毎週日曜11時から13時まで、全国のコミュニティFM(一部地域を除く)を結んで放送している地域SDGs情報バラエティ『ロコラバ』。今回は2023年8月6日放送の『地域人』のコーナーから、宮城県で藻類のパワーを活用する取り組みを紹介します。
地球温暖化、海洋汚染などの環境変化により、私たちの「食」に関する深刻な問題が増えてきています。「人口に対してタンパク質の需要と供給のバランスが崩れる」とされるタンパク質危機問題もその一つ。30年以内に起こるという予想もあり、昆虫食や大豆フードなどが代替食として見かけるようになりました。
そんな中、新たなスーパーフードとして業界内で期待されているのが、藻の一種「ナンノクロロプシス」。宮城県石巻市を拠点とする「イービス藻類産業研究所」では、世界最高峰の技術でナンノクロロプシスの研究・培養を続けています。栄養価が高く、地球にも優しい“食の救世主”として期待される「ナンノクロロプシス」が、私たちの食卓に並ぶ日も近いかもしれません。
今回は、同研究所の仙台事務所 所長・後藤 博史(ごとう・ひろふみ)さんにお話を伺いました。
――後藤さんは宮城県出身です。 微細藻類の仕事で、17年間ほどイスラエルにいたこともありました。東日本大震災を機に故郷の宮城に戻り、現在も微細藻類事業に携わっています。後藤さん、 イスラエルにいらしたんですか。
イスラエルは微細藻類という分野で世界有数の技術立国なので、長く滞在していました。
――なぜ、藻類に着目したのですか。
藻は、自然界に30万種以上存在すると言われています。食物連鎖の起点として地球上の生命を支えている存在です。その中には極限状態で生存できる種がいます。たとえば、イスラエルにある死海は塩分濃度が飽和状態なので、生命体は存在できないと言われている環境です。ですが、その中でも生きている藻がいるんです。
なぜかと言うと、体内に極限環境でも生き延びるための成分を保持しているからなんです。「その成分を有効に活用すれば、医療開発にも役立つかもしれない」ということで、イスラエルでは研究が進められています。藻は我々の想像をはるかに超えるパワーを内包しているんですよね。 藻に触れるたびに驚かされ、魅了されたことが現在の仕事に繋がっていると思います。
――研究されている「ナンノクロロプシス」について教えてください。
まず、舌を噛みそうな名前ですよね(笑)
――なかなかの喋り手泣かせです(笑)
通称ナンノと呼ばれる、海洋性の植物プランクトンです。直径約2から5ミクロンという小ささで、肉眼で見ることはできません。特色としてはビタミン、ミネラルなど61種類の豊富な栄養素を持っています。またオメガ3と呼ばれる不飽和脂肪酸、EPA(エイコサペンタエン酸)をたくさん含んでおり、人々の健康増進に役立つ素材であると言えます。
このEPAは藻から抽出して純度を高めていくと、 医薬品の原料になるんです。実際に動脈硬化症や高脂血症の薬として売られています。現在、EPAのオイルは魚油から取られているのですが、近い将来、魚の資源がどんどん枯渇していくと言われています。ナンノは、その代替品の第一候補として注目されているんです。近い将来、医薬品としてナンノが日常でも目に留まるようになるのではと思っています。
――健康サプリに入っている要素が、豊富に含まれているんですね。
また、ナンノは植物プランクトンですから光合成をします。大気中の二酸化炭素を吸収してくれるんですよ。生産すればするほど、使えば使うほど健康増進にも役立つし、同時に地球環境にも貢献してくれることになります。
――ナンノは、どのように摂取するといいのでしょう。
原料粉末という形で展開しています。緑色の粉末状のものを利用し、 プロテインやサプリメントなどとして売られています。小麦粉や米粉などと合わせてパンを焼くと、しっとり感、もちもち感が出ますよ。
私は毎朝、味噌汁に小さじ1杯程度の粉末を入れて飲んでいますが、あおさを入れたような味になります。青のりの代わりに使うこともあります。
――味や香りがあるんですね。
かすかに磯の香りがしますね。
――現在働かれている研究所は、東日本大震災の被害を大きく受けた場所だそうですが、それでもここで研究を続けている理由は?
ナンノを培養するのに最も適した環境が、宮城県石巻市の三陸沖だったんです。非常にいい海水の温度や養分があります。東日本の中では日射量も多いことも大きな理由です。
震災で大きなダメージを受けた石巻市で新しいもの産業を起こし、雇用も含めて地域のまちおこしに貢献できたらなと思っています。
――最後に、リスナーの皆さんにメッセージをお願いします。
「ナンノクロロプシス」は長いので、ナンノを頭の片隅に入れていただければと思います。 石巻市を発信基点として、藻が日常に触れる世界をつくっていきたいと思っています。
――ナンノ、取り入れてみたいと思います。後藤さん、ありがとうございました!
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文・構成=池田アユリ
編集 = ロコラバ編集部