コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第96回/なんでオレなんだ!?と大きな疑問を抱いた9月 [田中伊佐資]






●9月×日/代官山「山羊に、聞く?」で「ピーター・バラカンが語る“いい音楽を楽しむ方法”」というイベントに寄る。これはオーディオのメーカーや輸入代理店が協賛して機器を揃え、バラカンさんがチョイスしたディスクをかけまくるという催しだ。鈴木裕さんや音元出版の浅田さんもいた。
 ある意味、オーディオ振興促進イベントではあるが、オーディオショウのイベントみたいに水を打ったような静けさのなかで授業を聴講するムードは一切ない。バラカン・ファンがどっと集まり、みんなてんでにガヤガヤやっている。後ろのほうで不謹慎なほど踊り出すやつもいた。音楽を楽しむという点で、このムードはよかった。その反面、みなさんオーディオにさほど興味があるふうでもなく、オーディオをプロモするイベントの難しさを知る。まあ、どこかの誰かに小さな種が蒔かれたと考えるべきなんでしょう。
 かかった音楽では、久々に聴いたロバート・パーマーの『スニーキン・サリー・スルー・ジ・アリー』冒頭のメドレー3連発はやっぱよいなあとしびれた。



日本コロムビアのカッティング・マシンはノイマンVMS70

●9月×日/ステレオサウンドは雑誌だけでなく、ここ数年はディスクの販売にも力を入れていて、遂にレコード制作にも着手した。その第一弾がテレサ・テンのベスト盤と小椋佳72年のミリオンセラー盤『彷徨』だ。
 そのライナーノートを書いてくださいと原田知幸社長から直々に依頼を受ける。「ステレオサウンド」「アナログ音盤」などの錚錚たる執筆陣を差しおいて、なんでまたオレなの、しかもそっち系はまるで詳しくないのにといった大きな疑問は残ったが「世界1本のマスターテープから、日本コロムビアで行ったカッティングの話をメインに」ということなので、喜んでお引き受けすることにした。
 美空ひばりからラウドネスまでも手掛け、ここ10年で日本コロムビアの8割のレコードをカッティングしているチーフ・エンジニアの武沢茂さんの話はいたく興味深かった。





レコード・コレクターズ2015年11月号

 新品まっさらのラッカー盤とカッティング針には相性があり、針先をサファイアにするかルビーにするか、同じサファイアでも個体差があり、その切れ味や相性で音が変わるという。これはまさにアナログの世界。
 同じタイトルのアメリカ・プレスでも工場によって音が違うことが最近の旬な話題ですという話をすると「そりゃまあ、そうでしょうね」とさして驚くに値しないという感じだった。エンジニアが切ったラッカー盤は3段階のメッキ処理が行われ、そこからやっとレコードがプレスされるわけだから、そのやり方次第で音が変わるのは当たり前のことなのだ。
 テレサ・テン、小椋佳の両盤は11月には発売されることでしょう。武沢さんもプレスの東洋化成も耳が肥えたオーディオ・ファンが聴くとあって、極限までこだわり抜いて作っている。音は抜群にいい。
『彷徨』は当時のオリジナル盤と比べてみたけど、今回の複刻盤のほうがはるかにずっと肉厚な深みがあった。本当に同じマスターなのかと疑いたくなるほどだ。

●9月×日/レコード・コレクターズで連載されている「大鷹俊一のレコード・コレクター紳士録」の取材を受ける。
 毎号毎号、レコード・コレクションの鬼が登場するこのコーナーに自分が顔を出すなんて、おこがましいのもいいところ。なんでオレなんだ。といいいますか、恥を知れという感じ。系統を立ててレコードを集めているわけではないし、総枚数だって少ない。だいたい掲載に値する輝かしいブツを持っていない。
 しかし編集長の佐藤有紀さんから「オーディオ機材を絡めたレコードの音質についてはどうですか」と言われ、その手があったかとついつい応じてしまった。


 なにせレココレは82年の創刊号から現在まで買い続けていて、ぼくにとってはモーレツに愛着があることも後ろ押しになった。初めて寄稿したときもうれしかったけど、読者として登場するのもなかなか気分のよいことではある。コレクションしょぼいのはバツが悪いけど、ここで断ったらもうこの話はこないだろう。
 懸案となっていたブツ撮影は、肉を寄せ集めてブラの中に収めるかのように、音がいいプロモ盤のありったけ並べて、なんとかしのいだ。
 大鷹さんにはニール・ヤングの『ハーヴェスト』やクラブトンの『E.C.ワズ・ヒア』を聴いてもらった。なにを語ったのかよく憶えていないが、掲載は11月号のキース・リチャーズが表紙のやつです。

 

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田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「オーディオ風土記」(DU BOOKS)「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」(SPACE SHOWER BOOKS)がある。

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