静岡県浜松市・FMHaro!が取り組む、災害時に向けた“情報網作り”とは

2022.3.27 | Author: 天谷窓大
静岡県浜松市・FMHaro!が取り組む、災害時に向けた“情報網作り”とは

静岡県浜松市とその周辺をサービスエリアに放送を行うコミュニティFM 、浜松エフエム放送(FM Haro!)。1994年、市民のメディア設立運動をきっかけに、地元自治体や企業の出資によって設立され、県域局と差別化を図った特色ある番組作りで支持を集めています。

 

開局以来、FM Haro!が力を入れているのが、災害時における報道体制の整備です。東海地震の予想震源域である駿河湾に面し、南海トラフ地震でも最大14.8m(※1)の津波が予想されることを踏まえ、地域との情報ネットワーク作りに注力。地道な取り組みが功を奏し、2018年夏に発生した豪雨災害では大きな役割を発揮しました。

 

(※1)出典:浜松市ウェブサイト「災害に関する豆知識(地震編)

 

ネットワーク作りをはじめ、FM Haro!が日常から取り組む防災への備えとは。いま感じている課題と、その解決に向けた道筋について、浜松エフエム放送株式会社 代表取締役社長の久田五海さんに伺いました。

東海地方のコミュニティFM30局でネットワークを構築。市民からの情報網も整備

――地上高212.77mにのぼる「浜松アクトタワー」屋上に送信所を構え、広大な放送エリアを持つFM Haro!は、浜松市を含む静岡県遠州地域、隣接する愛知県三河地域においても防災メディアとして高い期待が寄せられる存在です。これまでに行ってきたものもふくめ、具体的に行ってきた防災への取り組みの内容を教えてください。

久田さん:放送を継続するための取り組みとして、浜松アクトタワーの送信所には1週間程度の連続稼働に耐える非常用電源を設置しています。速報面においては、放送への緊急割り込みシステムをいち早く導入し、災害時にも迅速に情報を伝える仕組みを整えています。

浜松エフエム放送株式会社 代表取締役社長の久田五海さん

 

――ハード面の整備もさることながら、ソフト面での取り組みにも大変注力されていると伺いました。

久田さん:FM Haro!が幹事となり、東海地方4県(静岡、愛知、岐阜、三重)のコミュニティFM30局を結んだネットワークを構築しています。非常時には加盟局間で技術面、人材面を補完しあうほか、中部電力や東京電力など、東海地方のライフラインを担う企業とも協定を結び、災害時に復旧情報を迅速に伝える体制を敷いています。

2019年に愛知県美浜町で行われた総合防災訓練では、実際にこのネットワークを活かし、臨時災害放送局(※2)の開設訓練を行いました。

FM Haro!単体では、地元のアマチュア無線局(※3)とネットワークを結び、災害発生時に情報提供を受けられるようにしているほか、浜松市最大規模の祭りである「浜松まつり」に参加する、市内200〜300の自治会とも連絡を取り合える体制を築いています。

(※2)臨時災害放送局:地震や洪水などの大規模災害時、地域の被害軽減を目的として自治体が設置する臨時のFMラジオ放送局
(※3)アマチュア無線局:総務省より免許を受け、個人的、技術的な興味関心のもとに通信を行う無線局。任意の個人や企業、団体によって開設される

 

2018年豪雨、FMHaro!がたどり着いた「災害放送の基本」

――2018年、中部をふくむ多くの地域が豪雨災害に見舞われました。浜松市も大きな被害を受け、FMHaro!では災害報道を行ったとのことですが、具体的にどのような対応を行ったのでしょうか。

 久田さん:FM Haro!では9月30日から10月5日までの6日間、24時間体制の災害報道を行いました。かねてより構築していたネットワークを駆使し、停電や給水情報のほか、細かなところでは携帯電話の充電ができる場所の情報、ブルーシートなど被災ごみの収集情報、入浴できる施設の情報や、中部電力による電気の復旧情報などを伝えました。

 

――情報を伝えるにあたり、注意した点はありますか。

 久田さん:情報を簡潔に伝えるため、1回あたりの5〜10分の単位としました。さらに途中から放送を聴き始めた方が居る可能性も考慮して、同じ情報を繰り返し伝える形をとりました。さらに注意したのは、復旧に関する情報を伝える際、「まだ復旧していない側の立場にたって放送する」ということです。

――具体的には、どういうことでしょう?

久田さん:復旧作業が進むにつれ、「○○の電気が復旧した」といった情報が次々寄せられます。ひとつひとつはとても良い知らせですが、いつも通り使えるようになった当事者にとって、その情報はすでに必要ありません。復旧情報を伝える際は、ライフラインがまだ復旧していない方に時間を割き、「復旧作業のめどが立っているのか」「いつごろから再び使えるようになるのか」という“未来の情報”を重点的に伝えました。

――たしかに、これは実際に当事者の立場にならなければ、なかなか見えないことですね。

久田さん:街全体でいっきにライフラインが復旧するとは限りません。今回の豪雨でも、道1本をはさんだ向こう側の街区はまだ復旧していない、という状況が珍しくありませんでした。災害放送の基本と言えばそれまでですが、「まだ災害から復旧していない人々にとって必要な情報を伝える」ことが大事なのだということをあらためて認識させられました。

 

災害時、精神的な支えとなるために必要なこと

――豪雨災害を踏まえ、地元コミュニティFMとしてどのようなことを感じましたか。

 久田さん:いまはとにかく、愚直に街中のあらゆる場所、人のもとへ常日頃から足を運びつづけ、知見を広めて関係性をひとつひとつ築き上げていくしかないと感じました。

災害時にはこのように情報を伝えるべきだ、という理想こそあるものの、すべてシミュレーション通りに運ぶということなどありえません。そのつど新たな課題に直面するという状況は、今後も変わらないでしょう。防災においてはハードウェアを用いた課題解決が模索されがちですが、それ以上に感じたのはソフトウェア、精神的な支えとなる存在の重要性です。

「究極の非日常」である災害に対し、いかに危機意識を高めていくか──。地元コミュニティFMとして市民のみなさんに伝えていくためにも、日ごろから“そばにいる”ことを意識しなければならないと痛感しました。

 

――今後の取り組みに向けた思いを教えてください。

 久田さん:人を助けるためには、まず自分自身がしっかりと自立しなければなりません。市民のみなさんに防災を呼びかけ、行政に要請をする以前に、私たちがしっかりとした意思と運営基盤を持つこともまた、防災に対する備えであると考えています。

何事にしても、私たちが本気であることを見せられなければ、真の連携は生まれません。おかげさまで、防災ネットワークの整備はかなり進みつつありますが、いまでも遅いと考えます。これからも更なるスピード感をもって取り組んでいきたいと思います。

【FM Haro!概要】

社名:浜松エフエム放送株式会社
ステーション名:FM Haro! (Hamamatsu active real operationの略 )
周波数:76.1MHz
所在地:〒430-0933 静岡県浜松市中区鍛冶町100-1 ザザシティ浜松 中央館4階
ホームページ: https://www.fmharo.co.jp/

文 = 天谷窓大

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