<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第99回/小さいスピーカー、大きいスピーカー、どっちもよかった10月 [田中伊佐資]
●10月×日/7月に続いて八重洲レコード聴きまくり大会(ヤエレコ)のパート4を実施(「Gibson Brands Showroom TOKYO」にて)。トピックはふたつ。ひとつがティアックのスピーカーS-300NEO-SPをメインで使用したこと。13cmの同軸ユニットを用いた小型モデルで、ペアでだいたい実勢4万円台。何十人もお客さんが入るような広いスペースで鳴らすスピーカーではないから、アンプも含めてどこまで頑張った音を出せるかがポイント。オーディオのイベントはとかく最高(大型)機器によってお客さんに「あっ」と驚かすのが常道だから、これって逆なのだ。役不足ではなく役過剰である。
会の冒頭で「せっかく来ていただいて、スピーカーを見てちょっとがっかりしちゃった方もいるかもしれませんが」などと機材を貸し出してくれているティアックの加藤さんがすぐそこにいるのに、つい正直な気持ちをお客さんに伝えてしまった。最初に言い訳しておこうという魂胆だったのだが、いやいやその必要はなかった。サブウーファーの下支えがあったけど、意外や意外、かなり奮闘してくれたのである。
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八重洲レコード聴きまくり大会(ヤエレコ)の模様
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ハーフスピードでカッティングしたMCA Records Audiophileシリーズのスティーリー・ダン 『ガウチョ』
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生ギターのソロとか音圧的に負担が少なそうなソースかけると、かえって弱みを見せないようにしているなと思われるので、ここは拷問のようにジャコ・パストリアス・ビッグ・バンドの『ツインズ』のホール・ライヴをかけてみたら、ちゃんとテンションの高い演奏を再生した。
そしてもうひとつのトピックが、カートリッジのリードワイヤーの聴き比べ。先々月にも書いた専門工房KS-Remasta代表、柄沢伸吾さんに来てもらい、同一カートリッジでリードワイヤーのグレードをどんどん上げて聴いていく。レコードはMCA Records Audiophileシリーズのスティーリー・ダン 『ガウチョ』。
お客さんへ事前に訊いてみたところ、ほとんどの人が「リードワイヤーの取り替えはやったことがない」ということだったので、これにはエッというぐらいの反応があった。結果としてはやっぱり、柄沢さんが線材やハンダに凝って丁寧に磨きをかけた上級モデルがいい音だった。イベント終了後も柄沢さんには質問が相次いだ。なんでこれっぽっちのリード線で、という思いが皆あったんじゃないかなと思う。
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●10月×日/ヤエレコの相方、ディスクユニオンJazzTOKYO生島店長の家を訪問。以前うかがったことがあったが、6月にJBLパラゴンが入ったという話を聞きつけ、ステレオ誌の取材でお邪魔する。
オーディオルームは8畳だが、遮音壁を装備し壁一面にレコード棚を設けたので実質6畳くらいしかない。そのスペースにパラゴンがどっかと座っていた。生島さんは「まだコンニチハ程度の音」と謙遜していたが、パラゴンにありがちな高域の糞詰まりもなく、比類なき骨太な音には脱帽だった。
またパラゴンは、センターの湾曲した板材が共鳴板のように響く。だから生ギター、ピアノ、ウッドベースなど木材を使った楽器が本当に生々しい。これだけで気に入っちゃいましたよね、と生島さんはめろめろになっていた。
●10月×日/今年の12月中旬に刊行を予定している「新宿ピットインの50年」(河出書房新社)の執筆と編集がいよいよ佳境に入る。新宿ピットインは12月24日で開業してちょうど50年を迎える。それを記念した本だが、インタビューや対談に登場してもらったジャズ・ミュージシャンは多く、50年の歴史を振り返る年表も膨大な量で、なかなか骨が折れる作業になった。
表紙のデザインは20年もの付き合いがある結城亨さんにいつものようにお願いした。手前みそですが、すごく格好いいと思います。
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「新宿ピットインの50年」(河出書房新社) 12月25日発売
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(2015年11月10日更新)
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