長崎の茶碗蒸しはどんぶりサイズ! 江戸時代からのレシピが味わえる「銀座 𠮷宗」

2022.5.23 | Author: 天谷窓大
長崎の茶碗蒸しはどんぶりサイズ! 江戸時代からのレシピが味わえる「銀座 𠮷宗」

全国のコミュニティFMをネットしてお送りするラジオ番組『ロコラバ』。12時台にお送りしている「東京ロコラバ・ランチ」では、「東京で“ふるさと”をいただく」をテーマに、全国各地のご当地グルメが集まる東京で味わえる“ふるさと”をご紹介しています。今回は「銀座𠮷宗(ぎんざ・よっそう)」にお伺いし、長崎県長崎市のソウルフード「茶碗蒸し」を体験。全国的に親しまれる茶碗蒸しが“ご当地グルメ”というのは意外な話ですが、出てきた一品を見て、その理由に思わず納得してしまいました。

お椀にたっぷりの出汁と具材。その姿はなんとも美味しそうな茶碗蒸し。でも、その姿は一見、ふだんから全国的に食べられている茶碗蒸しと大きな違いはなさそうに見えます。

長崎の茶碗蒸し、普通の茶碗蒸しと何が違うのでしょうか?

同じく長崎名物の皿うどんと並べてみましょう。

あれ? 茶碗蒸し、大きい・・・・・・?? 同じく並んだれんげはミニサイズではなく、一般的なサイズです。

そう、長崎の茶碗蒸しは、その大きさが特長。

一般的な茶碗蒸しに使われる湯飲みサイズの茶碗は直径7cmほどですが、長崎の茶碗蒸しが入る茶碗は、その倍近い直径12cm。身近なサイズで例えるならば、牛丼のどんぶりくらいある茶碗になみなみと入っています。

日本料理として全国的に定着している茶碗蒸しですが、その発祥は、実は長崎県。海産物が豊富な土地柄に加え、地元で働く漁師の人々が仕事の合間に素早く食事を楽しめるようにと作られた、“ファストフード”なのです。

 

茶碗蒸しに感動した一人の武士が江戸時代に創業

高層ビルが立ちならぶJR新橋駅から徒歩3分、「KK線」の通称で親しまれる東京高速道路の橋脚下に立つショッピングセンター「銀座ナイン」の地下にある「銀座𠮷宗」。お店の名前は、創業者・吉田宗吉信武さんの名にちなんでいます。

「𠮷宗」という字からは「よしむね」という読み方を想像しますが、実際の読みは「よっそう」。

「当時は将軍・徳川吉宗公がいましたからね。そのまま『よしむね』でかぶせることはさすがの先代も遠慮したのかもしれません」(吉田さん)

伊予松山(現在の愛媛県)藩士であった吉田宗吉信武さんは、当時“肥前”の国であった長崎県で茶碗蒸しに出会い、その味に感動。商人への転身を決め、慶応2(1866)年に「𠮷宗総本店」を創業しました。

その「𠮷宗総本店」の東京支店として昭和45年に創業したのが「銀座𠮷宗」。総本店の看板料理であった茶碗蒸しを継承しつつ、本店にはなかった「皿うどん」もメニューに加えて人気を博し、「銀座の和食と言えば、長崎料理の銀座𠮷宗」と、長きにわたって銀座のビジネスマンに親しまれてきました。

その後、2019年にいったん閉店するも、熱烈な声や関係者の支援を得て、2021年秋に現在の銀座ナインへ移転し、再開店。現在も150年前の創業当時と変わらないレシピで、茶碗蒸しを作り続けています。

 

口の中でスープになる! 150年続く伝統レシピ

茶碗蒸し(税込950円)(撮影 天谷窓大)

削り節と利尻昆布の出汁に溶き卵をあわせ、焼き穴子、カレイ、ギンナン、タケノコ、巻きかまぼこを2枚。さらにキクラゲ、シイタケ、大山鶏もも肉、麩──。一杯の茶碗蒸しの中には、実に9種類10個にもおよぶ具材がたっぷりと詰まっています。これらはたんなる具材でなく、出汁と一緒に蒸されることによって旨味のエキスを出し、茶碗蒸しの味を織りなす重要な役割を担っています。

「茶碗蒸しの味は、具材同士の絶妙なバランスで成り立っています。材料ひとつ変えても、材料の下ごしらえの手順をひとつ変えても同じ味になりません。たとえば焼き穴子を生の穴子にしては、この味は出ないのです。なのでレシピは150年間、ずっと変えていません」(吉田さん)

プルプルと細かく波打つ表面にれんげをそっと差し入れると、たちどころにホロホロと卵が溶け、中からキラキラと光り輝く出汁があらわれます。そのまま口に運ぶと、最後のホロホロがパッとほどけ、サラリとした食感のスープに変身。あまりに一瞬の、そして鮮やかな移ろいに、思わず「えっ」と声を上げてしまいます。まさに舌ざわりも含めて優雅なひとときを味わえます。

 

皿うどんを食べながら、長崎のユニークすぎる「かまぼこ文化」を知る

今回は、茶碗蒸しとともに「銀座𠮷宗」の看板メニューである皿うどんも堪能させていただきました。吉田さんいわく、「皿うどんの餡も、茶碗蒸しの具材も中身はほぼ同じ」とのことですが、いずれも使われているかまぼこは、長崎産にこだわっているそう。

「長崎のかまぼこはいわゆる『板かまぼこ』ではなく、ナルトのような『棒かまぼこ』が主流なんです。茶碗蒸しの巻きかまぼこは、大正時代から石臼練りで作り続ける長崎新地『石橋蒲鉾店』のものを、皿うどんのかまぼこは、長崎市麹屋(こうじや)町にある 『井手蒲鉾店』のものを使用しています」(吉田さん)

魚介類が豊富である背景から、かまぼこを始めとする練り物産業が発展したという長崎。地元で食べられるかまぼこには、一般的なイメージを大きく打ち破るものもあるそうで・・・・・・。

「ゲソがそのまま入ったかまぼこや、ちゃんぽんの具材がそのまま入った『ちゃんぽん天』というかまぼこもあるんですよ。長崎では、串に刺したかまぼこを名物として出しているところもあって、文字通り『食べ歩き』をする人もいます」(吉田さん)

串に刺したかまぼこ・・・・・。「板かまぼこ」のイメージからは想像がつきませんが、その光景はたしかに楽しそう。父親が長崎出身という番組プロデューサーいわく、「例えるならば、魚肉ソーセージくらいの手軽な感じ」だそう。なるほど! イメージがわきました!

茶碗蒸ししかり、かまぼこしかり。全国にひろく浸透した食材でも地域によって、もはや別の食べ物レベルに独自の発展を遂げていることもあるのですね。ローカルめし、知れば知るほど、知らないことがいっぱい出てきます。

 

■銀座𠮷宗(ぎんざ・よっそう)
JR・東京メトロ「新橋」駅 汐留口から徒歩5分
平日昼/11:30~14:30
平日夜/17:00~21:00 (LO 20:30)
土曜日昼/11:00~14:30
土曜日夜/17:00~20:30(LO20:00)
定休日:日曜日、 夏期・年末年始など施設休館日
03-6274-6002

取材・文 = 天谷窓大
撮影(一部除く) = ロコラバ編集部(株式会社トランジットデザイン)
企画 = ロコラバ編集部(株式会社トランジットデザイン)

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