西野氏のお気に入り、マーカス・ミラーが参加した1980年作品。まずはCDのリッピング音源がかかり、そのあと2種のハイレゾ音源がかかった。「ハイレゾだからといって、すべてが当たりではない」という当たり前のことを教えてくれた。

⑥山崎まさよし『ROSE PERIOD ~ the BEST 2005-2015 ~』より「僕らは静かに消えていく」オフィス オーガスタ
 西野氏がマスタリング・エンジニアから預かってきたCDのマスターとハイレゾ音源を比較試聴。さすが、第一線超一級エンジニアのお仕事だけあって、CDという(いまでは狭くなってしまった)器に、必要な情報を巧みに盛り付けているのがわかる。しかし、その直後、出来のよい96kHz24bit(同じエンジニアがマスタリングしたもの)を聴くと、音像の張り・こく・間接音の味わい深さなどで差を付けられる。声のウェット感・立体感・より明瞭な歌詞も魅力的だ。歌が盛り上がるところで、バックが埋没しないあたりも聴きものだ。

⑦岩崎宏美『二重唱(デュエット)』VICTOR STUDIO HD-Sound.
 これも、西野氏が用意した2種のハイレゾ音源を聴き比べた。「マスタリングによる違いを聴き比べる」というのは、オーディオ評論家の重要な仕事のひとつだが、ここまで差が付くことは珍しい。ハイレゾの器が大きければ大きいほど、マスタリングによる差も大きくなる。そういうことなのかも知れない。

 ここまで聴いて、残り時間は20分くらいであったか。締めには、レクストの電源ケーブルvs他社製電源ケーブルの比較試聴がおこなわれた。西野氏は解説や感想を、一切口にしなかったが、多くの参加者が驚愕。それが証拠に、終了後西野氏は多くの参加者に取り囲まれ、30分以上も質問攻めにあっていた。

 それを見ながら筆者は「ああ、いいイベントだったなあ」と、場の空気にひたっていた。オンキヨーの機器がその能力を100%発揮していたし、ハイレゾ音源ならではの魅力を堪能することもできた。「CDが駄目で、ハイレゾならなんでも素晴らしい」というような流れでもなかった。何より、参加者たちが皆しあわせそうなお顔をしていた。
 こういうイベント、2か月置きくらいにあってもいいんじゃないか? そんなことを考えつつ帰路に着いた。

(2015年9月20日更新) 第93回に戻る 第95回に進む

村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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